01春よ来い

 どんな人が好き?なんて聞かれると、ありきたりだけれど優しい人と答えてきた。そもそも好きになる人がどんな人かなんて自分でも分かっていない。ただ、この人いいなぁ、いい人そうだなぁ〜となんとなく思うのは決まって優しい人だった。
 だから、高校にあがってすぐ仲良くなったこの二人の言動が明らかにおかしいと思えたけど黙っていた。

「そういや昨日本部でたまたま迅さんに会って、やっぱめちゃくちゃかっこよかったぁ〜!まぁ蒼也には負けるけど」

 B級2位の影浦隊のアタッカーゆき乃。影浦隊長と並んでフロントを張るだけあってちょこまか動き回るスコーピオンと、風間さん直伝だって言ってるカメレオン奇襲で、だいたいの人は真っ二つにされてしまう。そんなゆき乃は言っちゃえばミーハーで、断トツA級3位の風間隊長が好きだと言いながらも、イケメンに目がなく、男受けもいいのを分かってか、よくよく男に話しかけられている。そんなゆき乃が玉狛支部の迅さんがめっちゃカッコいいって言っていて、その隣、美月も同じように頷いてみせる。

「迅さん来るだけでなんてゆーか、明るくなるよね!スナイパーの訓練室にも顔出して欲しいよー!と言いつつ、ざわついてたから大物でもきてるんだって見に行っちゃったー!!」

 へへってリスみたいに白い歯を見せて笑う美月は、同じクラスの隠岐くんが大のお気に入りらしく、隠岐くん以外の男には隙だらけだった。それを隠岐くんはいつもソワソワしながら見ている事をわたしは知っている。
 元々2年間本部生駒隊のオペレーターだったわたしは、生駒隊の事ならだいたいの事は喋らずとも心が読めた。これってわたしのサイドエフェクト?なんて思えるくらい生駒隊はわたしの想像通りに動いてくれる。その後忍田本部長の手伝いで玉狛に異動したあとも本部に呼ばれる事も増えて、今は月の半分は本部で業務をするようになっていた。
 今日もこの後お昼で早退して本部での業務の手伝いに呼ばれている。高校2年のわたし達は、ボーダー隊員をやりながら、しっかりと青春を謳歌しようとしているのである。

「大規模侵攻の打ち合わせだったみたいだけど、迅さんに会えてラッキーだったぁ」
「ゆき乃、それ風間さんの前で言える?」
「言える!迅さんはただのカッコいい!好きなのは蒼也!以上!」

 ハッキリそう言い切れるゆき乃がある意味凄いなぁ。わたしが言われたわけじゃないのに何故か照れ臭くて視線を逸らすと美月も同じような顔で照れていた。ぶっ、同じ反応だしわたし達、なんて笑った時だった。チチチチ…ポケットにしまっていたスマホが一斉に鳴り響く。付近にいたボーダー隊員達がそれを見ると、本部からの緊急呼び出しで、「マジかよ!」教室から外を見ると、無数のゲートが開いていた。

「カゲんとこ行ってくる!」

 素早く走り出すゆき乃は、3年の影浦先輩と北添先輩と一緒に現場に行くようだ。

「俺らも行くぞ」

 米屋くんがわたしと美月を連れて一緒に本部に移動する。

「三輪くん、これって大規模侵攻ってことだよね?」

 本部までの最短距離を走るボーダー隊員達。A級隊長の三輪くんならある程度の事を知っているんだろうと聞いた。わかっていたけど、これが大規模侵攻なんだと。それでも違うと信じたかった。またあの4年前のような事が起きると思うと震えそうだった。

「クソっ、何もかも迅の予知通りってわけかよっ」

 やっぱりそうなんだと思う他なかった。本部に向かう途中で二宮隊が美月を迎えに来た事で美月とはここでお別れだ。

「美月ちゃん、気をつけてな!」

 隠岐くんの言葉に二宮さんの影からペコリと頭を下げる美月が何だか可愛くて微笑ましい。みんなそれぞれ自分の隊と合流して行く中、わたしは最短距離でボーダー本部に辿り着いた。

「忍田さん!お手伝いします!」
「藍沢か、助かる。澤村の補佐をしてやってくれ!くれぐれもこの部屋から出るんじゃないぞ」

 はい!と答えるわたしに、忍田さんの言った何気ないその言葉にどんな意味があったのか、後から知る事になるなんて。
 ちょこちょこと入る情報から、どうやら敵はアフトクラトルの様だった。新型のトリオン体は2足歩行でトリガー使いを捕獲するトリオン体のようで、どの隊もトップクラスがいないと倒せなく、苦戦する中、本部に入った音声に胸がドクンと動く。

【本部、こちら影浦隊。これより新型と交戦します】

 ゆき乃の声だった。それと同時、等々人型ネイバーが現れて、ゆき乃の恋人、風間さん達が交戦を始めた。あぁどうか無事で…祈るような気持ちでみんなの声を聞く。その数分後、まさかの風間さんがベイルアウトで本部に戻ってきてしまう。それがみんなにも見えていたら、動揺するよな…なんて思う。

【本部、こちら影浦隊。黒い角の人型が現れました。只今より交戦します、】
「えっ!?それ、風間さんがやられたブラックトリガーじゃ…忍田さんっ、止めさせてくださいっ!!」

