理想の女【完】

 カチカチとキーボードを指で弾く音が鮮明に耳に入る。気づけばセピアカラーだった空は漆黒に包まれていて、壁時計の針は今日もまた間もなくてっぺんを超える寸前だ。大きな窓の外はネオンで色付いていて、日付が変わる寸前だというのにまるで昼のように明るい。デスクの上に置かれた飲み終えた缶珈琲三本が虚しく俺に一日の終わりを告げる。
 別に仕事人間になっているつもりはない。それでも今の仕事はそれなりに忙しく、月末はこんな感じに日を跨ぐ事も多かった。終電に乗るのも面倒で遅くなると思った日は車で来るようにしていたから、凝った肩を回しながら煙草を咥えて会社の地下にある駐車場までのんびりと歩く。左手の中にあるスマートフォンの画面は最愛の恋人であるマサコとのトーク部屋が開かれていて、通話ボタンを押そうか迷って今日も止めた。朝が俺より早いマサコはきっともう眠っている。今日が金曜日ならそれでも通話ボタンを押したであろう。生憎週の始まり月曜日だ。明日こそ電話をかける…そう思いながらもう何日が過ぎていただろうか。マサコもマサコで中間管理職で後輩の面倒を見ながら新しいプロジェクトのチームにも選ばれたとかで忙しいとは言っていた。
 ――邪魔したくねぇ、そんな俺の気の迷いがマサコを苦しめるとは思いもせず、俺は今日もマサコからのLINEに返信することもなく家路につく。
 シャワーを浴びて倒れるようにベッドに埋もれるとすぐに睡魔に襲われる。翌朝目覚めるまで一度も意識が戻ることはなく、死んだように眠る生活をここんとこずっと繰り返していたんだ。
 マサコに逢いてぇと思いながらも、重たい身体を起こしてまた同じルーチンを繰り返す。目覚めが悪かった俺は朝飯を食ってる時間がなく、コンビニでパンと珈琲を買いそれを頬張りながらまた今日も車を出す。会社に着くまでマサコに電話をしようとも考えたものの、あっちは俺みたいに車じゃない。満員電車じゃ電話に出ることはできないだろうと小さく息を吐き出す。
 そんな俺が出社すると腹立つくらい爽やかな笑顔で同期の虎杖が俺の肩をポンと叩いた。
「おっす伏黒!昨日マサコちゃんに会ったぞー飲み屋で」
「は?マジで?」
「おー。なんか会社の先輩だかなんだかと飲みに来てたみてぇでなー。俺もちょっと挨拶しただけでほとんど喋ってねぇが、わりと疲れた顔してたぜ」
「それって男?女?」
「ふっ、お前ってかなりマサコちゃんのこと好きだよな伏黒ぉ。残念だけど男だったぜ、銀髪のきのこヘアーのな!ま、せーぜー頑張れよ」
 余計な事まで俺に伝えやがった虎杖は機嫌良さげに自分の部署へと戻っていく。うーわマジで腹立つ、あの野郎。つか銀髪きのこ野郎って誰だよ。元々あまり感情を表に出すタイプじゃないけれど俺は久々に苛ついてしまう。マサコが俺と逢えない間に男と飲みに行って楽しんでると思うとやり切れない気持ちと、男に対してなのか、はたまたマサコに対してなのか胸の奥にモヤモヤと黒い霧がかかった気分だった。
 それでも仕事の忙しさが変わることもなく、胸の奥のモヤが取れることもない。けれどその日の夕方、珍しくマサコからスマホに入ったメッセージに俺は自然と心が浮ついているのが分かった。
 今夜逢える?なんてマサコからの誘いに俺の胸の奥にあった黒い霧はスーッと消えていた。それでもモヤモヤが消えたわけじゃない。そもそも銀髪きのこ野郎のことは問い詰めてやらんと気が済まないとは思っている。
 そんなこともあり仕事は思いの外捗って、定時を少し超えた頃にはもう今日のノルマは達成していた。帰り際にトイレの前で身嗜みを整えているとまた虎杖と顔を合わせる。
「なに?デート?」
