愛の言葉を紡ごう【完】
B級上位ランク戦夜の部を前に生駒隊作戦室では相変わらずイコさんのよう分からへん呟きに水上先輩が突っ込むっちゅー絵図が繰り広げられとった。そんな事より俺は久々にこのランク戦が楽しみで、遠足前夜並にワクワクしとった。
せやって、1位二宮隊にはなにって、俺の愛する美月ちゃんがおるやん。俺と美月ちゃんのカレカノ対決っちゅーんは密かに俺達の交際を知っとる人等が注目しとるわけで。加えて2位の影浦隊には美月ちゃんの親友ゆき乃ちゃんもおるし、隊長の影浦先輩はSEがあるから無駄なカケヒキできんやろーから、もしも俺が影浦先輩を落とせたら美月ちゃん絶対俺んこと惚れ直すやろ。んで3位の俺ら生駒隊、そして4位の弓場隊。前回の二宮さんVS弓場さんは二宮さんの勝利やったから、今度は弓場さんが勝つとこ見たいねんけど、どうやろなぁ。弓場さんや二宮さん落とせたらそれもまた美月ちゃん、俺んこと惚れ直すやろなぁ…なんて事をひたすら考えとった。
解説は迅さんと風間さんで、実況は本部オペのハルちゃん。もうまさに俺らの為のランク戦やん!ってめちゃめちゃモチベーションあがっとるんを隠すのに冷静を装うのも疲れてきたわ。
1位から4位までの四つ巴のランク戦とあって、夜の部はA級隊員もほとんどの隊員が見に来るって専ら噂やった。
まだランク戦までには少し時間があった為、ちょっと身体を温めようと個人戦に顔を出すと、風間さんとゆき乃ちゃんのボーダーきってのバカップルが10本勝負をしているとかで賑わっとった。
「あー孝二くん」
名前を呼ばれて視線を向ければトリオン体の黒スーツ姿の美月ちゃんが手を振っとって、すぐさま隣に並ぶ。普段見慣れた制服とちゃうから結構ドキドキすんねんなぁ美月ちゃんの隊服。まぁパンツスーツやから許すけど、これでゆき乃ちゃんみたいにめっちゃ脚出しのホットパンツとかやったら確実に二宮さんに抗議やわほんまに。
「何対何?」
「6、3でゆき乃が勝ってる」
ブッ…苦笑いというか失笑というか。せやからこのフロアもザワついとるんかって理解した。
個人戦を執り行っている諏訪さんが「風間ァ〜ぬるい事してんなよォ」なんて言うとるんを柿崎さんが「まぁまぁ」なんて言っとるのが聞こえてきてまた笑う。
「孝二くんも、私のこと撃てなかったら可愛いいのに」
「いやそこは撃つわ俺。つーか俺以外に落とされんちゃうで、美月ちゃん」
「孝二くんこそ私以外の人に落とされないでね?弓場先輩…とか、カゲ先輩とか気をつけてよ?うちの犬飼先輩も厭らしいとこ陣取るの得意だし!あ、辻ちゃんも!」
なんや腹立つ。俺結構自分でも温厚な方やって思うんやけど、美月ちゃんの口から自分以外の男の名前が出ると無性にモヤモヤすんねん…。ほんのり膨れっ面で「はいはい」そう適当に相槌打っとったら、これまた大物揃いっちゅーかなんなんか、弓場さんと影浦先輩が揃って俺らのいる個人戦のロビーに現れた。
「おいゆき乃、そろそろ作戦室戻れや」
ちょうど6対4で勝利を手にしたゆき乃ちゃんがルンルンで風間さんとのランク戦を終えて出てきた。勿論ながら後ろから諏訪さんに文句垂れさせとる風間さんも一緒に。
「あー美月ぃ!蒼也に勝っちゃった!隠岐くん今日のランク戦ゆき乃のこと撃ったら蒼也に返り討ちにされるから気をつけてね!」
「いやそれ脅しやん」
めちゃくちゃテンション高いゆき乃ちゃんを、それでも優しげに見つめている風間さんはあくまで大人の対応。けど次の瞬間、そんなゆき乃ちゃんを奪うように手首を掴んで引き寄せた影浦先輩に、風間さんが一瞥したんを見逃さんかった。まるで視線だけで「俺の女に触るな」と聞こえてきそうなくらいの視線を送っとるから、影浦先輩めっちゃ肩に視線がビシビシ刺さってるんちゃう?なんて思うわけで。
