再び、令和三年・現在

 一瞬にして過去の記憶が二人の脳に流れ込むような不思議な感覚だった。確かに大正時代、鬼のいる世界で出逢った杏寿郎と結菜。出逢って直ぐに恋に落ち、永遠を誓いあったけれど、任務から杏寿郎が戻ることはなく、無限列車での戦いで儚くも命を落とした。
「あ、あ、…杏寿郎さん…」
 ペタペタと杏寿郎の頬に触れる結菜の小さな手。その形を確かめるように顔のパーツを一つ一つ指でなぞっていく。
 たった今蘇った昔の記憶。
「結菜…君はずっと俺を待っててくれたんだね…」
 ツーっと杏寿郎の瞳から一筋の涙が溢れた。
「自分の幸せをと言ったのに…やはり君は頑固だな」
 それでも尚嬉しそうに目を細める杏寿郎に結菜は強く抱きつく。
「当たり前だよ。杏寿郎さん以外に結菜を幸せにできる人なんていないよ。――ずっと貴方に逢いたかった…」
「あぁ俺も。沢山待たせてしまったな、今度こそもう二度と結菜を離すもんか」
 もう何も、空気さえも二人の隙間に入るものなどないというくらいにお互いに身体を巻き付け合う。強く抱いた腕の中にすっぽりと収まる結菜の柔らかな髪に、杏寿郎はあの日の面影を思い出しふわりと微笑んだ。
 令和な現在、結婚の約束をするには簪ではなく婚約指輪が必要で、杏寿郎の脳内では結菜に指輪を買ってあげたいと思わずにはいられない。
 嵐の中、バケツをひっくり返したかのような大雨はアスファルトを強く打ち付けて、白い霧のように二人の姿を世間の目から隠してくれる。それでもさすがにいくら過去に大恋愛をしたとしても、今は完全なる教師と生徒だ。杏寿郎は結菜の背中に腕を回して玄関の鍵を開けると、そのまま結菜の肩を抱いて一人暮らしのマンションへと招き入れた。
「とりあえず、シャワーを浴びたらいい。結菜が風邪を引いたら大変だから」
 熱烈な口づけの余韻が残っているのか、杏寿郎はふわふわとした頭で結菜を洗面所へと誘導した。タオルやら着替えやらを適当に渡してパタンとドアを閉める。
「杏寿郎さん…傍にいてね?どこにも行かないでね?」
 扉の向こうから聞こえた不安気な結菜の声。冷静な判断ができなくなりそうな結菜の言葉に杏寿郎は「あぁここにいるよ」そう答えるだけで胸がいっぱいになる。
 どれ程の時間、結菜を待たせてしまったかと思うとやりきれない気持ちになるが、それでもこうしてまた出逢えたことに、嬉しさ以上のものを感じている。どうしようもなく結菜に触れたくて、結菜の全てが欲しくて、このまま一緒にいたらきっと杏寿郎は自分を抑えることができないだろう。それでいいのか、どうなのか脳内では葛藤しているけれど、それも結菜が杏寿郎のぶかぶかのシャツを着た格好でシャワーを終え、リビングに顔を出したら理性なんて吹っ飛んでしまいそうになる。
「先生、お先です。先生もシャワーしてきて?風邪引いちゃうよ」
 タオルで髪をぺたぺたと拭きながら小首を傾げてそう言う結菜に、杏寿郎の胸はトクンと大きく脈打った。
「俺はいいよ。それより結菜、ここにおいで」
 ベッドの上、杏寿郎に腕を引かれてストンと隣に座る。そのまま指をきゅっと絡ませると杏寿郎は静かに視線を結菜に移した。大きな赤い瞳の杏寿郎に見つめられて結菜の胸も大きく脈打つ。
「今度指輪を買いに行こう。俺達の関係は今は公にはできまい。けれど俺が結菜のことを愛してるという証拠として、婚約指輪をプレゼントさせてほしい…だめだろうか?」
