01愛され美月ちゃん
昼休み。出水くんがお弁当を広げている私達の所にやってきてそんな問いかけ。自販機で買ったんだろうパックのバナナジュースのストローを咥えながらハルの弁当箱の中から玉子焼きを一つ指で摘み上げる。
「あ!ドロボー!」
「いや藍沢、ドロボーはねぇだろ。悪かったよ」
「分かればいいよ」
腕組みするハルの横で「なんかあるの?今夜」とゆき乃が聞いている。出水くんは玉子焼きをゴクリと飲み込むとこう続けた。
「太刀川さんの誕生日祝いすっから来いよお前らも」
「え、行く!蒼也来るよね、それ」
ゆき乃が出水くんのプラプラしている腕を握ってそこに抱きつくけど、こんな風景は日常茶飯事で誰も気に留めない。出水くんはゆき乃の髪をやんわりと撫でながらも「風間さんも来るはずだよ」そう言うとゆき乃の顔に笑顔が咲き誇った。ハルは私を見て、どーする?って顔にかいてあって。チラリと左側の隠岐きゅんを見ると購買で買ったポテトをぱくついた所だった。あーその芋美味しいけど数量限定だからなかなか買えないんだよなぁ。もしや、グラスホッパー使った?なんて思いながらも隠岐きゅんがこちらを見てくれるのをしばし待つ。
「見過ぎやで〜美月ちゃん。俺らもイコさんに呼ばれてるわ、それ。来たらええやん!」
隠岐きゅんがいるならめっちゃ目の保養になるし、誕生日だったら美味しいご飯食べられるよね?私の顔色をよんだのか、ハルも笑顔に変わる。
「行く!ちなみにお店は?」
「もち、焼肉!安心しろ、唯我も呼んであるから、たんと食え!太刀川さん野郎共だけじゃ嫌だって駄々こねてたから来てやってよ」
出水くんの言葉に静かに失笑。太刀川さんモテそうなのに今の所浮いた噂もないし、どうなんだろう…なんて適当な事を思った。
◆
「隠岐くん、隠岐くん、ちょおここに来て」
焼肉屋について既に来ていたイコさんに手招きされた俺は同級生メンバーの席から離れてイコさんの隣に座った。戦闘モードちゃうからいつもの眼鏡をかけていないイコさんの瞳はつぶらで、その瞳にまじまじとなんや見られて…
「イコさん、なんですか?」
「風の噂っちゅー奴で聞いたんやけど、隠岐くん、ニノさんとこのスナイパーちゃんのハート撃ち抜いたって、どないやねん?」
言い方悪いなぁイコさん。ハート撃ち抜いたとか、今時言わへんよね、まぁ事実やけど。若干苦笑いというか自嘲的に笑った俺はイコさんから目を逸らして「事実ですわ」素直に認めた。告白したのつい先週やねんけどなぁ。情報早いな、イコさん。バレへんようにしとった訳ちゃうけど、こんなに早ようバレるとは…思わず視線を美月ちゃんに向ければ、相変わらず俺以外には隙だらけな笑顔を晒して犬飼先輩にロックオンされとった。
あの二人、同じ隊やからって仲良うしとるん、ちょっと腹立つわー。それ一応俺んやで犬飼先輩。ほんま触らんといて…なんてヤキモチは恥ずくて美月ちゃんには知られとうないねんけど。
「うーわ、マジやった!!やっぱり隠岐くんモテモテやん!ニノさんとこのスナイパーちゃん、よう隠岐くんのこと見とったやんなぁ。気づいてたんやろ?」
「まぁ多少は。けど俺が好きになったんで、俺から告りましたし」
「なるほど、隠岐くんから告白したんか。で、ちゅーはもうしたんか?」
は?え?なんやって?耳を疑ったけど、俺を見つめるイコさんの瞳は真剣そのもので。さすがに答えたないわそれ。イエスでもノーでも答えたないわあほんまに。そんな俺の気持ちを分かっているのか、スルーしとんのか、イコさんの瞳はめちゃめちゃ真剣で…
「言いませんよ、シビアなんで。言うときますけど、美月んこと、やらしい目で見ぃひんでくださいねイコさん」
男らしくバシッと言うてやった。そのまま俺はイコさんの隣から立ち上がると二宮隊のテーブルにいる美月ちゃんの腕を引っ張って立ち上がらせた。
「隠岐きゅん?」
「犬飼先輩、美月に触りすぎです」
ブスッと言うと、美月ちゃんの隣で犬飼先輩の口端が緩んだ。悪い顔しとるそれに今度こそ美月ちゃんを後ろに隠した。
「うちの原田に手出したのお前か、隠岐。言っとくけど、原田は扱いづらいよ〜大丈夫?」
挑発的にでも、その場を楽しんどるんやろーなぁって顔で俺を睨み上げる犬飼先輩に、内心めっちゃ怖ええ!と思いつつ俺も涼しい笑顔作ってニコリと微笑んだ。
「問題ないっすよ。じゃ連れてきますね」
俺の背中を電信柱か何かと間違えとるんか、寄りかかって待っていた美月ちゃんの腕を引っ張って、いつものテーブルにつく。
はぁ…と溜め息をつく俺を覗き込む美月ちゃん。
「犬飼先輩の挑発にのってた?」
「や、まぁ…。それより前にイコさんに質問攻めにあって…」
「質問攻め?」
「おん。ちゅーしたんか?とか」
「!!!!!こ、答えたの?」
「言うわけないやろぉ。まだしてへんなんて、」
最後の言葉はボソッと言うと、美月ちゃんの顔が真っ赤になった。未だに俺と目が合うとちょっと動揺するんも可愛いねんけど、もうちょい慣れて欲しいなぁ。女版辻ちゃんみたいやん、俺の彼女。
「手汗かいてきたー。隠岐きゅん私、おトイレ行ってくる」
俺から逃げるように立ち上がる美月ちゃん。絶対戻ってこーへんやろなぁなんて思って俺は小走りでトイレへ向かう美月ちゃんを追いかけた。
「美月ちゃん!」
「わあっ!!」
トイレのドアを開けると運良く誰もおらんで、俺は後ろからそのまま首の匂いを嗅ぐようにふわりと抱きしめた。固まったまま動けへん美月ちゃんのサラサラヘアーにほんのり唇を落とす。
「隠岐きゅん私、心臓吐けそうかも」
「いや吐かれへんやろ。一個だけ言わせてやぁ美月ちゃん。俺ん前で他の男と仲良うせんでぇ。特に、犬飼先輩!ほんまに嫌やわ。それとな、今日帰り送るから、ちゅーさせて。美月ちゃん目合うと逃げるやろいつも。今日は逃さへんでぇ」
ちゅって、横からほっぺたに唇を付けると、美月ちゃんの目が大きく見開いた。
「一個じゃないじゃん」
「今思いついてん。…さすがにトイレで初ちゅーは勘弁やから、帰りな、帰り。覚悟しときい、美月」
普段呼ばない呼び捨てで呼ぶと、美月ちゃんは素直にコクリと頷いてくれた。内心むっちゃガッツポーズする俺は、涼しい顔してトイレから出て出水と米屋達のテーブルにつく。
数分して戻ってきた美月ちゃんの顔は、ふにゃりと緩んでおって、そんだけで俺は胸がギュンと音を立てたんや。
Thanks reading…♡