「え…?」
「お付き合いされてる方はいらっしゃるのですか?」
「えっと、その、」
「回りくどくてすみません。単刀直入に言いますね。藍沢さん、あなたの事が好きです。私とお付き合いをしては貰えないでしょうか?」
クイッと銀縁の眼鏡を指で押し上げたその人は、秘書課の課長の七海建人さん。
国際部のあるうちのホテルは海外の人も多く、エルヴィン部長もその一人だった。
七海さんはハーフだから半分は海外の血が入っている。だからこの人もエルヴィン部長と同様、紳士で長身で、カッコイイ。
クールなイメージだから恋愛になんて興味が無いと勝手に思っていた。というか、総務課のわたしがエルヴィン部長もそうだけれど、仕事上そんなに絡む事なんてない。それなのに、わたしの何を見て好きだなんて言っているんだろうか?
全く真実味がわかずにいる。
「七海さん、でしたよね?」
「ええ、間違いないです」
「わたしなんかのどこを好き、なんでしょうか?」
まるで第三者の様なそんな質問に、七海さんは一度視線を外すと静かに答えたんだ。
「君はその、食べ方がとても綺麗で。文字も美しい。受け答えもしっかりとしているし、品がある。私はそのような女性に弱く、藍沢さんを見れば見る程、気持ちが高まってしまっている」
冗談にとれない七海さんの言葉に、そんな風にわたしって人間を見てくれていた事実に嬉しさが高まる。
社員食堂でよくゆき乃さんとお昼を食べているからだろうか。秘書課のゆき乃さんは社内でも美人で可愛くて人気者だった。そんなゆき乃さんといつも一緒にお昼を取っているのがわたしで。
なるほど、エルヴィン部長にしても、七海さんにしても、ゆき乃さんって存在の傍にいたわたしを見つけてくれたんだと。
「それは、凄く嬉しいです」
「そうか、なら、」
「あの、待ってください。わたしその、このような恋愛事には滅法疎くて、今まで仕事ばかりで生きてきたので、恋愛に気持ちを切り替える事がまだできていません。…七海さんの事はゆき乃さんから少し聞いておりますが、わたし自身あなたをよく知っている訳ではありません。…少し、お時間をいただけないでしょうか?」
なんとなく、紳士相手だと自分の口調もきちんとしてしまう。こんな話方ゆき乃さんに聞かれたらウケる!って笑われるんだろうけど、七海さんやエルヴィン部長に失礼な態度も取れない。
ほんの少し頭を下げるわたしの肩に、不意に七海さんの腕が乗っかった。
「顔を上げて下さい、藍沢さん。もちろんそれで結構です。私のような得体の知れない男に告白されても困りますよね。すみません、普段はそんな事がないのですが、なんとなく藍沢さんには今言わなきゃ他の誰かに取られてしまうような気がして…。大人気なく焦ってしまってました。申し訳ありません、私の方こそ」
「い、いえ。七海さんが謝ることではありません。それに、純粋にお気持ちは嬉しいです。ですので、答えが出るまで少しお時間いただけたらと…」
「ええ、もちろん。ですが、」
カツンと七海さんは、わたしの肩に置いた手に力を込める。そして昨日のエルヴィン部長とは反対側、耳元に顔を寄せて囁いたんだ。
「ぜひ前向きに検討してくださいね」
低音のイケボがわたしの耳に一番近い距離でそんな言葉を届けた。その帰り道、頬をほんのり掠める彼の唇に最高潮心臓が高まったのは言うまでもなかった。
この人も強引!?なんて思って顔を上げると、目を細めて微笑む七海さんに、心を奪われそうになったのは、内緒にしておこう。