「え、もうそんな時間?じゃあ蒼也まったねー!応援してね」
「あぁ」
照れもせずに手を振り返す風間さんにC級隊員達も驚いとるんが伝わった。まぁあの溺愛っぷりは有名とはいえ、生で目にするんは早々ないやんな。俺やってそう見れるわけちゃうし。
俺も紛れて美月ちゃんの手を取ろうとした所、「美月」聞こえた声に視線が固まる。
「弓場、先輩…」
ふわりと髪を揺らせて俺の隣からいとも簡単にそっちに駆け寄る美月ちゃん。初めて見るツーショやねんけど、なんやむっちゃ嫌な空気感出とるやん。俺に背を向けて弓場さんと話している美月ちゃんの横顔は、俺ん隣におる時とは別人のように思えて…
「どゆこと…」
ボソリと漏れた声に影浦先輩と歩いとったゆき乃ちゃんが何かを思い出したように振り返る。風間さんを前に影浦先輩の腕に掴まりながら「ヤバい、新旧対決じゃん!」そう言ったんや、間違いなく。
えーと、えーと、クソモヤついとる脳内を整理すると、もしや弓場さんは美月ちゃんの旧カレなん?そんな疑問が脳内に浮かぶ。
「そういえばゆき乃が言っていたな、今夜のランク戦が原田の新旧彼氏の対決だと。…まぁ頑張れ新彼」
うーわこの人も俺と美月ちゃんの関係を知っとるんやった。だてにゆき乃ちゃんの相手やっとるわけちゃうねんな…。
「風間さん俺、今のでめっちゃテンション下がりましたよ」
「メルタルも鍛えてこい、ヘタレ新彼」
この人があんなに影浦先輩がゆき乃ちゃんを好きなん分かってて何も言わんのは、そのメンタルが強いっちゅーことかい。
「あーもう!!美月ちゃん!行くで」
ちょっと強引に俺に背を向けて弓場さんを見上げる美月ちゃんを覗き込むように見ると、「孝二くん、」少しだけ動揺の混ざったその声に、目の前のこのでかい男がほんまに美月ちゃんの旧彼やと自覚する。けどな、オトコ隠岐孝二…新彼の立場があんねん。美月ちゃんの指先を絡め取り、グイっと後ろに隠す。
「あの、今は俺のなんで。それと今日のランク戦、絶対負けませんので」
別れた女になんの話しとんのか知らへんけど、こんなにやる気の出たランク戦は初めてや。切れ長の目で俺を真っ直ぐに見下ろす弓場さんは、ニコリともせず「感情的になりすぎだ。そんなんで俺を落とせると思うなよ、隠岐」煽りやがってん。
「弓場先輩」
俺の後ろから顔を出した美月ちゃんを見つめる弓場さんの顔が、さっきのゆき乃ちゃんを見つめる風間さんの顔と重なって余計にモヤモヤする。
「あかんやんほんまに…」
「孝二くんあの」
「ええて、ええて、気にしてへんから」
むちゃくちゃ動揺しとる俺を隠すのは得意やねんけど、正直今はそれを隠せとるか自信ないわ。けどそんでも俺は美月ちゃんをなるべく弓場さんの視界に入れへんようにしてロビーから連れ出した。
「もしかして妬いてる?」
なんや嬉しそうな声出すやん自分。誰のせいやーって俺は後ろからぎゅうっと美月ちゃんを抱きしめた。ちょうどええ身長差やねんこの子。頭頂部に顎を乗せて目を閉じると自分の心音がトクトク鳴っとるんがよう分かる。
「妬いてへんわ…――嘘。むっちゃ妬いた。教えてくれたらよかったんに、弓場さんと付き合うとったって、」
「うーん、でも…孝二くんの元カノさんがもしボーダー内にいたら、私は知りたくないかも」
「せやから言わへんかったん?」
「うん。でも孝二くんがヤキモチ妬いたのは超嬉しい、うへへ」
うーわ、ランク戦どーでもようなってきた。このまま帰ってイチャイチャしてたいわ。ムラムラして美月ちゃんのサラサラストレートな髪をかきあげながら出てきた項にちゅっとキスを落とすと「はうっ」変な声出てる美月ちゃんが振り返ったのをいい事にそのまま唇を塞いだ。
