「最近ご機嫌だね、何かいい事でもあったのか?」
ここ数日、毎日のようにエルヴィンが帰りにディナーに誘ってくれていた。ゆき乃さんも不死川さんと逢いたいだろうしって、遠慮なくエルヴィンの誘いを受けているわたし。
「分かりますか?秘書課のゆき乃さんが婚約する事になって。なんか嬉しいなぁって。ゼクシィとか買ってきちゃって、夜な夜な2人で色々模索してるんです!」
わたしの言葉に目をぱちくりとさせるエルヴィン。
「ハルも、結婚したくなったのか?」
「…なります。ゆき乃さんの幸せそうな顔見てたら」
「…そうか。今日はもう一件行きたい所があるのだが、一緒に来て貰ってもいいだろうか?」
「はい、いいですよ」
好きな人の幸せというのは、こんなにも自分にも影響を及ぼすものなんだって。気を抜くとつい頬が緩むんでしまう。ご飯も美味しいし、お酒も美味しいし、エルヴィンは紳士で素敵だし、わたしってば結構幸せ者じゃない?
◆
「え、あの、エルヴィンさん?」
「あぁ」
「これって、」
連れてこられたのはジュエリーショップ。高級ブランド店が聳え立つここでエルヴィンはニッコリ微笑んで「好きな物一つプレゼントさせてくれないか?」そう言った。だから一気にわたし達の関係が縮まったように思えた。
「こんな高いの、どれも受け取れません」
「値段は気にしないで。気持ちだから」
「でも…」
「君の幸せそうな顔を見ていたら、どうしてもプレゼントしたくなってしまったんだよ。私の我儘だと思って選んでくれないか?」
肩にそっと手を乗せるエルヴィンに、胸の奥がキュンとした。そんなつもりじゃなかったのに、エルヴィンの顔を見ていると、選ばなきゃ悲しむのかなと思うと、視線をアクセサリーに移した。
でもこれを受け取ってしまったらわたしはエルヴィンを一番に見る事になるって。頭を過ぎる七海さんと、それからーー杏寿郎。
杏寿郎の事はなるべく考えないようにしていた。考えた所で何か変わる訳もなく、宇髄さんに言われた駆け落ち覚悟なんてものすらできていない。
七海さんとは、身体を重ねたあの日から会ってはいない。同じ秘書課のゆき乃さんから聞くと、今出張に行っていて、今週末に帰ってくるとか。その間はエルヴィン部長で穴埋めすればいいじゃない!なんてゆき乃さんの言葉を鵜呑みにしてついわたしもエルヴィンに甘えていたけれど、急に色んな事が脳内に浮かんでしまう。
「エルヴィンさん…」
「どうした?」
「これがいい」
ピンク色のハートがついたピンクゴールドのネックレス。それを指差すわたしにエルヴィンは店員を呼んでそれを買ってくれた。
いつもは紳士的に駅まで送ってくれるエルヴィン。今日も同じ…ーー「ハル、」改札前で立ち止まったわたしの手を彼はギュッと掴んだ。
人が行き交う駅の改札前で、エルヴィンはちょっとだけ眉毛を下げてわたしを見つめる。なんとなく、言いたい事が分かってしまう。
「このまま帰したくないな、」
ギュッと腕を引いてわたしを抱きしめた。
トクントクンと脈打っていた心臓が、ドクドクと激しさを増す。何かが変わろうとしていた。
「うん…」
エルヴィンの胸に顔を埋めるわたしを強く抱きしめたんだ。