ゆき乃さんと、宇髄さん、不死川さんのお陰で、ドン底気分だったのが少し紛れた。
現実は何一つ変わってはいないけれど、わたしは自分の気持ちに向き合ってみようと思えた。
月曜日、出社したわたしを朝一で迎えたのはエルヴィンだった。
ホテルのリニューアルに向けて内装を変えるので色々と忙しい我が社。鬼の経理部長で有名なリヴァイ部長の怒鳴り声が響き渡る社内でエルヴィンがわたしを呼んだ。
「ハル、今夜食事に行かないか?」
「あ、はい。喜んで」
杏寿郎の事は、あまり時間がないけれど、わたしがこの人達と向き合おうと思えたのも、週末の海があったからだ。なんとなく、どちらかに誘われるような気がして、それなりにお洒落をしてきた。
すぐに頷くわたしを見てエルヴィンは頬に手を添えて嬉しそうに微笑んだ。
「君が素直に頷いてくれるだけで、これ程までに嬉しいものか。私も君の前ではただのオトコだな」
モヤモヤが消えたわけじゃないし、七海さんの二の舞にするつもりはない。けれどジャンが言ってたように、もしかしたら杏寿郎以上に好きになれる人がいるかもしれない。それは、勇気を持って一歩踏み出した先にしかないという事が、ここ数日でよく分かった。
きっとゆき乃さんも、それをずっと探している。
もしもわたしの運命の人がエルヴィンだったなら、わたしはこの時間を大事にしたい。
◆
「わ、美味しそう。普段こんなディナー食べられないので嬉しいです」
「はは。こんなものでよければ、毎日でも食べさせてやるぞ」
毎日でも…って言葉につい敏感に反応してしまう。
「でもこんな美味しいものばっかり食べてたら、太ります…」
「君は細いんだからそのような事は気にしなくともいいと思うが。あ、いやこれはその、セクハラ発言にとらないでほしいが」
流暢な日本語を話すエルヴィンが可笑しくて笑う。
「エルヴィンさんにセクハラ発言する女なんていませんよ!」
「だといいがな。それより…今日はよく喋ってくれるんだな、」
頬杖を着いて優しげな瞳を向けるエルヴィン。外国人だと諸々文化の違いだとか、風習の違いだとかあるかと思ったけれど、この人には全く感じなかった。強いてゆうならば…日本人より気持ちの出し所が大きいというくらい。ただそれが、ほんの少し心地が良かったりもする。
自分からなかなかいけない性格だから、エルヴィンの方から色々誘ってくれるのはとても嬉しい。
嫌じゃ、ないよ。
「…エルヴィンさん、わたし…好きな人がいます。でもその人には許嫁がいて、わたしにはとてもじゃないけど壊せない。彼がわたしをどう思っているかも分からないけれど、許嫁を迎えている事が全てなんじゃないかって。…その人がまだ今も好きです。でもこんなわたしを好きだと言ってくれた貴方と、ちゃんと向き合おうと思ってます。…気持ちの整理が着くまで、待っていただけますか?」
少し驚いたような顔をしたけれど、エルヴィンは何だか安心したように頷いた。
「話してくれて嬉しいよ、ありがとうハル。私の気持ちは変わらない。君がその彼を好きなままでも、私の傍にいる事を選んでくれたなら、そのままの君を愛していこう。勿論、君が望むままに」
「…はい」
仕事やプライベート、趣味についてまで色々話してくれた。自分を知ってもらおうと話してくれるエルヴィンとの時間は心地が良かったというのに…
地元の駅に着いたわたしの前を、忘れる事の無い後ろ姿が通り過ぎて行ったんだ。