お 迎 え

「え?」

「ハルさんと冨岡さん、お2人はフリーでいらっしゃるんですか?」

は?なにこの女。悪気がないのかわざとなのか全然読めない。色白で小柄で黒髪で品があって…見るからにどこぞのお嬢様って感じ。常に笑顔でおしとやかで…

「サチよさないか。そーゆうつもりで2人がここにいる訳ではない」

杏寿郎がサチの腕を引っ張って自分の後ろに隠した。わたしから見えない位置に。
だけど、杏寿郎の腕を掴んで彼の脇からひょっこりと顔を出すサチ。

「もういつもそうやって私を部外者にするんですから。私も仲間に入れて欲しいと言っているじゃないですか」

「いやそんなつもりでもないのだが」

困ったように顔をしかめる杏寿郎。2人のやり取りを前に胸がモヤモヤしてくるのが分かった。
わたし以外の女と馴れ馴れしく話す杏寿郎なんか見たくない。ましてや杏寿郎の腕に触るのやめてほしい。
…この期に及んで悲しすぎるヤキモチを妬く自分が馬鹿馬鹿しいのにそれを口にできなくて。
わたしと冨岡さんが付き合えば、杏寿郎は完全に自分のモノだと言いたいのだろうか?そう、わたしに思わせたいのだろうか?

…この女は、わたしが杏寿郎を好きな事、感ずいているの?

「わたしは、自分の意思で決めるんで、そーゆう事は」

だから第三者にとやかく言われたくない…。その言葉はぐっと飲み込んで我慢した。だけど、予想外だったのか、サチは「すみません、出過ぎた事を言いました…」そう言ったきり黙り込んでしまった。
そんな泣きそうな顔、ずるいよ。

「サチ、強く言いすぎたな。悪かった」

杏寿郎は優しい。わたし以外の人にも、同性にも、歳上にも。老若男女誰にでも優しい。困っている人がいたら迷いなく手を差し伸べる、優しくて強い人だ。
そんな風に誰にでも優しく接する杏寿郎をわたしは昔から見ていて知っている。わたしにはとてもじゃないけど真似できない杏寿郎のいい所だと思ってる。
それなのに、こんな形でそれがつらいと思う瞬間があるなんて、自分がどれほど小さな人間なんだと思ってしまう。杏寿郎の事が好きだから、わたしの前で他の女と絡んでほしくないと、心の奥で叫んでしまう。

ダメだ、このままここに居たら空気を悪くする。わたしは今日、ここに来るべきじゃなかった。向き合うなら、杏寿郎と二人きりの時を選ぶべきだった。

「ごめんわたし、」
「あ、来た来た、こっちです!」

え?立ち上がろうとしたわたしに被せるようにゆき乃さんが向きを変えて手を振る。なに?…視線の向こう側…

「ハルさん。迎えに来ましたよ」

七海さんだった。
スーツ姿の七海さん。そう言えば主張が今週末までって言ってた。てゆーか、なんでここに?

「七海さん」

「絶賛ハルに片想い中の七海さん。うちの秘書課の課長です。出張帰りでどうしてもハルに逢いたいって煩くてね」

ゆき乃さんがそう説明する。

「もしかして、そのままここに?」

「やはり、ご迷惑でしたか?どうしても早く貴女の顔が見たくて…」

胸に響く七海さんの低音に、モヤモヤしていた心がスーッと軽くなったように思えた。
立ち上がったわたしはゆき乃さんを見ると小さく手を振っていて。だから分かった。駐車場でサチがいる事に気づいたゆき乃さんが、七海さんを呼んでくれたんだと。秘書課のゆき乃さんなら七海さんの連絡先を知っていてもおかしくない。
さっきあんな風にわたしに喝を入れに来たと思っていたけど、ゆき乃さんは心配して様子を見に来てくれたんだって。

「あのすみません。今日は帰りますね。ゆき乃さんありがとう」

みんなに頭を下げたわたしは、優しく手を出す七海さんに掴まって歩き出す。
掴んだ手は、とても温かくてちょっと泣きそうになったんだ。