ランク戦前にこんな場所で何やっとんねん!なんて冷静に考えたら水上先輩辺りにむっちゃ突っ込まれそうやねんけど、一度触れてしもた唇はなんとも甘く、キスを止められへん。
どんどんエスカレートしていく俺に美月ちゃんはされるがまま。こんな俺すら受け入れてくれてる、むっちゃええ彼女やん!…漸く自我を取り戻した俺は小さなリップ音を残して美月ちゃんと距離を作る。
「孝二くんにちゅーされた」
嬉しそうに笑う美月ちゃんには勝てへんと思えた。イコさんや数少ない俺らの関係を知っとる人等には、俺が美月ちゃんを翻弄しとるように思われがちやねんけど実際は全然ちゃう。いつだって俺が美月ちゃんに勝てへんのや。
「はぁーあかん。むっちゃ好きやで」
「!!!もぅ…」
「美月ちゃんは?」
「うん」
「うんとかいらんから、好きって言うて」
照れ屋な俺の美月ちゃんは中々好きやって言うてくれへんからたまーにこうやって無理やり懇願してまう。
「今日のランク戦で生駒隊が勝ったら言う」
「よっしゃ、なら本気で勝ちに行くで。美月ちゃんも俺が落とすから覚悟しときぃ」
「おー!」
リスみたいに白い歯を覗かせて笑う美月ちゃんに名残惜しくもう一度ちゅーしてからそれぞれの作戦室に戻った。
◆
「お待たせ致しました。B級上位ランク戦第七戦目、まさに夢のカード。上位4組の直接対決が今夜実現されます。本日有り難くもこのカードを実況させて頂く本部オペレーター相沢ハルです。解説はお馴染み風間隊隊長の風間さんと、玉狛支部の迅さんのお二人です」
「「どうぞ宜しく」」
「ええっと、聞いてもいいのか分かりませんが風間隊長、その、どうですか?ご心境は?」
ハルの言葉に会場内がざわついた。ボーダー内でも有名なカップルである影浦隊アタッカーゆき乃もこのカードのキャストである。公私共に仲良くしているハルも勿論楽しみであるが、最愛の恋人が出るという事で風間がどんな気持ちなのか知りたがっている人は多いだろうと。
ハルの質問に顔色一つ変えることなく「個人的に言うなれば、一ノ瀬の笑顔が見たいと思っている。だがランク戦はそう簡単なものではないと言うことも分かっている。一つ言えるのは、彼女は決して諦めないだろうという事だ。…これでいいか?相沢…」
「バッチリです、120点です」
「相変わらずブレないねー風間さん。ある意味尊敬するよー」
堂々たる風間の言葉にふっと迅が笑った。
間もなく始まるランク戦。会場内には予想通りC級、B級に紛れてA級隊員達の姿が多く見られる。
「本日はA級隊員の方も多く会場に脚を運ばれているようで、おおっとここで弓場隊のステージマップが確定したようです」
画面に映し出されたそれにまた少し会場内がざわつく。
「市街地B…は、至って普通に思えるのですが、天候が雪で時間帯夜…これにはどんな思惑があると思われますか?」
無言の風間に変わって迅が苦笑いで答える。
「これは弓場だろうね〜。あんまり多くは言わないけど、この日をやり直したいんじゃない?今日のカードは弓場にとってはどの対戦より重要なんだって気がしちゃうなぁこれ…」
未来視のSEを持つ迅だけれど、それ以上になにか知っているような意味深な言葉に他の隊員達は理解不能という表情を見せている。
それでも隣の風間でありハルは「「なるほど…」 」二人同時に迅の言葉の意味を理解した。
「ある意味本日の対戦カードは、わたし達にとって忘れられない日になるでしょう。個人的にはクラスメイトの一ノ瀬隊員と原田隊員を応援したくなりますが、今夜の見所は色んな意味でかなり大きいでしょう。さて間もなく転送開始です!」
ランダムに配置される隊員達、市街地B、天候雪、時間帯夜、転送された美月は街がクリスマスカラーに色づいているのを見て時間が戻ったように思えてしまう。
「弓場先輩…」
対戦前、弓場がわざわざ美月のところまで来て言い放った言葉に胸がチクンとなる。
