「ったく…どうした。お前がこんな飲み方するなんて」
「んっ…ごめんなさい、不死川さん」
不死川さんの広い肩に後頭部を預け、私は謝罪の言葉を口にする。
終業後、スマートフォンに入った彼氏からの食事のお誘い。「不死川さんをすきにならせて欲しい」。先日、私はそう言って彼に泣きついたばかりなのに、資料室での煉獄さんとの一件で、そう簡単には彼を忘れることが出来ないのだと思い知らされる。こんな気持ちのまま不死川さんに会うことは失礼な気がした。でも、この心にぽっかりと空いた風穴を、彼の優しさで埋めて欲しいという気持ちもあった。
そして結局私は今、不死川さんと二人でタクシーに揺られている。明日も仕事だというのに、やり場のない気持ちを薄めたくてアルコールを煽るように体内に取り込んだ結果がこれだ。歩いて帰れないほどではなかったが、覚束ない足取りに、不死川さんがわざわざタクシーを呼んでくれたのだ。
不死川さんは、とことん私に優しい。そして、私は本当に狡くて、卑しい女だ。こんな自分がほとほと嫌になる。どうして不死川さんは私なんかを好きなんだろう。
「ちゃんとベッドで寝ろよ。いくら暑くなってきたって言っても、まだ夜は冷えるからなァ」
タクシーから降り、マンションの部屋の前まで送ってくれた不死川さんは、私が玄関の鍵を開ける様子を確認した後、優しく頭を撫でてくれる。アルコールのせいもあるのかもしれない。大きな掌の温もりに、急に人肌が恋しくなって、私は不死川さんの大きな胸に縋った。
「…愛莉」
「不死川さん…帰っちゃ嫌です。…好きにならせてくれるんじゃないの?忘れさせてくれるんじゃないんですか」
「おい、わざと言ってんのか」
不機嫌そうな低い声が鼓膜を掠めたかと思えば、頭に置かれていた手が私の顎に移動して、強制的に彼の方を向かされる。少しだけ怒っているような、それでいてどこか煽情的な瞳が私をじっと見つめる。
「わざとじゃないです、不死川さんっ——」
涙に潤んだ声で懇願すれば、易々と唇が奪われる。ドアに私を押し付けると、不死川さんはキスを深めて官能的なそれに変える。熱を灯した舌が、私の体温を吸い取るように口内を這い回った。夜間帯とはいえ、ここはマンションの廊下。いつ、人が通るかも分からない。その背徳感が、私達の興奮を煽っている気がした。
「…今日は、途中で止めてやれねぇぞ。…それでもいいのか」
唇を離すと、不死川さんは私に駄目押しする。何度も首を縦に振って、広い胸に顔を埋めた。今は、不死川さんに乱暴に抱いて欲しかった。ゆき乃のことも煉獄さんのことも、少しも思い出せないくらい、不死川さんで塗り替えて欲しかった。
「いい…不死川さん、めちゃくちゃにして。お願いっ…もう、忘れたい。思い出したくない」
「っ…煽り過ぎだろォ」
流れるような動作でマンションの自室に入った私達は、お互いを食べ合うみたいに唇を重ねながら、寝室のベッドに雪崩れ込む。
「愛莉っ…」
「実弥さん」
互いの名前を囁いて、互いの衣類を剥ぎ取っていく。私のブラウスを脱がした実弥さんは胸を覆っていた下着をたくし上げ、躊躇なくその先端に噛みつくように吸い付いた。
「ゃぁっ…ぁん」
軽い痛みと愉悦を孕んだ刺激に、甘い声が漏れる。実弥さんは勢いを得たように、片方の手で、触って欲しいと主張する反対の乳首をこりこりと押し潰す。
「んぁあっ…ぁあ…んっ」
乱暴だけれども優しい仕草に身体がじんじんと熱を持つ。鋭敏な両の乳首を刺激され、子宮の奥の方から快楽が込み上げてきて頭がぼーっとし、実弥さんのシャツのボタンを外す腕の力が抜けていく。
