01ガールズトーク・前編
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「お疲れサマンサ〜!実力派エリート迅悠一参上!」
やぁやぁと、笑顔で手を振りながら玉狛支部の迅さんが少し遅れて焼肉屋に入ってきた。今日は唯我くんのお力でこの店は貸し切りで、店内には色んな隊のボーダー隊員達が顔を揃えている。普段絡まない人も多い中、私はいつものメンバーゆき乃とハルと一緒に焼き肉を楽しんでいた。迅さんが来たことでハルのテンションがあがるのが分かった。
「あー迅さーん、ここ、ここ!ほらハルの隣空いてるよ」
ゆき乃が手招きすると迅さんは「お、じゃあ一杯だけ貰おうか」なんて自分も未成年のくせにビール片手にハルの隣に座った。迅さんは私を見ると、目を大きく見開いて苦笑い。ゆき乃を見ても、同じように苦笑いをした。え、今、なんか見えた?
「なんだ、なんだお前たち、浮つきやがって。今日は太刀川さんの誕生日祝いだろ?」
「なに、なに、迅さん、なんか見えたんですか?ゆき乃と美月の未来!」
動じる事もなくゆき乃がルンルンと首を左右に揺らして笑っている。未来予知のサイドエフェクトがある迅さんは私とゆき乃を交互に見てやっぱり苦笑いを零した。
「いやぁ、原田もそーゆーことすんだなぁ〜って。ぶっちゃけ一ノ瀬と風間さんのはよく見えちゃうんだけどさぁ。こうなったら俺達も今夜二人きりになろうか、ハル!」
ふわりとハルの肩に腕を回してそんな言葉を飛ばす迅さんが、どんな未来を見たのか、なんとなく想像ができるのは、さっきトイレで隠岐きゅんにあんな事をされて、あんな事を言われたからだって。
思い出して俯く私を見逃すことなくゆき乃が目をランランとさせて顔を覗き込んだ。焼き肉を頬張っていたハルが迅さんの浮ついた行動にゴキュって喉を鳴らして飲み込む。
「え、迅さんあの、え?なにが見えたの?」
「俺の口からはとても。…じゃあ後は女の子達だけで楽しんで!ハルまた後でな」
ポンポンってハルの短い黒髪を撫でると迅さんはたぶんだけどノンアルのビールを飲み干すと、席を立った。それと同時、ハルとゆき乃が私の腕を掴んで顔を寄せる。ジュージュー煙を出している網の上で女三人顔を寄せて小声で口を開く。
「まさか迅さん、ゆき乃と蒼也のえっちしてる所が見えたってこと?イコール美月と隠岐くんも今夜えっちするってことぉ!?え、そゆことぉ!?」
パァーッと笑顔を咲かせるゆき乃の言葉に思わず首を横に振る。
「でも美月と隠岐くん、まだ付き合って一週間ぐらいだよね?」
「いやハル、男と女が愛し合うのに時間は関係ないよ。ねぇ、みーづき!」
ニッて白い歯を見せて笑うゆき乃に胸がドクンと脈打つのが分かった。
「や、ないないない!だってまだちゅーもしてないよー私達。まぁ帰りにするって言われたけど、」
「えっ!?なにそれっ!?」
「ええええ!!!そう言われたのっ!?」
テンション絶好調、キャーキャー言う私達のテーブルを、向かい側のテーブル席にいる隠岐きゅんがチラリと視線を飛ばすけれど、顔なんか見ることができない。片手で肉をひっくり返すハルはさっきの迅さんのくだりから顔が紅くなっている。目を泳がせながらも私の言葉を待っていて…
店内は騒がしく、私達が小声で話す声はきっとどこにも届くことはないだろう。コクリと頷いてニッと笑うとゆき乃とハルがまたキャーキャー黄色い声を飛ばす。
「なにそれ、なにそれ!隠岐くんエロい!!」
バシバシ私の腕を叩くゆき乃は今にも隠岐きゅんをここに呼び寄せそうな勢いだけれどそんなことされたらまたトイレに逃げるしかないからとりあえず話題を変える。