別れた原因という原因は考えれば考える程ないと思えた。ただお互いの持つ時間とかちょっとした気持ちのすれ違いに、若さゆえに留まれなかった。二人で過ごすはずだったクリスマス生まれの美月の誕生日であったあの夜、急遽入ったボーダー任務で過ごせなくなった事があり、それを今夜再現させるなんて弓場先輩はどこまでも狡い人だ…と美月は白い息を吐き出した。
二宮隊スナイパーの美月は、複雑な気持ちを抱えながらも射撃場所を求めて雪降る夜の街をひたすら走っていく。
今夜のカードは四つ巴ともあってランダムに転送された配置もそう離れていない。バックワームで身を隠していても美月のレーダーには数人近くにいる事を表している。
【原田、辻の援護に回れ】
【原田了解】
【二宮さーん、誰かと遭遇します俺!一ノ瀬ちゃんだったら戦っていいですか?それとも先に合流します?】
【勝てるなら戦え】
【酷いなぁその言い方。でも一ノ瀬ちゃんのバックには風間さんがいるからちょーっと怖いよねぇ。辻ちゃんは女の子切れないだろうし】
【…すいません】
【帯島ちゃんだった、犬飼戦います】
二宮隊の通信後、空から大量にメテオラが降ってくる。影浦隊北添の適当メテオラに違いない。
【犬飼、帯島の近くに弓場がいるかもしれないから気をつけろ。辻、原田も援護に回れ】
【【【犬飼、辻、原田、了解】】】
「犬飼隊員、帯島隊員と正面顔合わせ、犬飼隊員のガンナーが帯島隊員を追い込む。さぁどーなる!」
「珍しい組み合わせだねぇ〜。弓場がそのへんに潜んでいるなら帯島有利だな。原田が狙ってくる事も含めると犬飼も攻めるだろうね〜。後は外岡が誰をマークしてるかも気になるなぁ…」
迅の解説の最中も、犬飼と帯島の戦闘が続いてる。時同じくして別の場所では生駒隊隊長の生駒と風間の溺愛するゆき乃がまさに対面した。その刹那、0.4秒という速さで「旋空弧月」を振り放った生駒に、ゆき乃が華麗に空を舞った。
「あっぶねぇ!!イコさん、ゆき乃のこと狙っちゃイヤッ!嫌いになっちゃうよぉっ!」
生駒に向かって艶っぽい声を出した上にパチンとウインクするゆき乃。解説の風間の眉間にシワが寄っている事も知らずに色気を振りまくゆき乃に生駒は膝からガクンと地面に項垂れた。
【何やってんねんイコさん。そやって何度も一ノ瀬に騙されてるやん!ええ加減慣れてや】
【またすか、水上先輩。イコさんゆき乃ちゃん風間さんと別れる気ないですよ】
【いや分からへんやん!ほんまに今度こそ俺ん事好きなっとるかもしれんくない?】
【【ないない…あ!】】
【なんや隠岐】
【弓場さんおった。狙いますわ】
【隠岐むっちゃ気合い入っとるやん。風の噂で聞いたんやけど、弓場と原田ちゃんて、】
【イコさんちょお黙っといて下さい】
隠岐の視線の先、弓場を狙っている美月の姿が映る。イーグレットを構えて弓場を追いかけている美月がちょうど影浦と対面した弓場に一発放つ。
「惜しいっ!いや今のは当たっとるやろ。なんで避けんねん、あの野郎。はよ場所変えなやられんで」
気づけば美月の逃げやすい所にグラスホッパーを置いて隠岐自身もまた別の場所へと身を隠していた。
「これは隠岐隊員、職権乱用でしょうか…。風間隊長、これはありでしょうか?」
実況のハルもつい画面越しに頬が緩む。あの隠岐が感情剥き出しになっている姿はボーダー内でも学校内でもそう無い。
「無しに決まってるだろう。そう言いたい所だが、今回だけは目を瞑ってやってもいいかもしれん」
「なになに風間さん、なんか知ってるの?」
「迅お前はこの試合が終わったら相沢に聞けばいいだけだ」
「あの風間さん、わたし達の事はいいので」
小声で顔を真っ赤にしてそう言うハルを見て、迅が意味深にハルの頭をポンポンと撫でた。