「おい、手、ちゃんと動かせェ」
「ぁあっ…だって、気持ち良くて…ひゃあっ…ぁあっん」
耳朶に吐息を吹き込むように意地悪く囁いた実弥さんは、飴玉のように舌で私の乳首を転がし続けながら下半身に手を這わし、タイトスカートを捲りあげてあっという間にストッキングと下着をずり下げた。自分で直接確認しなくとも、下着はぐっしょりと濡れており、糸を引いているのが分かる。
「今日もぐしょぐしょに濡れてんなァ。ったく…愛莉…お前、エロすぎんだろ」
「ふぇっ…やだぁ、言わないでっ…実弥さんっ」
大きな手が秘部に触れ、節くれだった指がくちゅりと溝をかきわける。そのまま無遠慮に二本の指が挿入されると、だらしなく開いていた足を反射的に閉じてしまう。
「ぁっ、待って…そこ、まだ」
「待っては聞かねェ。ほら、足開け」
「やんっ…ぁ、実弥さんっ、ぁああっ」
実弥さんの手で足首を掴まれると、信じられないくらい肢を大きく広げられてしまう。埋められた指はわざとらしくぐちゅぐちゅとした音を立てて、私の蜜壺をかきまわす。快楽と羞恥で混乱の声と嬌声が零れ落ちる。
「ぁ…はあっん…ぁ、そんなにぐちゅぐちゃしないで…恥ずかし…」
「俺には、もっとして欲しいって言ってるように聞こえんなァ」
私の抵抗は、実弥さんの興奮を加速させるだけだったようだ。私の奥で、何かを探すかのように厭らしく動いていた指の腹がある場所を撫でると、びくびくと身体が大きく仰け反る。
「ぁあっ!だめぇっ、そこ…ぁあっ…そこ擦っちゃだめぇっ…あぁっ…やだっ…私っ、もうイっちゃうっ、あ、さね…みさ…」
「だめじゃねぇだろ。こんなに濡らして、本当に説得力ねぇな。…愛莉、一回イっとけ」
熱い吐息に混ぜて言うと、実弥さんの指は容赦なく私の感じる場所を擦り立て、絶頂の際へと追い詰めてくる。小刻みに動く指の動きに徐々に気が遠くなり、蕩けた媚壁が実弥さんの武骨な指をぎゅうぎゅうと喰い締める。
「ぁあっ、もう、だめっ…ん!実弥さん、あ、あ、私もう…イっちゃいます!あ、イっく、ぁあっん!」
電流のような快感が突き走ってつま先がきゅうっと丸まる。ベッドの上で一際大きく身体を揺らす私の痴態を、実弥さんが満足そうに見つめていた。羞恥でどうにかなってしまいそうなのに、実弥さんは休むことなく手を動かし続ける。
「ぁっ…あ、ダメっ、実弥さんっ…もうだめっ…恥ずかしっ、やっ」
「それでいいんだよっ…愛莉、恥ずかしければ、忘れられんだろォ!」
私の目を射るように見つめながら、実弥さんの指は一度見つけた私の弱点を見失うことなく虐めてくる。激しく動く淫らな指の刺激に、私はあっという間に頂まで押し上げられてしまう。
「ぁっん!だめっ、それ以上されたらっ…ふぇぇっ…だめぇ、出ちゃうっ、出ちゃう、実弥さんっ、ゃあっん!」
浮いた下肢をびくびくと震わせ仰け反るように絶頂すると、秘部からびゅっと恥ずかしい液体が勢いよく飛び出した。
「はっ…本当にエロいな、愛莉」
四肢を脱力させ荒い息を漏らす私を眺めながら、実弥さんは愛液でびっちょりと濡れた指をべろりと舐めて苦笑する。
「恥ずかし…ごめんなさい」
「謝んな。…今は、俺のことだけ考えてろ」
確かに私は今の今まで、ゆき乃のことも煉獄さんのことも忘れて、快楽に身を任せていた。こんな風に無理やり気持ちに蓋をすることが正解とは思えないが、もう後戻りは出来ないんだ。これを正解にしていくしかない。
