魔法の言葉

「金色の髪の方が、貴女を悩ませている男性ですか?」

七海さんのBMWの助手席でいきなりそう聞かれた。
先日抱いてと言った時、七海さんは何も聞かずに抱いてくれた。その後も何も聞いてはこなかった。
でもきっと、ずっと気にしてくれていたんだと。何故わたしがあんな事を言ったのか。そして今日、ゆき乃さんに呼ばれてわざわざ迎えに来てくれた。

「…仰る通りです。すみませんこんな所まで来てくださって」

「それは構いませんよ。貴女に逢いたかったというのは嘘じゃありませんので。それよりも、また泣きそうな顔をしている…私じゃその涙、拭えませんか?…ハル…抱きしめてもいいか?」

七海さんの言葉は魔法がかっている。わたしのモヤモヤしていた心すら今はもうない。呼び捨てにされてドキドキした。抱きしめてもいいか?と聞かれてすぐに抱きしめて欲しいと思った。
腕を伸ばすわたしを、迷うことなく抱きしめてくれる七海さんからは、いつもの煙草と香水の香りがする。
安心できる温もりとは、この事なんじゃないだろうか。

「七海さん…もっと強く」

「ハル…」

愛してる…そう言いながらわたしの髪に小さく口付ける。心地好く聞こえるリップ音に視線を七海さんと絡ませる。

「…金色の髪の彼は、私に連れられて歩く貴女を心配そうに見ていました。隣には別の女性がいましたが、彼のパートナーという事でしたか?」

「はい。彼はわたしの幼馴染の煉獄杏寿郎と言います。ずっと彼が好きでした。でも煉獄家はとても敷居の高い家で、隣にいた人は彼の許嫁です。だからこの恋はもう、叶わない…」

「そうでしたか。辛いですね。…人の気持ちはそう簡単に動かせるものではありません。沢山の時間も必要です。…ハルさん、 私と一緒に暮らしてみませんか?お試しで。勿論貴女の気持ちを尊重します。ですが私は貴女を諦める気はない。…どんなに時間がかかろうと、ハルを奪います」

強い意志と熱い視線。七海さんの提案はわたしの環境を変えるのにいいのかもしれない。
でもゆき乃さんとの暮らしはわたしにはまだ必要だ。

「考えさせてください」

だけど、ゆき乃さんも不死川さんと結婚したらわたしは独りになるのだろうと。その時は七海さんの所に行ってもいいのかな?

「勿論です。いくらでも待ちますよ。でも一つだけお願いがあります」

「お願い?」

フッて笑った七海さんは、ちょっとだけ照れたように小さくでもハッキリと言った。

「口付けてもいいか?それだけは我慢ができなさそうだ」

敬語の外れた七海さんはドキドキする。こんなに密着した格好で話しているのもあるけれど、そーいう雰囲気なのは確かで。

「いいよ」

自然とそんな言葉が出たのは、七海さんだからだって思いたい。
目を閉じると、杏寿郎が浮かんでしまったあの夜…。
それを上書きするかのよう、わたしは七海さんを思い浮かべて、目を閉じた。
ちょっとだけフライング気味に重なる唇。
生暖かい舌が唇を割って入り込むと、胸の奥がキュンと高鳴った。
口内でわたしの舌を舐めとって絡ませる七海さんの高度なキスセンスに、やっぱり子宮の奥が熱くなる。
ハンドルだったり色んな物が邪魔する中、それでもわたし達はしばらくの間、キスを止められなかった…