 思いもよらぬ杏寿郎からのサプライズに結菜は心底嬉しそうに笑う。左右に首を振って杏寿郎の腕にぎゅっと巻き付きながら逞しい肩にそっと頭を擡げた。
「それは結菜に変な虫がつかないように?」
「あぁそうだよ。俺以外の男が結菜に近づかないように」
「嬉しい!先生大好き…――」
 そう言うと結菜は幼さを残した表情から艶っぽい女の顔に変わる。杏寿郎の首に腕を回して強く抱きしめる。
「結菜…」
「好き。早く結菜のものになって、」
 もう我慢できないとでも言うかのようだった。杏寿郎の上にラッコ座りをして開いた太腿の上に尻を乗せると結菜からの口づけ。少しぎこちなさを含んだ結菜からの小さなキスに杏寿郎は胸が熱くなっていくようだ。
 杏寿郎の唇を割って舌を口内に入れ込む結菜にされるがまま、杏寿郎は結菜からの口づけを食すように口を開けて待っている。ちゅっとリップ音を響かせると、窓を叩きつける雨音なんか気にならないくらい舌が絡まる卑猥な音が二人の耳を刺激する。
「結菜、もっと口づけさせてくれ」
 そんな杏寿郎の言葉に結菜はコクリと頷くと、キスの主導権を杏寿郎に渡す。途端に結菜の背中を指でなぞりながら杏寿郎が結菜の下からにゅるりと強引に舌を絡ませた。にゅるりと絡まる杏寿郎の柔らかな舌は、口内で結菜の歯列をなぞり、上顎から下顎を舐めて、ちろちろと動いている結菜の舌をちゅるりと絡め取る。はぁっと、結菜の口から漏れる吐息。ほんのり離れた二人の唇を繋ぐ透明の糸が空気に触れて消えていく。すぐにまた重なる唇に、結菜の息はどんどんあがっていく。
「杏寿郎さん…好き…」
 感情を言葉にのせて想いを杏寿郎に伝える結菜。今の二人にはもう何も邪魔するものはない。
「俺も結菜が好きだ。愛してる。もうこのまま止められそうもないが、続きをしてもいいか?」
「言ったはず。早く結菜のものになってって。結菜だってもう、止められないもん」
 初めての行為でわからないことだらけだ。けれど相手が杏寿郎ならば、結菜にとって怖いものなどない。未来を預けられるこの人となら、どんな事でも受け入れられると、結菜は杏寿郎の骨ばった指に自分の指を絡ませた。きゅっと想いを確かめ合うように握り返す杏寿郎は、次の瞬間結菜の腰に腕をかけて、ベッドの上にくるりと身体を反転させながら押し倒した。トスッと結菜の長い髪がベッドの上で乱れる。主導権を握った杏寿郎が結菜の頬に触れて口づける。ちゅ、と小さなリップ音の後、舌を揺らせて首筋をツーっと下ってゆく。首筋を杏寿郎の舌が何度も行き来して、最終的には鎖骨の少し上に小さな紅い華を咲かせた。
「結菜、手を挙げて」
 言われるがままバンザイをする結菜は、着ていた杏寿郎の大きすぎるシャツを脱がされた。びしょ濡れになってしまった下着をつけるのもどうなのかと、ショーツだけを身に纏った姿の結菜に杏寿郎の心音はドクンと爆発する思いである。
 ツワになった胸を隠すように結菜が手を動かすも、その手を空中で取り押さえて手首にちゅっと口づける。そのまま両手首をバンザイした頭の上で押さえながら、杏寿郎は今度こそツワになった結菜の胸にそっと触れた。
「んっ、」
 思わず漏れた結菜の声に杏寿郎は嬉しそうに微笑んだ。それからちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、…胸の周りに小さなキスを降らせながらも、結菜の反応を少し楽しむように視線を向ける。