ベルトを外す音が聞こえたかと思えば、どろどろに蕩けてひくつく蜜口に、挿入の準備を済ませた熱い切っ先が押し付けられる。ああ、私本当に、実弥さんとエッチしちゃうんだ。脳裏にゆき乃と煉獄さんの顔が過る。ゆき乃との友情、煉獄さんへの恋心、二人の眩しい笑顔。不意に、涙がぐっと込み上げてきて、じーんと鼻の奥が痺れてくる。
「まっ…て、実弥さんっ…やっぱり、私っ」
「またねぇ…っ、今日は途中でやめねぇって言っただろうが…っ…愛莉…っぐ」
「あっん、あっ、だめっ、ぁああっ!」
「だめじゃねぇだろォ!めちゃくちゃにしろって言ったのは、愛莉だろ…っ…はぁ」
今日、実弥さんは止めてくれなかった。熱くそそり立った雄芯が、厭らしく蠢く媚壁を抉って私の中に押し入ってくる。
「っく…愛莉…よく締まんなァ…っ」
「ひぅ…ぁ、あっん、実弥さん…ぁあっ!」
瞬きと一緒に、目尻から涙が零れる。私が脱がしきれなかったシャツを脱いでかなぐり捨てると、実弥さんはこちらの背中に手を回し、距離を縮める。しっとりと汗ばんだ肌を密着させると、実弥さんは屹立をさらに奥までねじ込んでくる。
ごめんね、ゆき乃。ゆき乃の好きな人とエッチしちゃってごめん。私、最低だよね。
「っ…ふぇ…ごめん…ごめんね…ゆき乃…」
涙と一緒に、無意識に零れたゆき乃の名前。私の上に覆いかぶさる実弥さんが、一瞬顔を悲痛に歪ませたのが見えたが、顔の距離を近づけられて唇を奪われたため、直ぐに分からなくなってしまった。
「んっ、んうぅ…ぁあ…はぁ」
快楽を求めてうねる腰の動きに合わせて、実弥さんは自身の腰を前後し始める。抽挿はあっという間に勢いを増し、ぐちゅぐちゅと音を立てて灼熱の楔が膣壁を擦れば、合わさった唇から口内で収まりきらなかった母音と甘い息が洩れる。
「愛莉っ…」
激しい腰の動きで離れた実弥さんの唇が、掠れた低音で私の名を呼び、愛しそうに目を細める。その目がとても優しくて、大好きな人の大きくて優しい瞳と重なって、私は一瞬だけ、煉獄さんに抱かれているような錯覚に陥る。
「ぁあっ、あ、あっ、好き…好きぃ…」
煉獄さん。そう言葉が続きそうになるのを、実弥さんが一瞬塞いでくれる。そのまま片足を持ち上げられ男らしく広い肩に乗せられると、滾る雄芯が、ずんずんと私の最奥を突きあげる。衝撃に息が詰まり、卑猥な声が止まらない。
「んぁっ、ぁあっ、あっん、だめっ、そんな奥突いちゃ…いやぁっ」
「っ…その好きは、俺のことじゃねぇんだろ…っ…まぁ、いい。…俺しか、見えなくさせてやるからよォ…っぐ」
実弥さんが苦しそうに顔を歪めて、快楽に耐えているのが分かる。端正な顔には大粒の汗が光り、時々飛び散るそれが私の体を濡らした。二人の厭らしい匂いも相俟って一層官能が煽られて、身体の芯まで喜悦に痺れ、全身に鳥肌が立つ。
「ふぁっ…あ、実弥さ…そんなにしちゃ…私また、イっちゃうよぉ…ぁあ、やんっ、ぁあっ!」
「ああっ、好きなだけイっちまえ…あんま、締めんじゃねぇぞ…っ」
突き立てられた実弥さんの雄ががつがつと私の中を穿ち、ぷくりと膨れた陰核を押し潰すように触れられれば、稲妻のような快楽が襲いかかってくる。
「あっ、ん!実弥さっ、あっ、私っ、あぁっ、またイっちゃう、ぁあっ!」
私の中を貫く実弥さんのそれに縋るように収縮し、腰をガクガクと揺らしながら絶頂した。達している最中の私の身体を自身に引き寄せた実弥さんも、限界なのか眉根を寄せて、子宮近くの深い所で、大きく膨らみきった陰茎を弾けさせた。
真っ白く塗り潰された視界に、ゆき乃と煉獄さんの後ろ姿が見えた。もう二人は、こっちを振り返って笑ってくれることはなかった。