 振り返ったわたしを見て黙りこくる忍田さん。いやいや早く指示くれよ!風間さんがダメだったのに無理でしょ、

【本部、こちら二宮隊。影浦隊に加勢します】
「えっ!?美月までっ!!!ダメダメ、絶対にダメっ!」

 半パニック状態で首を振っていると、司令室のドアが開いて風間さんが入ってきた。忍田さんの横でなにやら話していて、すぐに出て行った。

「忍田より、影浦隊と、二宮隊。その人型はブラックトリガーだ。今からこちらのボーダー本部に誘導して欲しい。中で私がお相手しよう」
【影浦隊、了解】
【二宮隊、了解】

 すぐに返事が来てホッと胸を撫で下ろす。ってわたしってば完全に私情を挟んでたかも…なんて反省。忍田さんの隣に言って「すみません、一人で熱くなっちゃって」そう言うと、忍田さんは優しく微笑んだ。

「君の焦ったところを初めて見たよ。いつも冷静だから迅も君を良くかっている。今日もしつこいくらいに私のサイドにつかせておけと言われたもんだから何かあったのかと思ったが、」

 話の最中にドカンと大きな音が聞こえた。すぐに澤村さんが本部内の映像を大画面に映す。そこにはもくもくとした黒い煙の中から角のついた人型ネイバーが現れた。

「退避しろ!シェルターに逃げろ!」

 忍田さんの声に、ボーダー内で働くエンジニアやスタッフ達が一斉にシェルターに向かって走り出した。もくもくとする煙の中で嫌な笑みを浮かべる人型ネイバーは、また煙のように姿を消して移動を始める。こっちに来るつもりだろうか!?待機していた諏訪隊が、人型を訓練室に閉じ込めたことでやっとみんなが一息ついた。

「澤村、藍沢、後は頼むぞ」

 そう言って、忍田さんは、諏訪隊と交戦している人型の方へと全速力でかけて行った。そういえば、忍田さんの戦う姿は滅多に拝めないけれど、太刀川さんと同等かそれ以上だと聞いたことがある。それでもブラックトリガーを前にすると不安は大きい。
 そんなわたしの不安を他所に、忍田さんはアフトクラトルのブラックトリガーの捕獲に成功し、ゆき乃や美月達も無事で、玉狛支部のみんなも無事だった。とはいえ、レプリカ本体を失って、修は重体。危うく千佳を連れ去られる所だった。鳥丸先輩やレイジさん、小南達の活躍もあり、迅さんも何故かこの世界に置き去りにされたアフトクラトルの人型ネイバーを捕獲し、長い一日が終わりを迎えようとしていた。

「よかった、無事だったな、藍沢!」

 本部に来た迅さんがわたしを見るなりポコンと頭を撫でた。普段ふざけている事も多く、澤村さんをよくよく口説いている姿も見受けられる。わたしとは人種が違う=住む世界が違う、関わらない人だって思ってきたけれど、今回の大規模侵攻の裏には迅さんのサイドエフェクトが大いに役立ったって事だった。

「いやぁ〜実は見えちゃって、本部内でいつも藍沢がいる部屋、派手にやられちゃったよね。でもだから、無事でほんとよかった!」

 忍田さんが捕獲したブラックトリガーが本部内に侵入してきた時、真っ先にエンジニアルームを狙われた。そこは普段わたしが本部内で仕事をする時にいる部屋で、今日もそこでの仕事なんだと思っていたら、忍田さんに澤村さんの補佐を…と言われ、本部の司令室に留まったのだけれど、もしもあそこにいたら、わたしはたぶん、いや絶対に殺されていた。あの部屋で数人が犠牲になってしまった今回の大規模侵攻。それ以外にもC級隊員が数人拐われてしまったのも事実だ。それでも迅さんは最悪な未来にはならなかったと言うのだから、この程度で収まって良かったと思わなければならないのかもしれない。
 見つめる先の迅さんはいつものおちゃらけた顔ではなく、心底ホッとした顔で…初めてわたしは迅さん相手に胸がドキンと音を立てたんだ。

「修も遊真も千佳も、玉狛のみんなも無事でよかったです。迅さんも」
「お、珍しく俺の心配もしてくれたんだ、嬉しいねぇ〜!」
「いつもしてますよ」
「ほんとかなー?一ノ瀬や原田が俺のことカッコいいって言ってても藍沢はニコリともしないからなぁ」

 ん?んんん!?それって、「見えてたんですか?」迅さんを見上げるとニカッていつものおちゃらけた笑顔で笑うんだ。それなのにわたしの心臓はどうしてかドキドキ音を立てていて…

「ま、実力派エリートはみんなに人気だからねぇ!藍沢みたいな真面目な女の子にも通用するって思いたいじゃん!」
「もうっ!!思いません、そんなことっ!やっぱり迅さんチャラい!」

 抱きつこうとする迅さんを無理くり腕で抑えて突き放した。それでも迅さんは嬉しそうな顔で、「じゃあ上に呼ばれてるからそろそろ行くね!思ったより元気そうでよかったよ!」と手を振って去って行った。
 落ち込んでいないか心配してくれたのかと思うと、それだけで胸がドキドキとまた音を立てる。これはヤバイ、おかしいな。こんなの言えないよゆき乃にも美月にも。言ったら始まってしまうもん。…もう少しだけ、自分の胸の中に留めて置こうと思うのだった。

Thanks reading…♡