 はぁ…と、ほんのり口を開けて杏寿郎を見つめ返す結菜の頬は真っ赤に染まっていて「可愛いよ結菜」言わずにはいられなかったというよう、杏寿郎が優しく微笑んだ。そんな杏寿郎の言葉に結菜も照れながらも嬉しそうに微笑み返すのを確認した後、杏寿郎が結菜の尖った胸の突起をじゅるりと舌で舐め取る。途端に身体中に刺激が走るかのよう、結菜は肩を震わせる。
「あっ、あっ、…」
 なんとも言えぬ自身から繰り出される熱い吐息。羞恥心を超えて心地良さが勝ってしまう展開に、結菜はじんと熱く熱を帯びている下半身を少しだけ動かした。杏寿郎の生温い舌が結菜の胸を執拗に舐め回す。舌先で縁をなぞるように何度も円を描いてからちゅううっと尖端を吸い上げられてビクンと結菜の身体は跳ね上がる。
「気持ちいいか?」
 耳元で低くそう聞かれ、結菜は涙目のままコクリと一つ頷いた。そんな結菜の反応に嬉しそうに微笑んだ杏寿郎は、頭の上でホールドしていた結菜の腕を離した。そのままぎゅっと抱きしめて「俺も気持ちいいよ」そう囁きながら耳に舌を絡ませた。指で胸の尖端をぐりぐりと刺激しながら、舌で結菜の音を遮断する。窓の外でアスファルトを打ち付ける雨音が消えて、結菜の鼓膜には杏寿郎の熱い吐息と、穴の中で舌が奏でる卑猥な水音が響き渡る。心地良さに自然と腰を揺らす結菜に、杏寿郎の胸を弄っていた手がスルスルと結菜の身体の曲線をなぞりながらもゆっくりとショーツの上まで辿り着いた。
 ツーっとショーツの上から割れ目をなぞる杏寿郎の骨ばった指に、結菜は「はあっ…」小さく声を漏らす。そのまま杏寿郎の舌は耳朶を甘噛みして、更に下へと移動し、先程まで指で弄っていた胸の尖端をまたじゅるりと吸い上げた。それと同時、ショーツの中に指を入れ込む杏寿郎は、ぐっしょりと濡れている結菜の飛騨を搔き分けて人差し指で入口に触れると、ツーっと愛液が杏寿郎の指を滴り落ちた。ツプっとゆっくりと中に指を差し込む杏寿郎に、結菜は脚を開いてひくひくと揺らせていて…「んっ、ああっ、」なんとも言えぬ声がやっぱり漏れてしまう。指を締め付ける腟内の壁を探りながらも、ゆっくりと奥まで指を入れ込んだ杏寿郎は、そのまま中を緩くかき混ぜる。くちゅくちゅと杏寿郎の指が水音を鳴らせながら、それをかき消すぐらいに胸への愛撫を主張する。ピンと張ったピンク色の尖端を左右変えて吸い上げる。その間も杏寿郎の指は結菜の腟内を卑猥な水音をさせながら緩く動かしていて。シーツをぎゅっと握りしめる結菜があまりにも可愛く、杏寿郎は胸の愛撫を止め、結菜に口づけた。ねっとりと舌を絡める深いキスに必死で息継ぎをしながらも舌を絡ませる結菜。舌を絡ませると垂れる唾液が結菜の口端から漏れて首筋に流れ落ちた。それを舌でじゅるりと吸い上げた杏寿郎は、そっと結菜の中から指を抜く。それだけでぞくりと結菜はまた少し肩を震わせた。
 心地良さから呼吸の上がっている結菜にコツンとオデコをくっつけて、「怖いか?」そう聞く杏寿郎。最早、結菜がこの抱かれる行為が初めてだと気づいている杏寿郎はなるべく結菜の気持ちに寄り添いたいと思っている。杏寿郎を見上げる結菜の瞳の奥は、それでも完全に杏寿郎を信用しきっているようで、「怖くないもん」ほんのり語尾をあげて少しだけ強がる結菜がどうにも愛おしく、フッと微笑んだ杏寿郎はそのまま被さるように結菜に激しく口づけた。ちゅるりと舌を絡ませながら杏寿郎の手は結菜のショーツをスルスルと脱がせていき、はあっと一つ大きく息を吐き出すと、結菜の脚元まで移動してショーツを抜いた。そのまま結菜の脚をM字に広げてそこに顔を埋める。腕で腰を固定すると杏寿郎は徐ろに結菜のそこ、花弁を割ってとろりと透明の愛液が流れ落ちる腟内に舌を入れ込んだ。