「ゆき乃と風間隊長はどのくらいでちゅーしたの?」
私の問いかけに考えるように真顔になったゆき乃は、次の瞬間ニヒッと笑うとお肉を焼いていたハルがお皿に取り分けたカルビを一口パクリと口に入れた。高速で噛み切って飲み込んだ後、コーン茶を一口ゴクリと飲む。
「どのくらいっていうか、付き合う前からちゅーしてたよ、ゆき乃達」
ケロッと凄いことを言い放った。思わず私もハルも、太刀川さんを囲むテーブルにいる風間隊長に視線を送る。顔ごと、いや身体ごとハルと二人でそっちを向いたせいか、風間隊長がこちらの視線に気づいてバチッと目があった。慌てて逸らすも立ち上がってわざわざ私達のテーブルに向かって歩いてきてくださる。
「どうかしたか、ゆき乃」
ポンとゆき乃の肩に手を置く風間隊長の唇に視線が集中してしまう私達を見てゆき乃はブッと吹き出した。手前側に座っていたゆき乃は風間隊長の手を握ってそこにキュッと抱きつく。
「ナイショ!でも蒼也ぁ、今日蒼也のとこお泊りしてもいい?」
「あぁ構わないが」
「決まりね」
座ったまま風間隊長の腰に抱きつくゆき乃のウェーブがかった赤い髪を優しく撫でる姿に、その溺愛っぷりに周りから野次すら飛んでくる。そんなの気にもしないって顔で風間隊長はゆき乃の頬に手を添えると「はしゃぎすぎるなよ」そう言って自分の席へと戻っていった。
「なんか緊張する、風間さんって。A級だからなのか、貫禄なのか、オーラなのか、」
ハルが胸を押さえてそう言うも、わかる気がする。でも、風間隊長のあんな優しい表情はゆき乃以外は絶対に引き出せない。そんな二人の関係が羨ましくもある。
「てゆーか、付き合う前からしてたとかゆき乃が言うから、めっちゃ風間隊長の唇見ちゃったじゃん!もー!」
「だって我慢できなかったんだもん。でも蒼也、あの通り動じないし、キスしても怒られなかったけどね〜。ハルはどうなのよ?迅さん、そっち方面うまそうだよね」
「!!!…まぁうまいよ、そりゃ。サイドエフェクトがあるからこっちから手出すのムズいけど」
「確かにムズそう!何もかもお見通しだもんねぇ迅さんの前じゃ。てことは、えっちも迅さんリード?」
「まあ、うん」
「フェラは?すんの?」
「え!?…まぁそれも流れで…」
「ふむ、ふぇらとはなんのことだ?」
ゆき乃とハルの下ネタトークにたまたま通りがかった遊真が口を挟んできた。シラけた顔してとんでもない事を言う遊真にハルは慌てて自分の横に遊真を座らせた。
「それ絶対他の人に言っちゃダメだよ遊真!!その単語絶対太刀川さんとかの前で言ったらからかわれるからね!」
「…うーむ、じゃあなぜハルとユキノは言っていいんだ?」
理解不能って、腕を組んで頭を傾げている遊真に苦笑い。
「大人だからよ、遊真よりずっと!」
「そんなに変わらなくないか?」
中3の遊真と、高2の私達。年の差は2歳だけれど、小柄な遊真がこの会話の意味を知るのはもう少し先だろうって。そもそもネイバーと交わることできんの?って話で…。
「とにかく!絶対ダメだから!」
ハルが念押ししたのにも関わらず、ダメと言われると余計に知りたくなる…ブツブツそんな事を言いながらも私達のテーブルから離れるやいなや、そのまま太刀川さんのいるテーブルに言って、ぶちまけたんだ。
「タチカワさん、ふぇらとはなんのことだ?教えてくれ、」
その場にいた全員がブッとなんかしらを口から放出させる大惨事になったあと、案の定私達の所に視線が飛んできて、とんだ恥さらしになったのは言うまでもなかった。
私達のお相手である風間隊長と迅さんと隠岐きゅんは、その後永遠にみんなにからかわれ続けるハメになるのであった。
Thanks reading…♡