優しく抱き潰して@



「ふあぁ〜眠い。」

木漏れ日の差す大学の講義室。
大抵一番後ろの席に座る私はそのまま机に伏せって軽く目を閉じた。
三秒で寝付けるな…なんて思いながらも昨夜の実弥との行為を思い出しては頬が緩んだ。

「なんかいい事あったの?」

カタンと隣に座る音とソプラノボイスに誰が来たのかすぐに分かって私は顔だけをそっちに向き直した。くるくるパーマをかけたハルがオンザな前髪をパッチン止めしながらニッコリと笑う。
その奥、黄色い髪の毛の杏寿郎くんが静かに座った。
そしてハルとは反対側、私の左横に座り込むのは大好きな恋人、実弥。

「なんだ?いい事あったのかァ?」

ポスッて実弥が柔らかく私の頭を撫でてハルに便乗したからくるりとまた反転して体ごと実弥の方を向くと当たり前に目が合った。

「昨日の実弥思い出してたんだよー!」

ニマッて笑うと「バカがァ!タコ!」ポカッて撫でていた手をグーにして軽く殴るけど痛くなんてないもん。私の言葉に耳まで真っ赤になってる実弥が可愛くて胸がキュンと音を立てる。

「な、なんだぁ。てかゆき乃、めっちゃ惚気けるー!めちゃくちゃハートが飛んでるよー。羨ましい。」
「羨ましいのか?ハルは。」
「そりゃ羨ましいよー。なんか付き合いたての初々しさとか半端ないし。ゆき乃が不死川くん好きなのもずっと知ってたしさぁ。」

後ろでハルと杏寿郎くんがガヤガヤ言っている事もごめん、気にならない。
そこに実弥がいたら、実弥しか目に入らなくて。
真っ赤な実弥の頬に手を添えると自然と視線が降りてくる。

「だーいすき、実弥。」
「うるせぇこと言ってんなァ、バカがァ。」

そんな風に突き放しても実弥が照れてるだけだって分かってるから怖くなんてない。
人前でなんて絶対イチャイチャしないんだろう実弥の愛を独り占めできている事が、めちゃくちゃ嬉しいんだもん。

「言いたいたいんだもん。実弥見てると好きが溢れてきちゃうの。」
「黙っとけ、」

口を実弥の大きな手が緩く塞ぐから、そこにチュっと口付けるとまた真っ赤になってその手を引っ込めた。

「たく、調子狂う、お前といると。」

さすがに堪えきれなくなったのか、体ごと私に背を向けた実弥はそのまま肘をついてあっちを向いてしまった。
だからその肘に腕を絡めてギュッと抱きつく。

「ね、今夜も実弥の部屋行ってもいい?」
「…好きにしろォ。」

なんだかんだで私に甘い実弥が大好き。





深夜遅く、実弥が玄関の鍵を開けて帰ってきた。
ここは、不死川邸のリビング。今日は看護師をしている実弥のお母さんが夜勤の為、私が代わりに弟妹の面倒をかってでた。
玄弥くんはもう高校生だから一緒にご飯を作ったりしてくれて、お母さんや実弥がいない時は玄弥くん作るって言ってたから手際も良い。

ジーンズのポケットからスマホと財布を出した実弥は、ソファーに座って待っていた私の隣に座った。

「お帰り、実弥!」
「おう、今日も悪いな、面倒かけちまって。」
「面倒だなんて思ってないよー。みんな可愛いくていい子だし、楽しい!あ、カレー食べる?実弥の分も残ってるけど、」

そう言って立ち上がろうとする私の腕を掴んでそのままソファーに組み伏せられる。
トクンと胸が高鳴って見上げた先、実弥が「先にお前食わせろォ、」なんてちょっと笑って近づいてきた。

「ゆき乃はデザートじゃないの?」
「今は前菜だ、」

唇を指でなぞった実弥が迷うことなく舌を絡めるから身体の奥が熱く疼いた。
ギシッとソファーが軋む音と、服が擦れる音。シーンとした部屋の中、壁に掛かった時計の針がカチカチと鳴り響く中、唇が触れ合う音、舌が絡まる甘い音が交差していて「ンッ、」小さく漏れた声に実弥のキスが激しくなった。

「ンッ、実弥ッ、」

首の後ろに腕を廻して実弥の身体に巻き付くと実弥の手が私のトレーナー下、背中のホックを外す。
そのままトレーナーを捲りあげてブラを邪魔そうに退かすと、舌先でちゅと吸い上げられて「アンッ、」甘い声が漏れる。

「ンぅー実弥ぃ、好き。」
「馬鹿、煽んなァ、」
「いや、好き。大好き…。実弥は好き?」

愛し合ってる時ぐらい言ってくれるかなぁ?と思って毎回聞くと「…あァ、好きだ。」5回に1回は言ってくれるようになった。
その後めちゃくちゃ照れていつも顔伏せちゃうかキスで誤魔化すけれど、それも実弥の愛情表現なんだって思うと全部が愛おしいんだ。


「兄貴、帰ったのか?」

だけれど、不意に聞こえたそんな声に慌てて実弥が私のトレーナーをずり下げた。完全にソファーの上で私に覆いかぶさっていた実弥が振り返って「玄弥、待て!」言うものの、リビングのドアを開けて真っ赤な顔した玄弥くんが「あ、悪い!!帰ったならいい。お、おやすみ!」バタンと閉めた。
ゆっくりと身体を起こした実弥は、私の乱れた髪を優しく整えてくれる。

「…近くにアパートでも探すかなぁ。したらゆき乃も来やすいだろ。」

小さく呟いた実弥の声にパチリと瞬きをした。

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