運命の人

「ゆき乃さんは彼氏欲しくないの?」

いつだったか、聞いた事がある。ゆき乃さんを慕うオトコは沢山見るけれど、だからと言ってゆき乃さんが恋愛で悩む姿を見た事がなかった。
もしかしたら、わたしには聞かされてないだけで彼氏がいるんじゃないか?なんて疑いつつ。

「え、欲しいよ!」

即答だった。それならどうしていつも違うオトコとデートしているんだろう?…顔に出ていたのか、ゆき乃さんはふわりと笑うと小さく言ったんだ。

「でも遊びたい!若いうちは沢山の人を見て一番いい人と結婚する!でも本当は運命の人を探してる…かなぁ。この人がいないと生きていけない!って思える人。そーいう人に出会ってない…というより、どーしても忘れられないというか、誰も越せない人がいる。学生の頃好きだった人。毎日彼に会うために学校に行ってた。好きで好きで大好きで、生まれて初めてバレンタインにチョコ渡したけど…ダメだった。でも結局高校3年間その人以外にチョコを渡すことはなくて。3年間めちゃくちゃ片想いしたけど、実らなくてね。…どんなに好きでも叶わない恋もあるんだよ、ハル…。よく言うじゃん、初恋は実らないって」

初めて見た、ゆき乃さんの辛そうな顔に、今もその人がゆき乃さんの心の中にいるんだって分かった。チャラついて遊んでるように見えるけれど、その心の中は泣いているのかもしれないって。

「今もその人が好きなの?」

「まぁ…嫌いになる事は一生ないよね…」

実らなかった恋ほど、その想いは強く募ってしまうんだろうか…。
色褪せない思い出と共に、今もまだゆき乃さんの心中に居座っているんだろうと。
その呪縛から解放されない限り、ゆき乃さんは幸せになれないんだって。

「え?なんで泣く?」

そんなの、辛すぎる。
この人を可愛いと思うオトコなんて沢山いるのに。その心の内を話せた人はただの一人もいるのだろうか?

「だって、だって…」

わたしも同じだったから。
ずっと杏寿郎が好きで、好きで、どーしようもなく大好きで。その想いからいつもいつも逃げていた。
幼馴染って関係が壊れるのが怖くて、杏寿郎に気持ちを打ち明けることすらできなくて。
たまたま告白してきたオトコと付き合っても、わたしの心の中には杏寿郎が居座って出ていってはくれない。だからそんなオトコと上手くいくわけもなく…
だけどわたしは、ゆき乃さんに同じ気持ちだと伝える事もできなかった。
泣いちゃって言葉にならなくて。何でか分からないけどとても悲しくて。

「あんなに毎日キラキラしてた恋は、もう二度とできないのかなぁあたし…」

できるよ!絶対の絶対に!!そう言いたくても嗚咽で言えなくて。だからブンブンと首を横に振るわたしを、ゆき乃さんはいつになく優しく見守ってくれたんだ。

ねぇゆき乃さん。
やっぱり、初恋は実らないんだよ…
どんなに好きだと思っても、叶わない恋って、この世の至る所に溢れているのかもしれないね。
そしてみんな、それを抱えて必死で運命の人を探しているのかもしれない。

いったいどれ程の人が、運命の人に出逢えるんだろうか。誰か教えて欲しい…ーー