「ねぇ本当に片岡と何もなかったの?」
私ならほっぺにチューぐらいしちゃう!そう言ってポテチをパクつく朝海。摩の期末テスト前の部活休み期間で授業も短縮でお昼には終わっている。校内に残って勉強するもあり、図書室で静かに勉強するもあり、家に帰って勉強に集中するもありなわりと自由なうちの高校。当然ながら遊び呆ける為に学校に残っている生徒も多く、それでもうちのクラスには私達だけだった。だから普段はあまり大きな声では言えないであろう片岡との話題が尽きない。
一週間、車で送り迎えをしてくれた片岡と私に何かあったと疑う朝海に苦笑い。何かあったとしても朝海に言ったら危険な気がするけど。というか…
「あるわけないじゃん。てゆうかなんで神谷くんまでここにいるの?イチャイチャするなら帰って家でしてよ」
朝海の横にピタッとくっついて座る神谷くん。サッカー部で人気だけれど、どうやら最近はダンスも気になり出しているのだろうか?何故か片岡が顧問をしているダンス部にもいつからか入部していた。そこそこ人気の彼氏を持つ朝海も神谷くん推しの女子達から一目置かれているものの、悪質な視線には滅法疎かった。朝海の口元にポテチを運んで指までパクつかれて喜んでる神谷くんを思いっきり睨みつけた。
「え、朝海と離れたくないから」
うわ、ムカつく。堂々と言いやがって。舌打ちしたい気持ちを抑えてわざとらしく溜息をつくと神谷くんがほんのり眉毛を下げた。
「ユキノちゃん機嫌悪い?生理?」
「あんたよくこんなデリカシーのない男と付き合ってるわね、朝海…」
「酷ーい!健太くんはかっこいいもん!」
ぷうっと頬を膨らませる朝海を見てほっぺたをツンツンしながら「怒ってもかわいー」なんて抱きしめる神谷くんを横から蹴っ飛ばしてやった。
「いててて。ユキノちゃんも素直になれば可愛いのにねぇ」
まーじムカつく。蹴っ飛ばすだけじゃ気が済まない。馬乗りしてぶん殴ってやろうかと思ったけれど、それ以上に朝海がすごい目で神谷くんを見ているから止めた。同意を求めた神谷くんに対して「やっぱり健太くんは雪乃の事が好きなの?」なんて突拍子もない言葉を発する朝海。ワナワナと震える手でポテチを運ぶ神谷くんの手を振り払う。
「え?なんでそうなる?俺が好きなのは朝海だって知ってるでしょ?」
「だって今、雪乃のこと可愛いって言った!」
「や、それは。この前片岡が好きって認めた時可愛かったからその時みたいに素直になれば?って意味だよ」
「また雪乃が可愛いって言った!」
「え?言った?え?あれ?」
脳内にハテナを飛ばす神谷くんに対して警戒心たっぷりの朝海。ケッ、喧嘩しちまえ!なんて思うけれど、片岡が自分以外の女を褒めるのを想像したら胸が痛かった。だから分かる、朝海がどれだけ神谷くんを好きか。朝海の好きも雪乃の好きも図れはしないけれど、それが本物だって事は分かる。
「ばっかみたい、二人共…」
ふふって笑うと、二人の視線が飛んでくる。それと同時、なんだか泣き出してしまいそうなのは、恋人同士の二人が羨ましいからなんだと思う。
「雪乃も片岡の一番になれたらいいのに…」
テスト前だから職員室には入っていけない。同じ校内のどこかに片岡もいるのに、その距離がとても遠く感じてチクンと胸が痛いんだ。
「やだー泣かないでー雪乃ー」
ふわりと肩に乗っかる朝海の温もり。そういえばこうして誰かと抱き合うのって久しぶりかも。前の男と別れてからというか、片岡を好きになってからそーゆうこともしてないし、そんな温もりにも触れていない。坂本先輩はキスを拒否ってから指一本触れてこないし、片岡には雪乃からしか触れていない。
「雪乃は可愛いよ!私の友達の中でも一番可愛い!相手が片岡なのはちょっと私にはよか分かんないけど、それでも私も健太くんも雪乃の事応援してるし辛かったら側にいるから、泣かないでっううっ」
「泣いて、ない。てかなんで朝海が泣いてるの?」
「だって雪乃が泣きそうな顔したから」
「泣いてないって。でもありがとう…。そもそも朝海って雪乃以外に友達いたっけ?朝海の友達の中で一番可愛いって言ってくれたけど」
「もー酷ーい!!い、いないけどさぁ」
ふわふわで温かい朝海の温もりに羨ましそうな目で見ている神谷くんに得意気に笑ってみせた。そんな雪乃を優しく見つめ返す神谷くんになら、朝海のこと任せられるって、この時強く思えたなんて。
もしもこの先片岡との間に何かあっても、側で寄り添ってくれる友達がいるといないじゃ未来は変わってくる気がする。そして雪乃が素直に片岡に想いを伝えられるのは、そんなに先じゃないのかもしれない。話に夢中になっていた私は、廊下でこの話を聞かれていた事に気づくわけもなく。
あとがき