【二宮さーん】
【なんだ原田】
【隠岐孝二は狙わないでください】
【却下だ】
【なになに原田〜。なんでぇ?彼氏だから?】
【弓場先輩から逃げやすいようにグラスホッパー置いといてくれたんです。めっちゃ優しくないですか?ね、ね、孝二くんだけはメテオラもバイパーもハウンドも止めてください】
【却下と言ったろ。個人的な感情は捨てろ。俺は絶対1位でこの試合を終わらせる】
【なによ、ケチ!】
【な!!!!】
【【ブッ!!!】】
「なんか、揉めてますね二宮隊…」
聴覚会話は画面越しには分からない。マイクをつけているわけでもないから会話までは拾えない。けれど顔の表情で会話をしているのは分かるからハルはそれが気になって仕方がない。あきらかに美月の顔がぶー垂れて見える。ハルやゆき乃の前でもよく見せるぶー垂れた顔だったからどんな会話が繰り広げられているのか悟った所で迅のような未来視のSEがあるわけでもないのでさっぱりだ。
転送開始から約5分。一人目のベイルアウトが宙を舞う。
「おーっと弓場隊、外岡隊員まさかのベイルアウトだ。二宮隊原田隊員の射程距離に身を隠していたようですね」
「原田はいいとこ取ってるな。スナイパーとしての自覚も最近は出てきたようだな」
「風間さんそれも一ノ瀬の情報?」
「まぁそんなとこだ」
「わたしから見ても原田隊員は最近頑張ってると思います。外岡隊員もなんでベイルアウトしたか分かって無さそうですねこの状況だと」
「だろうね〜。スナイパーとして後ろ取られる事は命取りだからねぇ」
ベイルアウトの光を見て美月はガッツポーズ。そのまま直様逃げようと建物から飛び降りたそこに偶然にも隠岐と弓場と美月の三人が顔を揃えた。
脚元が雪で埋まってくる中、白い息を吐いて三者視線を絡ませる。
「最悪やんこのパターン。弓場さん悪いけど美月ちゃん狙ってええんは俺だけや」
隠岐が美月の腕を引っ張って自分の後ろに隠す。完全に弓場の射程距離であるこの対面。弓場がその気になれば隠岐のグラスホッパー等あってもなくても変わらない。上級者でもそう避けられない弓場の弾丸がいつ飛んできてもおかしくない。
「なるほど。俺も隠岐のように素直に気持ちを言葉にしてあげられていたら、違う未来があったのか?」
「は、この期に及んで何言うてはるん、この人」
「弓場先輩…」
少し困ったように視線を飛ばす美月のその手はしっかりと隠岐に握られていて。今ここがランク戦の最中だということすらこの三人には抜けてしまっているのかもしれない。
「新旧対決やとか、元カレやとかどーでもええねん。美月ちゃんの今カレはこの先もずっと俺だけです!一生な!!!」
「え、プロポーズ?孝二くん、」
「いや、ちゃう!そうちゃう!いやそうちゃうことないけど、とにかくや、弓場さんもし美月ちゃんに未練があるんなら、きっぱり諦めてくださ、―――うせやんっ!」
言葉の途中で弓場が抜いたガンナーから光が発されて隠岐の身体に穴をあける。
―戦闘体活動限界、ベイルアウト―
機械的な声がすると隠岐が光の線を放って消えていく。
「よかったな美月、アイツなら安心だ」
「あの弓場先輩…」
「これからはクリスマスも誕生日も隠岐と一緒に過ごせよ。俺達は別れたけど、美月が困った時はいつでも頼ってこい。先輩として面倒見てやるから」
普通に歩いてきた弓場が美月の頭を優しく撫でるとそのまま美月とは反対方向へと走っていく。その後ろ姿をただ黙って見つめていた美月の手の平に、ヒラヒラと雪の結晶が落ちていった。
◆
完敗やった。クソッ!あんなダサいベイルアウトしてもーた俺はランク戦が終了してからも生駒隊作戦室から出られへんでいる。よりによって美月ちゃんの目の前で撃つとかないわぁ。ドSやん弓場さん。あーもう、悔しい!!ほんまに悔しい!!
