優柔不断同士

不死川さんの車の前で一人景色を眺めていた。冷静になって頭を冷やさないと。こんな顔であっちには戻れないし、でも早くしないとみんなが心配する。
そんな事を考えていたら、数分もしないうちにゆき乃さんが来てくれた。

「やっぱりここか。…帰る?実弥に車出して貰えるよ、まだ飲んでないし」

「ゆき乃さん。杏寿郎はなにが言いたかったのかな。怖くて怖くて聞けなかった。煉獄家の跡取りとしてと、一人の男として、選べないってそれだけ言われたの。それってどーいう意味?」

「いや知らねぇけど」

そうだった。この人は決してその場しのぎの慰めをしてくれる人じゃない。BBQのあの場所で優雅に椅子に座って涼む事もゆき乃さん以外できやしない。そんな風に自分を持っているゆき乃さんが羨ましい。

「あの子さえ来なければ、こんな風になってないのかな…」

「どうだろ。もうさ、七海課長かエルヴィンにしちゃえば?どっちといても幸せになれると思うよ?」

「うん。わたしも思う。でも…」

「でもなんだ?」

わりと低めのゆき乃さんの声にドキッとする。
ま、まずい。この人はこういうフラフラしているのが嫌いだ。だからきっと、いや確実に今わたしに対してムカついていると思えた。
優柔不断で、決断できない杏寿郎を責めているけれど、覚悟を決めたわたしも、こうして杏寿郎から逃げてしまっている。同じじゃん、わたしも杏寿郎も。

「か、帰らないよ!そう、決めたのわたし!今日は何があっても杏寿郎と向き合うって!うん、そう。あの女が来たのは想定外だけど、だからってわたしの覚悟が変わるわけじゃない」

「分かってんならしっかりやれや」

不死川さん並のドスの効いた声でゆき乃さんが言うからわたしは笑うしかなかった。昔言われたことがある。
色々と口煩くても、言われているうちが花だと。ゆき乃さんは本当に切りたい人はすぐ切っちゃうし、切ると決めたら一切優しさを向けない。そーゆう諦めた人にはもう何も口出ししないと。

「ゆき乃さんあの、喝入れて!背中叩いて欲しい!」

「了解!」

間髪入れずにバシンッと思いっきり背中を叩かれた。これ絶対手跡着いてるよ!ってぐらいビンビンと背中から伝わるゆき乃さんの喝に、わたしは大きく深呼吸をしてもう一度自分の覚悟を決めてみんなの待つ河原へと歩いて行った。

「実弥、お肉もう食べれる?」

「あぁ、皿に分けといたから好きに食え。おいハルてめぇの分もそこだァ」

不死川さんの指さす方に、大量に肉の乗った皿があって、ゆき乃さんと二人それに食い付いた。
ふと横を見ると冨岡さんが静かに肉を食べていて…

「美味しいですね」

そう声を掛けると「そうだな」…会話はそれで終わりだと思ったけど、思いの外話したそうにしていて目線を合わせると口を開いた。

「君は煉獄の昔馴染みの?」

「はい、藍沢です。冨岡さんとこうしてお会いする事もあまりなかったので、今日はよろしくお願いします」

「あぁこちらこそ。煉獄から君の話はたまに聞いている」

「…え?」

「とても明るくて良い娘だと」

「お、お父さんみたい」

そう言ったものの、人にわたしの事を良く言ってくれた事は単純に嬉しくて、つい口元が緩む。

「わあ!!なんだかお2人、お似合いですね!」

聞こえた声に顔を向けると、思った通り杏寿郎の許嫁のサチが目をキラキラさせてそこに居た。