罪 悪 感

泣きじゃくるわたしを前に、七海さんは慌てることなく駆け寄ってくれて。

「ハルさん、どうされたんですか?こんな時間に…」

「七海さんッ、ーーらさい」

「え?今なんと?」

「…抱いてください」

何もかも、忘れさせて。杏寿郎の事を何もかも。
こんなに素敵な人を利用するわたしは、悪魔だ。
ゆき乃さんのような小悪魔とは、訳が違う。
だけど、とてもじゃないけど独りでなんていれそうもない。こんな不安な夜は初めてで、こんなにも胸が痛いセックスも、初めてだった。





翌朝家に帰ると、そこには昨日泊まったと思っていた恵はいなかった。
ゆき乃さん、独りで寝たの?
ソファーの上でまるでわたしの帰りを待ってくれているかのよう、丸まって眠っているゆき乃さんに、とめどない涙が溢れ出す。わたしがスンスン言ってるからゆき乃さんが薄らと目を開いた。寝ぼけ眼でこっちを見て寝起きの掠れた声で小さく言った。

「お帰り、ハル…」

「ただいま、ゆき乃さん…」

寝転がった体制のままゆき乃さんはわたしを見て切なく微笑んだんだ。


スーパーで買ってきたスコーンをトースターにかけて、ロイヤルミルクティーを煎れてくれたゆき乃さん。ソファーで朝食を食べながらも、昨夜の事を話した。

杏寿郎の事がずっと好きだったという事。それに気づいて想いを伝えに行った所で、許嫁がいた事を知り、脚が会社へ向かって、七海さんと会い、そして抱かれた事。包み隠さず全部話した。聞き終えたゆき乃さんはひと言「七海課長かぁ…」と。

「正直どっちでもよかった。七海さんでも、エルヴィンさんでも。たまたま会ったのが七海さんで…。最低だよわたし」

「許嫁って今どき時代錯誤というか…煉獄家ってそんなに代々伝わる敷居の高いお家柄だったんだねぇ。そんなとこ、嫁にいかなくてよかったんじゃない?逆に。色々大変そう。同居は絶対無理だしあたし、」

超現実的な意見を述べるゆき乃さん。でも分かる。わたしを慰めてくれてるって。

「ゆき乃さんの好きな人…忘れられない人がもし、杏寿郎みたいな家の人だったら、どうする?」

「想像できない。そもそも母子家庭だったし、そんなお家柄ではないと思うんだよねぇ。…でももし彼がそうだったなら、自分の気持ちを最優先にしちゃうかも」

好きなら飛び込むんだろうと思えた、ゆき乃さんなら。
わたしには、そんな勇気も持てない。それなのに、杏寿郎の事を忘れられるのかも、分からない。中途半端に七海さんを利用する事しかできなくて、その代償で七海さんを傷つけた事で、既に心の中には彼への罪悪感が消えない。
答えなんて当たり前に出るわけがない。この場に留まる事しかできない弱い自分がすごく嫌なのに、動くことができずにいる。

「とりあえず気分転換しよ、ね!」

「え?」

「シャワー浴びてお洒落して遊びに行こ!」

突拍子のないゆき乃さんの言葉に、言われるがままわたしはシャワーを浴びて一張羅を着て、ゆき乃さんと2人、外に出た。

シェアハウスの下、外階段を降りたそこに止まっている二台のバイクにゆき乃さんが颯爽と駆け寄ったんだ。