バタバタソファーを占領して脚を動かしとるとコンコンと、ドアを叩く音。
「隠岐くん、美月さんのお迎えきてます」
真織ちゃんにそない事を言われ、へっ!?と振り返るとリスみたいに笑う美月ちゃんの笑顔が俺を出迎えた。
「イコさん、孝二くんお借りしますね」
「ええよええよ、好きにしたって」
「ではお言葉に甘えて好きに持ち帰りますね」
いやいやおかしいやん!俺の手首を掴んだ美月ちゃんはそのまま生駒隊作戦室を出て普通に歩き出す。俺の聞き間違いちゃうと思うねんけど、今持ち帰る言うたやんな?
「負けたやんランク戦。勝ったん美月ちゃんやん…」
自分で言うててあんまよろしゅうない言葉やねんけど、美月ちゃんがそれでも笑顔で俺の腕に自分のを絡めてくるからドキンと胸が脈打つ。
「うんでも、私の中ではやっぱり孝二くんが勝ったから」
「え?どゆこと?」
「孝二くんがあんなに妬いてくれるなら、弓場先輩が元カレだよってもっと早く言えばよかったー」
ニッて嬉しそうに笑う美月ちゃんに、弓場さんに奪い返されへんようにってどんだけ必死やったんかと思うわけで。隣の彼女はふわりと甘い香りを靡かせて俺の腕に鼻を擦り付けてクンクン匂い嗅いどるから、そんな姿に心底胸を撫で下ろす。思ったより俺、愛されてんちゃうかな…そう思えた。
ふぅ〜と一つ息を吐き出して俺は美月ちゃんの首に腕を回す。
「孝二くん?」
「黙っといて」
ドンっと近くにあった電信柱に美月ちゃんを押し当ててそこに手をつく。
あかん、止まらへん。ほんま無理やわこの子、好き過ぎるっちゅーねん。ストレートの髪先を指に絡ませて美月ちゃんの顎をクイッとあげる。見つめる瞳の奥には俺が映っとって…その目をそっと伏せる美月ちゃんに迷うことなくキスをした――。
そっからはもうわけ分からへんくて。家まで我慢できず、一番近くにあったラブホに直行。エレベーターに乗って部屋につくまでもずっとちゅーを繰り返した。嫌な顔一つせず、むしろポウッと蕩けそうな瞳で俺を見上げる美月ちゃんにちゅーだけで俺の下半身は覚醒気味。カードキーで部屋に入ってそのまま奥のキングサイズベッドにトンっと押し倒す。パサリと茶色がかった色素薄いサラサラの髪がシーツに乱れて見えただけで俺は心底興奮した。顔の横に手をついて唇をハムッと舐める。そのままほんのり開いた隙間から舌を入れ込んで口内を激しく舐める。美月ちゃんの舌を絡めとって何度も吸い上げると、「はぁっ孝二くん…」とろりと口端から漏れた唾液を舌でぺろりと舐め取った。
「我慢きかへんねん、嫌やったら言うてな」
ちゅ、ちゅ、と首筋に舌を這わせる。耳穴に指を突っ込みながら鎖骨をちゅうっと吸い上げると紅紫色の花を咲かせた。ぎゅうっと俺の首の後ろで腕を交叉させてキスをせがむ美月ちゃんは「孝二く、」気持ち良さげな声を零す。ほんまにあかん。ますます我慢もコントロールもきかなくなるやん。けどそれが正直たまらんで、もどかしいぐらいに美月ちゃんが身に着けとる衣服を脱がせていく。
「腕あげて」
バンザイしてキャミソールを脱がせると白いブラが顔を出した。黒い刺繍の入ったブラにテンションがあがらんわけはない。けどそれよりやっぱり素肌の美月ちゃんが見たくて、ちゅっと数回ブラの上からちゅーを落としてから肩の紐を下ろす。そのままブラを下にずらせば「はううっ」て声をあげる美月ちゃんがむちゃくちゃ可愛ええ。貧乳やって気にする所も可愛ええんやけど、絶対美月ちゃんのおっぱいおっきくなってるんちゃうかと思う。いやもう俺のたまものやんなぁこれ。
「ちょっとおっきなってんで、おっぱい」