「あああっ、ふうっ…んんっ…」
 指とは違う感触に結菜は腰を動かす。けれど杏寿郎にホールドされているのでぴくっとほんのり小さく跳ねるだけで、奥まで舌を入れ込んでじゅじゅじゅっと手前を唇全体で吸い上げれば結菜が甘ったるい声を存分に漏らした。肩を震わせて呼吸を繰り返す結菜は杏寿郎の舌裁きに声を抑えられず、小刻みに小さく鳴く結菜の最奥を舌で擦ると結菜が「やあっ、待って…待って、待っ…―――はあああっんっ」びくびくびく―――っと腟内を激しく震わせた。それは結菜の下半身ごとぷるぷると震えていて、杏寿郎は愛液で濡れた口元を手の甲で雑に拭うと、結菜の上に体重を乗せてぎゅっと抱きしめる。
「結菜、もう繋がってもいいだろうか?」
「んっ、早くっ」
 両手を杏寿郎の汗ばんだ背中に回して抱きしめ返す結菜。着ていたスーツを脱いだ杏寿郎は、結菜と同じ生まれたての姿になって、避妊具を装着すると根元を掴んで寝っ転がる結菜の入り口に自身を宛てがった。ゆっくりと結菜の反応を見ながら挿入していく杏寿郎。先程の指とは全然違う感覚だった。太さも長さも大きさも指とは違うその感触に結菜は途中まで挿いった所で眉を顰めた。
「痛いか?」
 優しい杏寿郎の言葉に涙目で首を横に振る。それでも少し先に進もうと押し込むように中を擦るとまた結菜の眉間にシワが寄った。頬をそっと撫でてそこにちゅっと口づけた杏寿郎は、結菜の髪をさらりと撫でた。
「無理をすることはないぞ結菜」
「無理なんかしてないもん。結菜大丈夫だから続けて…ちゃんと貴方と一つになりたいの。杏寿郎さんと繋がりたいの…」
 胸を擽る結菜の言葉に杏寿郎は心底この人を選んでよかったと思える。鼻の頭をすりすりと擦りつけて、そのまま顔中に小さなキスを落としていく杏寿郎。結菜の胸と杏寿郎の胸の尖端が触れると二人共身体の中を快感が走る。その勢いで杏寿郎は結菜の腰を掴んでググっと最奥まで押し込んだ。一瞬顔を顰めた結菜も、「ちゃんと挿いったよ結菜。よく我慢したね」頭を撫でてくれる杏寿郎の言葉にふわりと微笑んだ。
「やっと結菜のものになってくれた。嬉し…」
 大正のあの日からずっとこうして一つに繋がれることを望んでいた結菜と杏寿郎。
 百年の時を越えて、令和の今それを叶えた――
 これから先もどんな困難が待ち受けていようと、何が起ころうと、結菜と杏寿郎の絆が壊れる事など決してない。二人が怖いものがあるとしたら、気持ちが離れてしまうことだけだろう。けれどそんな不安などきっとない。どれだけの時が過ぎても、お互いに心に決めた相手は人生でたった一人、結菜は杏寿郎。杏寿郎は結菜だけだと確信している。この先の人生もそれが変わることなど無いと言い切れるほど、二人は愛を確信していた。
 ゆっくりと律動を始める杏寿郎。自身の腰を引いて押してを繰り返す。燃えるように熱い結菜の腟内は、杏寿郎の大きくなったそれをこれでもかというくらいに窮屈に締め付けていた。動くたびに揺れる結菜の胸が、結菜に覆いかぶさっている杏寿郎の厚い胸板と擦れて刺激される。開いた脚を杏寿郎の背中に巻き付けてぎゅうぎゅうに抱きつく結菜を強く抱きしめながらも、律動を速める。既に挿入した時から心地良さは半端なく、気を抜けばすぐにでも達する事ができるであろう。
