はぁ…と吐く吐息は真っ白で、気温の低さに耳が痛くなる。
「どーりで寒いわけだ、雪…ですね、ゆき乃先輩」
地元のスーパーでのバイト仲間である鳥丸くんは、ボーダーのA級でオールラウンダーという神的なポジションで、それでいてモサッとした男前だった。鳥丸くんから繰り出す声はなんていうか、癒やし効果な音波でも出ているのか、聞き心地が良くて、私はその声を聞くのがとても好きだった。
いやまぁ、声だけじゃないんだけどね、好きなのは。みんなに分け隔てなく優しくていざって時はとても頼りになって、真顔で冗談を言うこの鳥丸くんが好きで好きでたまらない。
「ほんとだぁー。これって初雪?」
そっと掌を空に向ければ、大粒の粉雪がポタ、ポタ…と、落ちてはゆっくりと溶けていく。今夜は東京でも大雪警報が出ていたっけ。
そういえば誰かに聞いたことがある。初雪を好きな人と一緒に見れると、幸せになれる…なんて。そんな子供じみたジンクスを信じているわけではない。でも、今ならちょっとだけそのジンクスって奴に乗っかりたい気分だった。
「ですね。知ってます?初雪のジンクス」
「ーーー!!!」
嘘私、心の声漏れてた!?ドキリと胸を弾ませながら鳥丸くんを見ると真面目な顔でしとしと降り積もる雪を眺めている。その立ち姿があまりに綺麗で、なんならご飯3杯はいけるわ!なんて地味に思いながらも、目が離せなくて。
「好きな人と一緒に見ると、幸せになれるみたいですよ、初雪って…」
ふわりと鳥丸くんの腕が伸びてきて、私の前髪にかかった雪を手で退かしてくれる。その瞬間、馬鹿みたいに心拍数があがって全身の血液が顔に集中するのが分かった。絶対真っ赤になってると思うけど、鳥丸くんからやっぱり目が離せなくて…
「騙されないよ、もう。そーゆうのは本当に好きな人に言ってよねー。私だってこんなロマンチックな雰囲気に流されたくなっちゃうんだから」
精一杯強がってそう言うと、鳥丸くんは見たことないような顔で優しく微笑んだ。またその笑顔に胸が締め付けられるようにトクンと小さく音を立てた。
早く嘘だって言ってよ。心臓持たないよ。完全に視線を泳がせる私の頬に、鳥丸くんの手がほんのりと触れる。
「いやさすがに俺もこんな時に冗談は言いませんよ。相手がゆき乃先輩だし、嘘だと思われたら困ります」
…ーーどゆこと?
なにごと?は?え?えええええっ!!!?
物凄い眉間にシワを寄せた困り顔をしているであろう私をフッと笑う鳥丸くんは、スッと私の手を取ってそれを自分のジャンパーのポケットにしまい込んだ。当たり前にガン見する私を見て若干呆れたような笑顔を覗かせた。
「まぁいつもあんだけ嘘ばっか言ってたら信じてくれないかもですが、ゆき乃先輩が好きな事は真実なんで安心してください」
「…うん、え、安心?」
「だってゆき乃先輩、俺のこと好きですよね?」
シレッと大事なことを言ってのける鳥丸くん。そのポーカーフェイスは崩せぬままだ。でも見つけてしまった、彼のもっさりヘアーの下に隠れている耳が真っ赤になっていること。ほんのり首を傾げた瞬間に見えたその真っ赤な耳が、堪らなく可愛くて愛おしいんだ。
「教えないっ!」
そう言って私は鳥丸くんに身体を寄せると、頭の上から「いやバレてるんで…」なんてきっときっと照れた顔でそう言ったであろう彼の優しい声が届いた。
初雪のジンクス、大あり!