 相変わらずニヤついた顔に内心苛つきながらも「あぁ」と素っ気なく答えた。それ以上特に何かを聞かれることもなかったので俺も気持ちをマサコに戻して待ち合わせ場所である駅の改札口の壁に背をつけて行き交う人を眺めていた。
 しばらくすると電車を乗り継いできたマサコらしき姿が目に入る。わりと久しぶりのその姿に俺は瞬時に胸がトクンと音を立てた。なんやかんやで逢えばマサコとうまく会話もできるだろーなんて思っていて、まだ俺に気づいていないマサコを迎えに行こうと一歩脚を踏み出したその時だった――
「じゃーね伊達さん」
 微かに聞こえたそんな声と、マサコの肩にポンと手を置いた銀髪きのこ野郎に虎杖の言っていた嫌な記憶が呼び戻されたんだ。
「狗巻先輩もお気をつけて」
 マサコの綺麗な声が耳に入る。こんなにザワついているというのに俺の耳にはその声は鮮明に届いた。自分以外の男に笑顔で手を振るマサコに、また胸の中にドス黒いモヤがかかる。当然ながら俺に気づいたマサコは、首元のストールからほんのり見え隠れしている口端がニコリとあがった。
「恵!」
 胸の前で手を振って小走りで駆けてくるマサコ。柔らかい髪がふわりと揺れてシャンプーの香りが鼻腔を掠めた。
「ごめんね待った?」
 小首を傾げて申し訳ないって顔をするマサコがくそ可愛いと思うのに、さっきの二人のやり取りが頭から離れねぇ。
「いや」
 ボソリと出した声は自分で思うよりも低く、こんな事でヤキモチ妬いてるのが馬鹿らしいと思っているのに、俺の機嫌は直ってくれそうもない。
「お腹空いちゃった、何食べる?」
 当たり前に俺のモヤモヤに気付くことのないマサコは、熱量の違う俺の腕に自分のを絡ませて「恵?どうかした?」罪なく笑った。
 わざとらしく疲れたように溜息をつく俺にマサコの顔から笑顔が消えた。
「ごめん疲れてるならご飯やめようか。ここんとこずっと忙しかったよね。LINEも返信来なかったし、電話もでなかったし」
「別に平気だよ。疲れてはいるけど、」
 ――逢えるのは楽しみにしてた。
 そう言う事なく口を閉じた。逢って早々こんな微妙な空気を望んでいるわけじゃない。そんなのお互い分かってるけど、マサコに逢いたくても逢えずにいた期間、あーやって俺以外の男と笑い合っていたのか?と思えば、気持ちが沈んでいくようだ。
 けどさすがにこれじゃまずいと俺はマサコの腕を掴んで歩き出す。
「あのさ、予定変更してもいい?」
「え?」
 なに?って顔で俺を見上げるマサコの表情はそれでもまだ不安気で。せっかく久しぶりに逢えたっつーのにマサコにそんな複雑な顔しかさせられねぇのかと思うと自分に嫌気がさす。
 向かった先は駐車場。停めていた車のキーを開けて中にマサコを押し込んだ。そのまま自分も運転席に回って車に乗り込む。
「場所変えるの?」
 マサコの問いかけを無視して俺は半ば強引にマサコの腕を掴んで引き寄せると、運転席から身体を折り曲げてマサコの頬に手を添える。そのままあっという間に唇をハムった。
 数カ月ぶりのキスにテンションがあがってそのまま舌を入れ込む。ちゅるりと口内で舌が絡まる音が車内に響く。もっとマサコを感じたくて強く抱きしめようと背中に腕をかけてまた口づける。
 やべ、止まんねぇ。抵抗しないマサコがこのキスを受け入れていると勝手に判断し、俺はサイドキーを引いてマサコの椅子の背もたれをガコンと後ろに倒した。ふわりとマサコの髪がシートに流れ落ちて、次の瞬間思いっきりマサコに胸を押される。
 ハッとしてマサコを見下ろせば、唇を真一文字にして俺を睨みつけている。
「なんで、」
「え?」
「なんでこんなことするの?」
「は?なんでって…」
