そうして迎える二度目の春。
高校2年になった雪乃のクラスの担任は、去年と同じ片岡だった。そこに片岡の意思があるなんて自惚れないけれど、死ぬ程嬉しかった。そして朝海がいることも嬉しい。朝海同様、雪乃も女友達と呼べる相手がいないから貴重な存在の朝海が同じクラスにいてくれるだけで心強い。まぁ今年は残念ながらその朝海の沼男、神谷くんも同じクラスになったけど。「健太くんと同じクラスだー!嬉しいよおおおっ!」号泣している朝海をよしよしって抱きしめている神谷くん。その横で確か、「日竜太、宜しくね一ノ瀬さん」手を差し出されてそれを握る。神谷くんとよく一緒にいる所を見かけた彼は、眉毛に一本線が入ったようにカットされていて、大きな垂れ目が印象的だった。
「一ノ瀬雪乃です。宜しく」
そんな自己紹介をしていると、ガラリと前側のドアが開いて担任の片岡が入って来た。スーツ新調してる、可愛い。髪も切ったんだろう片岡は童顔が余計に幼く見えて、なんなら生徒に紛れても分からないかもしれないなんて思うと笑えた。
「2年8組担任の片岡です。教科は英語。一年間宜しく!それでは出席をとります」
片岡のクラスは席も自由に座らせてくれる。本来なら出席番号順で座らなきゃいけない所を「俺の授業だけは構わない!」って言ってくれる。だから雪乃達は窓際の後ろの席を陣取っている。神谷くんや日くんがうちの学年でも目立つから、誰も文句も言ってこない。神谷くんファンらしき女供も、本命の朝海の前ではでかい顔ができなくて悔しそう。
「じゃあクラスの級長を先に決めておきたいと思って。できれば立候補してほしいと思ってるんだけど、誰かやりたい奴いる?」
まるで友達感覚で話す片岡にまた笑う。片岡はわりと級長を頼りにしていて、色んな事を頼んでいた。それを去年見て知っている私は、心底級長になればよかったと後悔したぐらい。自ら手を挙げようとした時だった。雪乃の隣に座っている日くんがトンと腕を突く。
「なに?」
「級長、一緒にやんない?」
まさかの申し出に一瞬目を大きく見開くもこくりと頷く。すると日くんはニカッと白い歯を見せて笑うとスッと綺麗に腕を挙げた。そういえば日くんもダンス部だっけ?
「せんせー俺等やる!」
自分と雪乃を交互に指さして片岡に伝えると、片岡の顔があきらかに引き攣ったのがわかった。もしかして、雪乃だと嫌なの?
「え、俺等って日と一ノ瀬?」
「そーそー。俺と、雪乃ちゃん」
は?思わず日くんに視線を移せば、悪気無い笑顔で笑う。教卓の片岡は自嘲的に笑うしかなくて「一ノ瀬いいの?大丈夫?俺結構重い荷物とか頼んじゃうけど」なんて続けた。
「いやいや先生、そんなの俺に頼めばいーじゃん!雪乃ちゃんに重い荷物なんて持たせないでよ」
「あぁそうか!ははっ、それならまぁ。一ノ瀬がやる気じゃないなら、やる気のある奴に、」
「やる。雪乃級長やりたいと思ってたよ、片岡」
「あ、そうなのね。じゃあ二人に頼もうかな」
黒板に書き出された級長のところに片岡が一ノ瀬って書いた。今すぐ写真に収めたい気持ちを隠して雪乃は日くんと二人前に出て片岡の指示通り委員会決めを執り行った。
「日っち、雪乃に興味あり?」
級長の誘いを見ていた朝海が始業式の終わった教室でちょっと楽しそうに聞いた。
「ねぇそれ雪乃のいない所で聞かない?普通…。答えがどっちにしても気まずいんだけど…」
相変わらずズレた感性の持ち主の朝海が私の言葉にへらっと笑う。このやろ、笑って誤魔化そうったってそうはいかない。じろりと隣の神谷くんを睨みつけると「竜太のタイプってそーだっけ?」なんてまるで人の話を聞いていない様子に激しく苛立ちを覚えた。
「怒ってるやん雪乃ちゃん。まぁまぁ興味あるんは本当」
ニッて雪乃に向かってピースをする日くんと目が合う。神谷くんと仲が良いからなのか、そもそもの日くんがなのか、クラスの女子が息を呑むような気がした。この人も人気があるのねって思う。雪乃には関係ないけど。坂本先輩や陸のような熱い視線なんてこの人にはない。
「早速だけど日、資料作るの手伝える?」
始業式が終わると片岡が日くんを手招きする。重い荷物じゃないのに雪乃を呼ばなかった片岡にイラッとして雪乃は立ち上がるとまだ椅子にぐらぐらと座って動かない日くんを無視して片岡のところへと行く。
「雪乃がやる。日くん用事あるって」
問答無用で雪乃が片岡の横に付けば、ほんのり眉毛を下げて苦笑い。そーゆー顔されると泣きたくなる。めげるもんかと片岡の腕に捕まると「こらこら」って離された。
「先生、雪乃が級長じゃない方がよかった感じだね?」
「そんなことないよ、何言ってんのよ」
「雪乃は片岡の傍にいたくて、」
「青山に怒られんぞ、ばーか」
ぽこっと小さなデコピン。そっか、片岡は知らないんだ。雪乃と陸が終わったこと。別れたって言ったらどう思う?何とも思わないか、今更。坂本先輩と同じで、雪乃が何度片岡に好きって言っても応えてはくれない。それでも…――「あのね、雪乃陸とは」――「雪乃ちゃん、先行くなって」タイミングよく日くんに会話を遮られた。
「これ終わったら健太達と合流するから雪乃ちゃんもおいでよ」
「行かない。雪乃用事ある」
「マジ?残念…」
全く残念そうに聞こえない日くんのそれに、雪乃は片岡に視線を移すと、何時かの日と同じ様に秒で目が合った。
あとがき