01歪んだ愛情表現

 プライベートにおいて、面倒な事は勘弁して欲しいと思っているのに、どうも俺は自分の好きな女には甘いらしい。

 目の前でギャン泣きしている彼女ゆき乃は、B級2位の影浦隊のアタッカーで俺の恋人だ。彼女たちのチームのランク戦の解説だった俺は、同じく解説者である加古隊の加古に、1日遅れのバレンタインチョコを貰ったから、ちょうど小腹も空いていたしその場で遠慮なく頂いた。
 二宮隊、影浦隊、東隊、それぞれエースを残しての時間切れ作戦で終わりを迎えたランク戦。ゆき乃はNo.1シューター二宮に勇敢にも立ち向かったけれどあと一歩の所で勝てずにベイルアウトだった。それでも俺は普段彼女が人知れず努力をしている事も知っているし、二宮隊と戦う事を楽しみにしていた事も知っていた。結果として負けてしまったものの、ナイスガッツだと後でこっそり褒めてやる気だった。どの道今日はチームで反省会やらで、影浦の店に行くものだと思っていた俺は、風間隊作戦室で、チームメイトとの時間を過ごしていたんだった。
 そこに突然現れたゆき乃は、俺の顔を見るなり泣き出して、何事か?と作戦室のソファーに座らせると、更にギャンギャンと泣き喚き散らす。耳を押さえて物凄い顔で菊地原が出て行き、歌川と三上も何かを察したのかいつの間にかこの作戦室には俺とゆき乃の二人きり。そろそろ泣いてる理由を知りたいところである。

「なにをそんなに泣いているんだゆき乃。理由を話せ」

 肩に腕を乗せると瞬時にそれを振り払われる。さすがにそんな事されるような覚えはないのだが、ゆき乃を見る限り、俺に対して怒っているように思えた。

「触んないでっ、浮気者ッ」
「は?」

 浮気者?どういうことだ?
 怪訝にゆき乃を見つめるが、真っ赤な瞳でボロボロ涙を零すだけで、その先を言葉にしてはくれない。脳内で考えてはみるが浮気をした覚えはない。

「ゆき乃、いったいなんのこと、」
「加古さんにチョコ貰ってすぐに食べたんでしょ、蒼也!貰わないでよ、ゆき乃以外の人から!」

 …キョトンとゆき乃を見つめる俺はほんのり顔を顰めた。ゆき乃の言う通り確かに先程そんな事があったけど、そんなのはお互いに社交辞令であって、浮気でもなんでもない。加古にその気があるわけでもないし、俺にもそんな気はサラサラない。何もやましい事などないから堂々と貰って食ったんだが、それがこのギャン泣きの理由なんだろうか?

「一応聞くが、お前が泣いているのは今の加古の事が原因か?」

 コクリと頷くゆき乃に何とも複雑な想いを覚えた。なんて面倒な女なんだろうかと。義理チョコを貰うことすら許せないゆき乃が、心底面倒だと思うのに、それすら今の俺には可愛く見えてしまう。そんなくだらない事でこんなにも泣いてしまうゆき乃がどうにもツボで、フッと鼻から息が漏れるように俺は口端を緩めた。
 こんな我儘な女とはこの先続かないだろうなんて本気で思う。何かあるごとに束縛されるかもしれない。そう思うのに、目の前で義理チョコを食べた俺を怒って泣いてるゆき乃がどうしようもなく愛おしいなんて。誰かにお前の目は節穴か?と言われたらそうなのかもしれない。だが、こーゆうのは、理屈じゃない。現に俺は、こんな歪んだ愛情表現をしてくるゆき乃を可愛いと思わずにはいられないなんて。ふぅ〜と息を吐き出すと俺はもう一度ゆき乃の肩に手を乗せる。今度は振り払うことなく視線を俺に向けた。

「馬鹿かお前は。あの場で断ったら空気が悪くなるだけだし、別に加古も俺も意味なんてないだろうが。俺が欲しいと思うのは、ゆき乃のチョコだけだ。浮気なんてするわけがない。もっと俺を信じろ」

 言いながらゆき乃の背中に腕を回して開いた膝の上に乗せると真っ赤な顔で俺を見下ろした。そろりと遠慮がちに俺の首に腕を回すゆき乃の頬を指で拭って涙を拭く。鼻水ズルズル吸い上げてヒイックヒイックと言っているゆき乃がどうにも可愛く、このまま俺だけのものにしたい。こんな我儘で可愛い女は、ゆき乃だけだろう。
 恋愛において嫉妬なんて感情があるものか?と疑った事もあったが、心底好きになると、そんな感情も生まれるもんなのかと、俺はゆき乃の頭を撫でた。

「安心しろ。ゆき乃しか見えていない。好きだと思うのも、抱きしめてやりたいのも、俺にはゆき乃だけだ」
「蒼也ぁッ…」
「なんだ」
「うう、名前呼んだだけ。ゆき乃だけってほんと?嘘じゃない?」
「あぁ嘘じゃない、本当だ。だからもう泣くな。そんなに泣いているとブスになるぞ」
「は、絶対イヤ、ブスになんてなったらそれこそ蒼也に、」

 もう黙れという意味を込めて、喋り途中のゆき乃の言葉ごと塞いだ。もし本当にブスになっても俺はゆき乃から離れられないんだと思えた。これがいわゆる、惚れた弱みって奴なんだろうか。俺の首に腕を回して舌を絡ませるゆき乃が愛おしくてつい手が制服の上から胸の膨らみに触れる。まぁ無意識の領域なんだろう。ゆき乃を抱きしめてキスをしたら、その次へと進ませたくなるのは男の性だろう。

「んう蒼也ぁッ…ここでしちゃう?」

 耳朶を甘噛みするように唇でハムッと食すように舐めるゆき乃に、下半身が無駄にビクリと反応する。―――がしかしだ。風間隊の隊長としてこの神聖なるボーダー本部の作戦室の一角でゆき乃を抱くなんてことは、許されない。イエスと首を縦に振ってしまいたい気持ちを押さえて俺はそっとゆき乃を膝の上から降ろした。キシッとソファーが軋む音がして、ゆき乃の柔らかい赤みがかった髪がソファーに落ちる。イエスもノーも言うことなく俺はそのままゆき乃に覆いかぶさって床ドンならぬ、ソファードンでゆき乃の視線を独り占めする。

「こんなところでできるわけないだろうが、」
「ムゥ。ゆき乃我慢できない…」
「こら。煽るんじゃない。帰ったら嫌ってほどしてやるから」
「ほんと?」
「あぁ約束する」
「ふふ。分かった。じゃあもう一回キスしてぇ」
「一回だけだぞ」

 なんて言いながらも、キスを止められないのはゆき乃じゃなくて俺の方なんだろうと思えた。甘くて柔らかいゆき乃の唇に自分のを重ねると自然と俺の身体が熱を帯びてくる。カアッと熱くなる身体でゆき乃を思いっきり抱きしめながら、あと少し…あと少し…を何度も繰り返して、唇が真っ赤になるぐらいキスをした―――


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