 勝手に妬いてムカついて、挙げ句マサコは俺のもんだと示すようにこうして抑えの効かない自分を優先させて今に至る。や、だって、抵抗してねぇし、マサコだってその気になってんじゃ…――ねぇか、んなこと。マサコの言葉に漸く冷静さを取り戻したものの、素直にごめんと言えないのは、少なからずさっきの銀髪きのこ野郎が脳内に残っているからだ。
「せっかく久しぶりに逢えて嬉しかったのに、恵は機嫌悪そうだし、こんな我慢の効かない子供みたいなやり方…酷い」
 ご最もだって分かってる。けど…
「俺が必死で仕事してる間、マサコはあの銀髪きのこ野郎と飲みに行ってたらしいじゃん」
 ハンドルに身体を預けて視線を窓の外に向けた。だからマサコがどんな顔をして聞いているのかは分からない。俺の言葉にマサコは小さく溜息をついた。
「虎杖くんに何聞いたのか知らないけど、狗巻先輩は私にちゃんと仕事を教えてくれてるだけだよ。恵に怪しまれるような事は一切ないし、恵に悪く言われたくない!」
 意外だった。マサコはいつだって優しくてニコニコしていて、誰かを悪く言う様な事はなく、腹ん中真っ黒な俺と違ってすげー綺麗だと思っていたから、こんな風にマサコと言い合いになる事など今まで一度もなかった。
 振り返るとぎゅっとストールを握り締めてやっぱり唇を噛み締めている。
「あっそ。んじゃ帰れよ。逢えて嬉しいって思ってたのは俺の方だけだったのかもな。お前のこと、」
 ガチャリと助手席のドアが開いた。カツンとヒールを鳴らせて駅の方へと走って行くマサコの後ろ姿を追いかける事ができなかった。
 今追えば、もしかしたら間に合うのかもしれない。けど自分のプライドの方が勝ってしまった俺は悪くないなんて馬鹿みてぇに自分に言い聞かせてこの喧嘩の終わりを静かに待つことにした。

 すぐに終わると思っていたその喧嘩の終わりが来ぬまま月日は流れて、気づけば最後にマサコと逢ったあの日から3ヶ月が過ぎていた。
 季節は秋から冬に変わり、人肌恋しい夜の到来だ。俺もマサコも意地になってLINEにメッセージを送れずにいる。さすがにやべーと思い始めたのは街がクリスマスカラーに染まっていき、肩を並べて歩く恋人たちが目に入るようになってきたからかもしれない。つーかマサコはこんなに長い時間俺に逢えなくて寂しくねぇのか?と思ってしまう。
 俺はといえば、寂しい。馬鹿みてぇに寂しい。けどそれをマサコに伝えたくても伝えられない。
「マジで俺ら、もう終わりなの…」
 咥え煙草の煙がゆらゆらと揺れていてそれをただ眺めていたらポンと肩を叩かれた。振り返ると虎杖がニカッと満面の笑みを浮かべていて、なんとなく嫌な予感のした俺は聞こえた虎杖の言葉に眉間にシワを寄せた。
「伏黒さ、今夜予定ある?」
「ある」
「またまた〜。本当はねぇんだろ?ちょっと付き合えよ」
 勝手に俺の心を読まねぇでほしい。絶対いい予定じゃないって思うのに、家で独りで食う飯はさすがに味気無く、それを誰にも伝えられずにいる。俺って案外弱えーのかも…なんて思い始めている。マサコが傍にいてくれてこそ、何でもできていたのかも…そう思えば思う程、マサコへの想いは募って、ただ逢いたい。ただただ、マサコを抱きしめたい…そんな気持ちにばかりなってしまう。
 そして何も言わずに虎杖に着いて行った俺は、それを激しく後悔した。

「伏黒くんって彼女いるの?」
 化粧だか香水だか分かんねぇ臭いが妙に鼻につく。甘ったるい香りに吐き気がしそうだ。
 気づけば飲み会って名前の合コンに連れて来られていて。無愛想に飲んでる俺の隣にわざわざグラスを持って座った女に腕を突かれてそう聞かれた。正直喋るのも面倒だし説明すらしたくない。このままほおっておいてくれねぇか?と思うけれどこの場でそんな事はまず無理だ。