「え?ほんと?ほんとに?孝二くんにいっぱい揉まれてるからかなー」
のほほんと嬉しそうに白い歯を見せる美月ちゃんは次の瞬間俺が尖端を吸い上げた事で言葉を失った。
「んっ」
「声、我慢せんでや」
「んっ、きもちいっ」
「もっと気持よーさせたる」
じゅるりと唾液を混ぜてピンと上を向いたピンク色の尖端を舌で転がす。浅く呼吸を漏らしながらも脚をずらす美月ちゃんの胸を存分に愛撫していく。身体のラインに沿って指でなぞると美月ちゃんの呼吸が更に大きくなった。腰のラインからお尻に移動させた手は下着の中に指を入れてふわりと撫でると「んふっ、セクハラー」そう笑った。
「いや俺彼氏やし」
「あは、そーでした」
「あ、そういや好きって言ってくれへんの?」
不意に思い出した約束。約束や言うてもまぁ負けたんやけど生駒隊。順位は変わらず、二宮隊、影浦隊、生駒隊、弓場隊の順位やったしなぁ。ちらりと視線を合わせると美月ちゃんはムクリと起き上がって俺の頬を両手で包んだ。
「まだだめー」
ぎゅって勢いよく抱きつくからそのまま後ろに二人でぶっ倒れる。俺の上に乗っかっとる美月ちゃんが既にモリッとしとる俺のそこに手で触れた。若干苦笑いで美月ちゃんを見上げるとニヒッてやっぱりリスみたいに笑ったんや。
「これ脱がせまーす」
制服のスラックスのベルトに手をかけると、スルスルと慣れた手付きでそれを外す。チャックを下ろして美月ちゃんの温もりがそこに触れるだけで熱く熱を帯びとって…
「あーそのまま触ってや」
「ふふ、前から思ってたんだけど、隠岐くんのっておっきーよね」
いつもは孝二くんって呼ぶんに、あえて隠岐くんって呼ぶ美月ちゃんに一瞬笑いそうになってまうけど、そんな余裕なんがちょっと癪やろ。
CKのボクサーパンツをいとも簡単に脱がせるとひょこっと顔を出す俺のんに、美月ちゃんは笑いながら根本を手で掴んで「やっぱり隠岐くんのおっきー」スッと上に抜くから「んっ、」声が漏れる。そのまま俺の尖端をちゅるって舐めるから反撃できんくなる。後ろ手をベッドについて脚を広げると、するするとそこに入り込む美月ちゃんの頭をやんわりと撫でるけど意識はそこに集中しとって、口に含んで奥まで呑み込むように舌を絡ませられて脳がそれしか考えられんくなってく。
「はぁ…ヤバいわほんまに…気持ちよすぎ」
短い呼吸を繰り返す俺に、それでもまた「隠岐くんのおっきー」を口にする美月ちゃん。最早その言葉の響きが気に入っただけやんそれ!なんてツッコミたいのにそれを上回る心地よさに口を開けてはぁはぁ淫らな呼吸を繰り返すだけ。
「ちょお待って、イッてまう、」
じゅるりと更に奥まで呑み込んだ美月ちゃんの頭に触れて行為を止めさせた。腹筋をぽこぽこと動かしながら肩の呼吸を整えると俺は美月ちゃんの腰に手をかけて、ふわりとそのままベッドに押し倒した。あっという間に立場逆転、美月ちゃんを組み伏せた俺は、口元を手で拭って美月ちゃんのオデコに小さくキスを落とす。
「随分余裕な態度とってくれるやん」
「へ?」
「俺のんがなんやって?」
「うへ、隠岐くんのおっきー」
「その余裕覆したるわ」
キョトンとした瞬間、美月ちゃんの腰に腕をかけて白いショーツをひらりと抜き去った。それを部屋の隅に投げると「遠すぎるし!」そうはしゃぐ。
けど次の瞬間、開いた脚の間に手を滑らせてツプっと指を腟内に挿入させる。
「あっんっ、」
