覚悟ができるなら…

「よぉ、!ハル」

片手を挙げてそう言うのは杏寿郎と同じキメツ学園で教師をしている宇髄さん。相変わらず派手な格好でめちゃくちゃ目立っている。
その後ろ、ゆき乃さんの荷物をバイクの椅子を上げて中に入れ込んでるのは、こっちも同じくキメツ学園の教師、不死川さん。どちらも杏寿郎の同期でよく飲みに行っていると聞いてた。わたしも何度か会ったことがあるんだけど、そんなに親しい訳でもなく…

「さーねみっ!会いたかったよぉ!」

「ばかてめぇ、人前でくっつくなァ、たく」

クシャッて抱きつくゆき乃さんを優しく撫でている。嘘でしょ、強面の不死川さんがこんな柔らかい表情するの!?そもそも、ゆき乃さんと親しげなんだけど。

「ハルは、天元の後ろね!一応安全運転してよ?」

「わーってるよっ!ほら荷物貸せよ」

斜めがけしていたCOACHのバッグを取り上げられると、不死川さんと同じように椅子の中に入れた。

「わたしバイクとか乗ったことないんだけど」

「へーきへーき、俺運転超うまいから!ほら、さっさと後ろ乗れよ」

ふわりと軽々抱き上げられて後部座席に乗せられる。長身の人を見ると、七海さんを連想させてしまうのは仕方のない事。脳内では杏寿郎を想っている。けれど、わたしの身体は確実に七海さんに抱かれた跡が残っていて…

「おいおい、腹に腕回せよ。落ちてもしらねぇぜ!」

宇髄さんがガバりとわたしの腕を引き寄せたから、その大きな背中に抱きついて目を閉じた。
耳に残る七海さんの声。身体に触れる優しい指と熱い唇。それなのに頭の中は杏寿郎を想ってしまう。
これ以上惨めになりたくない。これ以上汚くなりたくない。そう思えば思うほどに、杏寿郎の事ばかりを考えてしまう。

許嫁って事は、あの人はもう…杏寿郎に抱かれたんだろうか。毎夜、杏寿郎はあの人を抱いているのだろうか。そんな自分勝手で淫らな事が浮かんでは消して、浮かんでは消しての繰り返し。


「見ろよ、ハル!!海だぜ、海!」

悶々としながらもどこからとなく潮風の匂いがして、宇髄さんの声に右側を向くと、久しぶりに見る海がそこにあった。
海岸沿いにバイクを停めるとまた宇髄さんに抱き上げられて下ろされる。

「ありがとうございます」

ポンポンって笑いながら頭を撫でる宇髄さんは、たぶん教師の中でも一番女の扱いがうまい。
そして不死川さんは、ゆき乃さんばっかり見ているのが見え見えだった。
それを分かっているんだろうゆき乃さんは、不死川さんの腕に掴まって歩く。傍から見たら恋人同士だ。

「煉獄家の事だけどよ、ハル、お前の気持ちが本物なら協力してやってもいいぜ!ただし、中途半端で覚悟もクソもねぇなら、できねぇ。何もかも全部捨てて煉獄と駆け落ちの覚悟ができるなら、俺たちは全力で協力すっから。ただゆっくり考えてる時間はねぇぞ。結納までそんなに日はねぇからなぁ」

この人達は杏寿郎の家の事を全部知っているんだと。そしてそれを見込んで今日、わたしに会わせてくれたゆき乃さんの気持ちに、やっぱり涙が出そうだった。

「宇髄さん、ありがとう」

「はっ!礼を言われるのはまだ早いぜ」

クシャッとまた髪を撫でる大きな手。後ろを振り向くとゆき乃さんが不死川さんと仲良さげに話している。

「不死川さんもゆき乃さんにはベッタリですね」

「ベタ惚れだ、あれも」

あれも…って言葉に、杏寿郎の気持ちがやっぱり知りたくなった。
この期に及んで、あの言葉の続きを聞きたいと思ってしまうんだ。