「いる」
 一言そう言えば女持ちの男なんて興味も逸れるだろうと思った。
「もしかして今喧嘩中?それかアレだ、倦怠期!だったらさ、遊んじゃおーよあたしと」
「は?断る」
 お前みたいな尻軽女とマサコを一緒にされたくもねぇし、お前みたいな尻軽女を見れば見るほどマサコが良く思えた。そもそもこんな風に相手のいる男を軽々しく誘うタイプじゃないマサコは、かなり俺の理想そのものじゃん。今更そう思ってももう遅いのかもしれないけど。
 半分以上残っていたビールジョッキの中身を一気に飲み干して席を立つ。
「煙草買ってくる」
 虎杖にそう伝えて飲み屋の個室から出ようとしたら、尻軽女に腕を捕まれた。その瞬間、個室のドアが開いて店員が注文した食事をテーブルに運び込む。その後ろ、見知った顔が俺を見て止まっていて…
「マサコ…」
「恵…」
 視線は俺の腕に捕まる女の手。直ぐに「離せ」そう言って腕を振り払った。口には出さないけど、マサコの顔に書いてある、触らないでって。俺はすぐにコートと鞄を持って個室から出た。既に逃げ腰なマサコの腕を今度は俺が掴む。
「違うから。浮気とかそんなんじゃねぇから」
「そう、なんだ」
 よそよそしいマサコの返答に挫けそうになる。けど今ここでマサコの手を離したら、マジでもう二度と逢えなくなるんじゃねぇかって思うわけで。
「…悪かった、ずっと連絡しないで。意地んなって連絡できなくて、後悔してる。忙しくていっぱいいっぱいで余裕なくてヤキモチ妬いた。あの銀髪きのこ野郎に。でもそんな格好悪いこと言えなくて、勝手にマサコを責めて…悪かった」
 掴んだ腕が微かに震えている気がして、伏せっていた顔をあげれば涙目のマサコと目が合う。
「恵に逢いたかった…」
 そんな言葉と共にマサコの大きな瞳から涙が一粒零れ落ちた。それを直ぐに指で拭ってそのままマサコの背中に腕を回して引き寄せた。
「あぁ俺も。ずっと素直になれなくて、泣かせてごめん。マサコに逢えなくて、死にそうだったよ」
 虎杖に聞かれたら一生からかわれそうな台詞だと思ったけど、心底本音で。マサコにだけ伝わればいいと思えた。
「帰ろうぜ俺達の家に…」
 耳元でそう言えば、マサコはこくりと頷いたんだ。

 ◆

「余裕ねぇ」
 ポツリと言い放った俺は、その言葉通りマサコをベッドに組伏せて着ていたスーツのジャケットやら何やらを乱雑にベッドの下に脱ぎ散らかす。
 3ヶ月前のあの日には見れなかった光景に自然と気分が上がる。マサコを抱くのが久々なせいか妙に緊張している。頬に触れた指で唇をなぞればほんのりと隙間を作る。そこに顔を落としてハムりと舌を入れ込んだ。途端に心臓がきゅっと小さく音を立てる。たかだかキス一つで身体の芯が熱くなるように高揚していくのが分かった。
「マジで今日ヤバいわ」
 まだキスしかしていないってのに俺の下半身は半分程覚醒している。顔中にキスを落としながら耳朶をカプリと甘噛みする。「んっ…」ふわりと腰を捩らせるマサコが可愛くて耳の穴に舌をにゅるりと入れ込んでじゅるじゅるに吸い上げる。
「はぁっ、気持ちい」
 普段、それこそあんま最中に気持ちいいだのなんだのって言わないマサコだから、ほんのり漏れる言葉に無駄にテンションがあがる。柔らかいニットの上から胸に触れて指を動かしながら、耳穴を存分に舐めて、そのまま首筋、鎖骨と移動して視線を胸に移す。「脱がせていい?」小さく口づけながらそう聞くとコクリと頷いてバンザイをした。そのまま一気に下に着ていたであろう黒いキャミソールも脱がせて薄いブルーの下着も腕から抜き取る。何度となく見てきたマサコの裸体に今夜も俺は酔いしれる。