「はあっ、結菜っ…そろそろ限界だっ、」
 ポタポタと杏寿郎の額から垂れた汗が結菜の頬に落ちる。それを舌でぺろりと舐めとる杏寿郎に、結菜は「杏寿郎さん、キスして…」可愛らしくおねだりをした。心臓がきゅっと締め付けられキュンとしながらも杏寿郎は結菜に口づける。それでも下半身の律動を怠ることなどなく、結菜の舌をちゅるちゅると吸いながら、垂れた唾液ごとまたはむっと唇を食すように濃厚な口づけを繰り返す。
「結菜も気持ちぃっ…」
 ぎゅっと強く結菜が杏寿郎に抱きつくのを合図にラストスパートと言わんばかりに杏寿郎が結菜の腰を掴んで激しくピストンをする。接合部から漏れる卑猥な水音がびちゃびちゃとこの部屋に妖艶なBGMとして音を奏でていて、二人の熱い呼吸が一層激しく荒くなっていく。ぎしぎしと軋むベッドのスプリング。シーツが擦れる音、肌がぶつかり合う音、それに紛れて「あああああああっ、杏寿郎さんっ、んんんぅっ――――」一際大きな声をあげた結菜がビクンと身体を大きく仰け反らせて腟内を激しく痙攣させる。それとほぼ同時、杏寿郎の律動がピタッと止まると、「くっ…ふぅっ…」同じように尻を震わせて結菜の中にある避妊具の中から溢れそうな程大量に吐精した。
 だらんとベッドの上、仰向けで肩から大きな呼吸を繰り返す二人。気づけば外の大雨は止み、切れた雲の隙間からは星たちが顔を出し始めていた。
 乱れた結菜の髪を指で退かせてこちらを向かせる杏寿郎。
「結菜、よく顔を見せてくれ」
「杏寿郎さん」
「身体は、大丈夫か?」
「うん。杏寿郎さんは?」
「俺は男だからな。…その、なんだ…君の乱れた姿は…癖になる…」
 柄にもない言葉だった。女性に対してそんな言葉を発した事など当然ながら始めてである杏寿郎。結菜に出逢うまで、身体の関係に陥る相手など当然おらず、こうして結菜を愛おしいという気持ちが少しばかし照れくさい。けれど、想いは言葉に出さなければ決して相手に伝わるものではない。そして、自分の本音を相手に伝えるということは、少なからず勇気がいる。
「癖になるの?」
「あぁ。癖になるよ」
「もう一回する?」
 まさかの結菜からの申し出に杏寿郎は笑う。できるのなら今すぐもう一度抱きたい。可能ならば一晩中通して抱き潰していたい。逢えなかった時間を埋める事はできないけれど、その分これから沢山結菜を甘やかして愛してやりたいと思わずにはいられない。そして、なかなかちゃんと伝えられなかった沢山の愛の言葉を、結菜だけに伝え続けたい。
 右肩を下にして結菜の方に向き合うと、結菜も同じように左肩を下にして杏寿郎の方に身体事向き直った。きょとんと杏寿郎を見つめる純粋なその瞳の中に自分が写っていて…それだけで胸が熱くなるのを感じていた。
「朝起きたらもう一度抱かせてくれ。今日は疲れたろ、このまま眠らないか?」
 見れば結菜は瞬きを繰り返して瞼が落ちそうだった。それなのに杏寿郎に合わせてくれようとしていた結菜の優しさに触れるだけで杏寿郎は幸せだ。
 腕を伸ばして結菜の首の下に通す。そのまま腕枕をして結菜の髪の毛先をくるりと指でもて遊ぶ。
「ん。結菜幸せ…杏寿郎さん…もう離さないでね」
「あぁ約束する。もう二度と結菜を離さないと」
 嬉しい…そう笑った結菜はスーッと眠りに落ちていった。暫く眠れそうもないと思っていた杏寿郎も、数分後には結菜と同じ夢の世界へと落ちていく。

