どっちがズルい?

A級3位風間隊アタッカー菊地原士郎。
彼のサイドエフェクトは教化聴覚であって決して心根までがみえる訳では無い。

「いやだから分かんないから…」
「なんでよー!こんなにこんなに心の中で叫んでるのにぃ」

珍しく個人戦に参加していた菊地原くんを見つけた私は10回勝負を3回して、3回とも完敗だった。
2戦目は6-5だったから惜しかったなぁと思いながらも、やっぱりA級3位は強いと改めて思う。
風間さんのようにカメレオンで姿を消されて、見えた!と思った時にはもう真後ろからスコーピオンで真っ二つに切り裂かれてしまう。というか、女の子相手に真っ二つはしないよね、普通。

「百歩譲って菊地原くんになら真っ二つにされても仕方ないけどさぁ」
「…何の話?」

シラケた視線を寄越してパックのバナナジュースをチューチューとストローで吸い上げながらも私を見る彼は面倒そうに帰り支度を終えて駆け寄った私に視線を向けた。
2人でボーダー本部から一歩外に出ると辺りはもう真っ暗だ。

「寒っ。ねぇ待って!雪降ってる!!ねぇ嘘、ホワイトクリスマス!これって運命!?菊地原くんっ!」

煩いなぁ…って顔で視線を空に移す菊地原くんは私の言葉に顰めっ面を返す。

「クリスマスじゃないし今日。だから運命でもない」
「違う違う!初雪だよ!知ってる?韓国だと初雪が降ると好きな人に逢いに行くの!二人で初雪を見れたカップルは幸せになれるんだって!ね、ね、運命でしょ、私たち!」

私の言葉に菊地原くんは一瞬目を見開いた後、いつものシレッとした表情に戻って無言で目を逸らした。
そもそも私と菊地原くんは付き合っているわけでない。というか菊地原くんは他人に興味が無い。男女問わず。でも風間さんの事だけは尊敬しているみたいで、風間さんへの愚痴は菊地原くんの前では口にしちゃいけない。基本無口で誰に対しても毒づいている菊地原くんは風間隊以外でサシで喋るのは玉狛のメガネくんと、それから私ぐらいだった。私に関しては粘り勝ちというか、ひたすら菊地原くんに話しかけてやっとこうして対等に話してくれるまでに至ったんだけれど。

「ねー菊地原くーん。ちょっと遠回りして帰ろうよ」

早足で歩く菊地原くんの腕を掴んでぐいっと引き寄せる。せっかくの初雪で腕組んで歩けたら最高に幸せだって思う私はその心のままに行動すると、ギョッとした顔で菊地原くんが私を見た。でも腕はそのまま振り払われることなく。

「なに言ってんの。寒いから早く帰るよ。それに俺今日誕生日だし、」
「えっ!?」
「え?なに?ちょっと近いよ」
「誕生日なの!?菊地原くん!」
「そうだよ。だから悪いけど帰るよ」

そんな大事なこと、もっと早く教えてよ!
それより何よりプレゼントなんて用意してないじゃん。
ギュッと握っている腕に力を込める。

「ちゃんとお祝いしたかったな、菊地原くんの誕生日。プレゼントもケーキも準備したかったよぉ」
「は?なんで泣きそうなの?うざ、やめてよそーゆーの。別にたかが誕生日ぐらいで一々落ち込まないでよね、ほんとに」

菊地原くんからしたら迷惑なのかもしれないけど、好きな人の生まれた日は、やっぱりお祝いしたかった。

「女心が分かってなくても私は菊地原くんが好きだよ」
「はっ!?急になにっ、…そーゆーのいらないから」

照れているのか呆れているのか菊地原くんは無愛想だけれど、好きって言葉をこうして彼に伝えるのは初めてじゃない。それをちゃんとした好きと捉えてくれているのかは不明だけれど、私の発信する好きはいつだって愛情たっぷりの好き。

「あのね菊地原くん。likeじゃなくてloveの好きだからね。何度も言ってるけど最初から全部、loveの好きだよ菊地原くんのこと」
「馬鹿じゃないのっ!」

言葉と共にバサッと腕を振り上げた菊地原くんに、等々私は繋がっていた腕を振り解かれた。ちぇー。そんなに拒否らなくてもいいのに…そう思って空の雪に視線を移した。グレーな雲からはサラサラと落ちてくる白雪が地面を濡らしては消えてゆく。車道を走る車がキラキラと眩しく菊地原くんの色素の薄い綺麗な髪を照らしていて見惚れそう。
仕方がない、菊地原くんのお誕生日はまた日を改めてお祝いしよう!そう思い直しまた菊地原くんの隣に行き、凝りもせず彼の腕を引っ張った。

「一ノ瀬さん…」
「菊地原く、」

引っ張ったはずの腕は逆に菊地原くんの腕に掴まれていて。なんなら菊地原くんに引き寄せられるみたいにスローモーションで私の背中に腕を回した菊地原くんは、目の前でほんの一瞬止まると「プレゼント貰うよ」そう告げると目を閉じたんだ。

へ?え?ぇぇえええ!!!!
瞬き3回すると、菊地原くんはスッと離れて顔ごと逸らされた。でもそこにはあきらかに残っている菊地原くんの唇の感触と、温い吐息。
待って今、キスした!?
無意識で離れていこうとする菊地原くんの腕をギュッと掴む。いや、その腕に巻き付くかのように抱きついた。

「ズルい菊地原くん。反則だよぉ…」
「ズルいのはどっちだよ。あんま可愛いこと言うなよ。1回じゃ足りなくなるから…」

好きだと言葉にした私と、好きと言わずに答えるようにキスをした菊地原くん。
そして今ーーーー

「やっぱり菊地原くんがズルい。だってそんなの私も一緒だもん。もっと欲しいよ…」
「だからそーゆーの、可愛すぎるから、…ゆき乃のがズルいよ、」

菊地原くんの瞳がまた目の前で閉じられる。
初雪のジンクスはある意味本当なのかもしれない。
それからしばらくはそんなバカップルみたいな会話とキスが続いた私と菊地原くんは、次の日2人揃って風邪を引いて、ボーダーのみんなにすこぶる怪しまれるなんて。
それでも幸せな瞬間は、2人だけの秘密にしておこうと思う。


-fin-
今日、好きになりました♡