「手、退けて」
 胸を隠すように交差している腕に口づけると、マサコがまたほんのり腰を揺らせた。そのままカリッと爪で胸の尖端を弄ると「んぅっ」なんとも言えない甘ったるい声が俺の鼓膜を掠める。
 俺の手はマサコの柔らかな胸から離れられなくて、我慢できず尖端を口に含んでじゅじゅっと吸い上げるとマサコが軽く腰を浮かせた。そのまま腰のラインを手でなぞればまたマサコが今度は腰を斜めにくねらせる。優しく撫でながら尻にたどり着くと、そこをムニュっと掴む。胸への愛撫を繰り返しながらも俺の右手は尻の丸いラインをなぞり続ける。
「あんっ、あああっんっ、ふうっ、んんっ」
 感じているマサコのピンク色の尖端は凝縮してキュウっとしっかりと上を向いていく。それをすかさず舌で吸い上げるとまたマサコが甘い声を漏らす。自然と腰をゆらゆらさせるマサコが可愛くて俺はマサコを横向きにさせて、後ろから両胸に手を添えて上下に揉みしだいた。そのまま背中に舌を這わせて、脇の下までペロリと舐めれば擽ったかったのか、「やぁっ」なんてビクリと腰を震わせる。
「恥ずかしいよ恵っ」
「悪い、止めらんねぇ」
 尻をちゅうっと吸いながらマサコを四つん這いにさせる。こちらに尻をつきだす体制で後ろからトロトロに熱を帯びたマサコの子宮に舌を絡ませると、「ああああああっ、んんっ…はうっ…」脚を子鹿のように震わせながら激しく鳴く。そのまま舌を奥へ奥へと入れ込んで、中の愛液をじゅるじゅる吸い込んだ。
「あんっ、恵っ、待って、もうっ、イッちゃうぅっふうっ」
 頭をベッドに押し付けてぷるぷるしながらマサコがそう言うと、俺は指で少し上にある剥き出しの突起をぎゅんと抓った。その瞬間、マサコの子宮内がビクビクと大きく震えて、ぺたりと尻を落として脱力する。口を開けて大きく息を吸い込むマサコを正面に向かせて俺はぎゅっと抱きしめる。
「マジでごめん。なんか我慢がきかねぇの…」
 はぁ…と肩を大きく揺らせて呼吸を整えるマサコの髪を撫でながらもマサコの細い曲線に手を這わせていく。
「恥ずかしいけど…嫌じゃないから」
 そうやって俺の気持ちをしっかり受け止めてくれるマサコに感謝しかねぇ。この先どんな女と出逢っても、俺の中ではマサコが一番だって自信がある。
「好きだ」
 耳朶を甘噛みしながらそう言えば「私も恵が好き」ちゃんと答えてくれる。自分の想いを受け止めてくれる相手がいるっつーことが、どんだけ大事なのか俺は今回のことで身を持って知った。
「あんまり気持ちを言葉にするのはうまくねぇが、これからはちゃんと気持ちをマサコに伝えるから、マサコも俺に気持ちを伝えて欲しい」
 とくとくと早鐘を鳴らしている心音。マサコは俺を見上げるとニコッと微笑んで「うん。私も恵にちゃんと伝える」ぎゅっと抱きつくマサコにムラっと下半身が反応した。俺は自分のそそり勃つそれをマサコの口元に持っていく。
「悪い、ちょっとだけでいい。だめか?」
 なんて言いながらも呼吸の整ったマサコは「だめじゃないよ」と頷いてぺたりと脚を崩して座った。その前に立った俺の太腿に手を添えてパクリと咥えて奥まで呑み込むマサコの姿にめちゃくちゃ興奮する。こんなエロいマサコはマジでヤバい。つか、3ヶ月以上ご無沙汰していたせいか、マサコの口内に入っただけでも熱く膨れ上がっているようで、俺は当然ながら腹筋に力を込める。気を抜けばすぐにでもイけそうだ。マサコが俺の太腿に触れながらもちゅぽっと音をさせて咥えながら顔を動かし始めるとマジでイきそうでふわりとマサコの頭に手を乗せて動きを止めた。
「無理、イきそう…」