 翌朝。
 腕に残る痺れが心地良く、窓から射し込む陽の光で目が覚めた。まだ時計の針はいつも起きる時間より小一時間程早かった。隣で幸せそうに眠っている結菜の顔をまじまじと見つめる杏寿郎の胸はトクトクと規則正しい心音を奏でている。昨夜の出来事が夢のようで、それを確かめるべく結菜を軽く抱き寄せれば、うーんと寝返りを打ち杏寿郎の胸に顔を埋めた。そのまま暫く見ていたが、シャワーを浴びなければと杏寿郎は結菜の頬に口づけベッドから降りる。床に落ちている脱ぎ捨てた衣類を見て、どれ程昨日の自分に余裕がなかったのかと自嘲的に笑った。
 気持ちを落ち着かせる様にゆっくりとシャワーを浴びて洗面所から出ると、キッチンから香る珈琲のいい香りに足速にドアを開けた。慣れた手付きでベーコンを焼いている結菜が「先生おはようございます」朝から眩しいくらいの笑顔を向ける。杏寿郎はすたすたと歩いていき、杏寿郎が昨夜脱いだYシャツをそのまま羽織っている結菜を後ろからふわりと抱きしめる。
「おはよう結菜。だが俺と二人きりの時はその呼び方は禁止だ。俺の前では君も生徒ではなく、一人の女性として接してほしい」
「ふふ、わかりました。じゃあ改めまして、杏寿郎さんおはようございます」
「あぁおはよう。昨夜言ったこと、覚えているか?」
 一瞬きょとんとして小首を傾げた結菜の髪を後ろから退けて、細い項に唇を重ねると、びくっと肩を竦める。
「杏寿郎さん、ベーコンが焦げちゃうっ」
「また焼けばいいさ」
 後ろからホールドして結菜のシャツの上から胸を揉みしだく。すると腰が抜けそうになって脚をがくがくさせる結菜が至極可愛くて、くるりと反転させ杏寿郎はコンロのスイッチを切った。
 パチパチと油の上で跳ねているベーコンの音が消えてゆく。変わりに耳に入る二人の舌が絡まる音。キッチンのシンクに結菜を乗せても立っている杏寿郎の方が身長が高い。そのまま結菜の顎にクイっと指をかけて上を向かせると、迷うことなく口づけた。カタンて音の後、結菜が杏寿郎の首に腕を回す。そのまま杏寿郎が結菜を抱き上げるものだから結菜は慌てて杏寿郎の身体に両脚を巻き付けた。キッチンと隣接しているリビングのソファーの上にそっと降ろすと、結菜がトロンとした瞳で杏寿郎を見上げた。
「約束はちゃんと守らねばな」
 そう笑って結菜の頬にキスをしながらシャツのボタンを外していき、「待って」という結菜の声を無視して下着に手をかける杏寿郎。
「明るいから恥ずかしいよ、杏寿郎さん…」
「もう昨日全部見たよ」
「昨日は暗かったもん」
「ならば、慣れてくれ。俺は結菜の全部が欲しいんだ。そんな恥ずかしそうな顔も、俺を求める色っぽい顔も、何もかも独り占めさせて欲しい」
 愛する人にそんな事を言われて拒否できる女がいたら教えてほしい。結菜は頬を紅く染めながらも、自分を求めてくる杏寿郎の気持ちが嬉しくてそっと身体の力を抜いた。時計の針は出勤時間までまだ十分に残っている。

 もしも今、また一つ願いが叶うのなら…
 ――どうかこのまま時間を止めてほしい…。

 百年の時を超えて再び恋に落ちた結菜と杏寿郎。
 窓際にそっと置かれたサボテン。
 二人の幸せな未来を見守り続けたサボテン。
 この朝、漸く真っ赤な花を咲かせた。
 「枯れない愛」「燃える心」の花言葉。
 それは杏寿郎から結菜への確かな愛の証なのだと。

     【完】