きゅうっと俺を締め付ける美月ちゃんの腟内は熱くとろとろで、中の愛液を掻き出すように指の関節を曲げてこりこりと擦ると、ゆらゆらと腰を揺らせて美月ちゃんがシーツをぎゅっと掴んだ。むぅっと唇を尖らせてほんのり目を細めるんは気持ちええ証拠やって。もう一本指を増やして二本指でくちゅりと卑猥な水音をこの部屋のBGMに変える。それに合わせて美月ちゃんの腟内がきゅうきゅうと更に俺を締め付けてくる。
そういや俺らえっちするん結構久々やん。防衛任務やらランク戦やらテスト期間やらで美月ちゃんとこうして抱き合うことが久々やって。
「孝二く、イッ…」
うんうん分かっとんで、何回えっちしたと思っとんねん、俺ら。美月ちゃんが首を横に振って俺の腕にぎゅっとしがみつく。短い呼吸を繰り返しながらも俺の指をどんどん締め付けていって、不意に剥き出しの突起を親指でぐりりと撫でれば「あああああっ…んんっ」甘ったるい声をあげて美月ちゃんは思いっきり潮を噴いて身体をこれでもかってくらい仰け反らせた。ベッドのシーツにポタポタと垂れ落ちる美月ちゃんの愛液が堪らなくエロい。
びしょ濡れの指を抜いて、口呼吸を繰り返す美月ちゃんをぎゅっと抱きしめると、「孝二くん激しい…」肩口をペロリと舐めながら抱きしめ返してくれる。
「美月ちゃんはむっちゃエロいわぁ。ほんまにどこでそんなエロくなったん?」
ポンポンと髪を撫でるとムゥっとまた唇を尖らせて「どこでって、孝二くんのとこに決まってるもん」子供みたいに語尾をあげる喋り方が死ぬほど可愛ええし、あー無理。
「上乗って」
脇の下から背中に腕を回して抱き上げると美月ちゃんを胡座をかいた上にラッコ座りで乗せた。完全に覚醒しとる俺のおっきーのんを美月ちゃんの入口にぐりぐりと宛てがたうと、「ふふふ、めっちゃ勃ってるーおっきーの!」腰を埋めてぎゅっと抱きついてきた。そーゆーんむっちゃ可愛ええからやめてーなぁ…そう脳内で思いながらも背中に腕を回して強く抱きしめる。
「好きやで美月…むっちゃ好きや…」
「孝二くん」
「次もし弓場隊と対戦したら、次は絶対負けへんから。試合もプライベートも美月ちゃんは俺のもんや」
「ん、孝二くんだけのもんだよ。…私も好き」
ん!?待って、「それ目ぇ見て言うてよ〜。ぎゅーしたままやと美月ちゃんがどんな顔しとるか分からへんやん」眉毛を下げて訴える俺に、美月ちゃんはほんのり紅い顔を覗かせると、「好きだよ」…――あかんわ、イッてまう!!!
挿入して十秒と経ってへんのに、俺はあまりに気持ちが高ぶっていて、美月ちゃんの身体の滑らかさと触れ合う肌の心地よさ、加えて頬を掠める柔らかな吐息と、特別感満載な告白に、俺はものの見事に吐精してもーた。
◆
「いいなぁそれ!蒼也もゆき乃が好きって言ったらイッてほしいなぁ〜」
「ゆき乃の場合しょっちゅう好きとか言ってそうだから、風間隊長イキまくりじゃんね」
「迅さんはSEあるから企みがバレちゃいそうだよねぇ」
…―――なんちゅー会話しとんねん!!!健全なる学校の中で。俺が近くにおるん分かってて言ってるんか、この子ら。
「よお隠岐!!負けっぱなしみてぇーだな、原田に!」
ポンと米屋が俺の肩を叩く。は?米屋まで知っとんの?その後ろで出水も、なんなら三輪までもが俺をそーゆう目で見とるようでむっちゃ居心地悪いんやけど。
「ちょおちょお美月ちゃん!俺らのことなんか言うたりしてへんよね?」
プランとしている美月ちゃんの手を取って引き寄せる俺に、美月ちゃんは白い歯を覗かせて質問とは全く関係のない答えを言い放ったんや。
「好きだよ孝ちゃん」…言いたい事はいっぱいあるのに俺はポカンと口を開けて高揚しとる美月ちゃんを見つめる。―――ドクンと下半身が大きく脈打ったんは、誰にも秘密やで。