 苦笑いする俺にマサコがちゅぽっと口を窄めて離すと顔を上げた。「すげー気持ちよかったよ。…本当は3ヶ月以上抜いてねぇからすぐイきそうで」自嘲的に言葉を紡ぐとマサコがほんの一瞬目を大きく見開いて、次の瞬間ふっと鼻から息を漏らした。
「おい笑うなよ」
「ふふごめん、でも可笑しくて。そっか恵、一人でシなかったんだ?」
「は?当たり前だろ。今更一人でなんてできるかよ」
 格好悪い…そう思いながらもマサコをギュッと抱きしめて口づけを交わす。ベッド脇に置かれたゴムを装着すると、俺はそのまま強引に押し倒して自身の根本を掴んでマサコの入り口に宛てた。
「だからもう挿れる」
「うん、どうぞ」
 ふぅっと息を吐き出してマサコが力を抜いたのがわかった。そのあと俺はツプッとマサコの熱い子宮の中に自身を挿れていく。ゆっくりと最奥まで届くとそれだけで気持ちが良くて、動くのが少し勿体ないとさえ思えた。それでも俺は下のマサコを見つめてきめ細かなつるつるの頬に手を添えて、ちゅっと小さなキスを落とす。薄っすらと目を閉じたマサコに優しく微笑むと最奥まで挿入したモノをゆっくりとギリギリまで引き出す。そのまままた最奥へと挿れていく。ただそれを繰り返すだけだというのに、この行為はなんでこんなに心地が良いのだろうか。色んな角度でマサコの気持ちがいい部分を探りながら腰を動かす。声色を大きくさせて喘ぐマサコにそこを執拗と攻めると「恵っ、あんっ、あんっ、あうっ、ふうっ…イきそ…っ」限界が近いことを知らされた。だからマサコだって俺に逢えなくて寂しかったんだろうなんて都合良く思えば今一つに繋がれている瞬間が堪らなく嬉しかった。かくいう俺自身もいますぐにでもイけそうだ。まぁマサコの中に挿いった時からずっと気持ちが良くて、かなり腹に力を入れて律動を繰り返しているけれど。できれば二人一緒に達したい。俺はマサコの呼吸に合わせるように同じペースで呼吸をしていく。ベッドのスプリングはギシギシと音を鳴らせていて、掴まる場所を探しているマサコの手に俺は自分の指を絡めた。視線が交わってどちらからともなく口づける。舌を絡めながらも繰り返される律動に、マサコは「あああああああっ!!」一際大きく喘いだ。その瞬間、子宮内がきゅうううっと強く締め付けられて、俺の尖端からどぴゅっと白濁した液が流れ出た。あぁやべぇ、最高に気持ちがいい。惜しみなく出し切った俺はゆっくりとマサコの中から出た。
「…めちゃくちゃ気持ちよかったんだけど俺。マサコは平気?」
 ぺたりと汗でくっついた前髪を指で退けるとマサコが俺に身体を引っ付けてきてニコッと笑う。
「本当言うと、逢えなくて寂しくて恵とずっとこうしたいって思ってた。だから嬉しい…。狗巻先輩とはあれからも何もないから安心して。恵こそさっきの女の人と、」
「なんもねぇって」
 悔い気味で言ってマサコを抱き寄せる。そんな俺の鎖骨にぐりぐりと頭頂部を擦りつけて小さく息を吐き出した。
「でも嫌だったよ私。私の恵に気安く触るなーって思ったもん」
 あーそれやばい。頬を膨らませるマサコに、しょぼくれてた俺自身が復活しつつある。妬いてるマサコなんて珍しくて…いや3ヶ月前は俺がそんなマサコの些細な変化にすら気づいてやれてなかったのかもしれねぇな。
「安心しろ。俺もマサコしか見えてねぇから」
「ほんと?」
「いやこんな事で嘘つかないでしょ」
「うん。私も今なら恵の言葉ちゃんと信じられる。ね、今年のクリスマスはさ、手繋いでイルミネーション見に行きたい」
 きゅっと指を絡めるマサコに俺は小さく頷いた。マサコが望むなら何でも叶えてやりてぇなんて、柄にもないことを思う自分を、俺は昨日より好きになっていると思う。
――――【完】