何度でも告白

 せっかくの片岡との二人きりが日くんのせいで台無しだ。こんなことなら級長は神谷くんにでもお願いすればよかった。それなら朝海優先で動くだろうから。不機嫌丸出しで片岡に依頼された書類にホチキスを止めていると「そんなに俺邪魔?」なんて聞くから素直に頷いた。
「わかってるなら帰って。雪乃一人でやるから」
「マジで?ねぇ雪乃ちゃんマジで片岡狙い?」
「あのさ、気安く雪乃って呼ばないで。神谷くんの友達だかなんだか知らないけど、雪乃の邪魔するなら日くんは敵だよ」
 宣戦布告。何考えてるかわかんない男は嫌い。そんなんなら坂本先輩や陸の方が余っ程マシ。雪乃の言葉に日くんはホチキスを置くと「悪かったよ、今日は一ノ瀬さんに任せる。俺も嫌われたくはないからさ」ポンと雪乃の肩を叩くと、鞄を肩にかけて教室を出て行った。数分後に追加の資料を取りに行っていた片岡が戻ってきた。
「あれ日は?」
「帰った。後は雪乃が手伝うね」
 片岡をじぃっと見つめ上げると困ったように眉毛を下げた。最近その顔ばっかりだな。本当の本当に困らせたいわけじゃないんだよ。
「あ、じゃあ後は俺一人でできるから一ノ瀬も帰ってい、」
 ぎゅっと後ろから片岡の思ったりより広い背中に顔を埋めて抱きつく。もうなりふりかまってられない。言葉を止めた片岡に伝わって欲しいと願い言葉を紡ぐ。
「このまま聞いて。雪乃陸と別れた。わかってる、片岡の気持ちも答えも。それでもやっぱり雪乃は片岡が好き。何度無理って言われても雪乃の好きは片岡にしかない。雪乃諦めないから。卒業するまで待っててもいいけど、卒業するまで待てないって言わせるから」
 片岡が今答えてくれるわけないってわかっているけど、それでも叶えたい願いはちゃんと口に出して雪乃の言葉で伝え続けないと意味がない。固まっている片岡の手が雪乃の腕にそっと触れた。
「どうしてそんなに想ってくれるの?」
 聞こえた言葉にトクンと胸が脈打つ。きっと眉毛を下げて困った顔をしていると思う。それでも今この場で雪乃の何度目かの告白を否定しないでいてくれる片岡がやっぱりどうにも好き。
 窓側にあるカーテンが春風で揺れている。窓の横に咲いた桜の花びらが風で舞って綺麗だ。あぁほらね、片岡と一緒に居ると、ちゃんと雪乃の目には桜がピンク色に見える。あんなにグレーだった世界がこんなにも淡い色をしているんだって。
「わかんない。でも片岡がいないと雪乃の世界が色付かない。片岡といる時だけは、素直でいられる。わかんないけど自分でも馬鹿みたいに片岡が好き。それじゃだめ?」
 後ろから抱きつきながらも、ちらりと視線を後ろに移した片岡を見上げる。
「いや、うん。もう充分すぎる程わかったよ。悪かったよ、ごめん」
 優しい穏やかな口調に心が震える。
「好き。直人先生が好き」
「うん。ありがとう…」
「雪乃のこと好きになって?」
「はは。もー離れろ。これ誰かに見られたらマジで俺クビだからね?」
 片岡の言葉に仕方なく離れるとくるりと雪乃に向き直った片岡の手が伸びてきて、雪乃の髪にふわりと触れた。あぁやばい。片岡に撫でられることがこんなにも嬉しいなんて。
「そんな寂しそうな顔すんなって」
「だって…」
 頭に乗せられた片岡の手を迎えにいって雪乃の頬に当てさせる。そのまま目を閉じて片岡の温もりを頬に焼き付ける。
「好きよ、直人」
 何も答えてくれはしないけれど、目の前で雪乃を見つめる片岡の表情は死ぬ程かっこいい。
「ちゅーしていい?」
「だめに決まってんだろ」
 ポコンと痛くないデコピンが飛んできてゆっくりと離れた。調子にのんな!って雪乃の肩を押す片岡は耳まで紅くなっていて、それがめちゃくちゃ可愛くて心臓が痛いくらい。苦しい恋はもう二度と御免だと思ったけれど、片岡を好きでいられない方が辛いんだってわかった。
 なにもかもまっさらで片岡に気持ちを伝えた今、雪乃の視界には片岡しか入っていなくて、片岡とは色々あったけれど、雪乃の気持ちを否定しないでいてくれちゃう片岡が好きで好きでたまらない。
「今年こそ直人先生と一書に花火見たいなぁ雪乃…」
 小さくボヤくと片岡はニカッと八重歯を見せて笑う。それから視聴覚室の窓の外を指差す。その方向は花火があがる川原の方で…もしかして、
「見えるよここから。すげーでかいの。まぁ補習になればな」
 ポンポンって何度も雪乃の髪を撫でる片岡にキュンと胸が踊る。
「じゃあ今年もわざと一つズラして書こうかなぁ」
 にひって笑うと片岡がしけた顔でぽかんと少しだけ強めに叩く。
「お前やっぱりわざとじゃねぇーか」
「わざとだよ」
 上目遣いでそう言えば、片岡は真っ赤になって目を逸らす。それから伸びてきた手が今度は雪乃の前髪をくしゃくしゃに掻き乱す。
「その目、禁止」
「え?」
「お前は…――雪乃はほんと俺の事、乱すよね」
 トクンと脈打つ心音。片岡の気持ちがそこにあるような錯覚に陥る。このまま時間ときが止まればいいのに。この世に二人きりになれればいいのに。

あとがき