大きな門構えにでかでかと掲げられた【煉獄】という表札にゴクリと唾を飲み込む。
大きく深呼吸をしたわたしは、敷居の高いその門の前で杏寿郎のスマホに電話をかけた。数コールかけても杏寿郎の声には繋がらない。やっぱり結納からまだ戻ってないのかも…そう思ったわたしの前、大きな門構えが開いて杏寿郎が出て来た。
「ハル」
「杏寿郎…あの、」
「父にお許しをいただけたんだ」
そう言った杏寿郎はその場でわたしを強く抱き寄せた。
「え?ほんと?」
「あぁ。そもそもサチは俺の事を愛していなかった。断ってきたのはサチの方だった。俺のように、サチにも心に決めた人がいたんだ。だからこの結婚は無かったことにして欲しいと。だから俺も父にハルと結婚をすると断言したら、勝手にしろと言われた。ただ分かって欲しい…サチに言われなくとも、俺は君との結婚以外はもう受けない。それをなんとしても父に許して貰おうと思っていた」
杏寿郎の言葉で、そういえば建人さんと行ったあのお店でサチを見かけた事を思い出した。あの時テーブルの上で手を握りあっていたあの人が、サチの心に決めた人なんだと理解した。
わたしはサチを見ようともしていなかったから分からなかったけれど、もしかしたらサチもサチなりに、苦しみながらも煉獄家の嫁になろうと努力をしていたのかもしれない。意地なんて張らずにわたしがサチの話を聞いてあげられていたらもっと早くこの話は崩れたんだろうか。勝手に敵だと判断していた自分が凄く恥ずかしかった。
「サチ、さんに嫌な態度ばっかり取ってたよわたし…」
「そんな事はない。サチは俺とハルが愛し合っている事に気づいてくれてたようだ。BBQの時それが本当かどうか確かめようとして冨岡を勧めてしまって悪かったと、俺に言ってくれた。俺もサチも想う相手がいるのにこの結婚はそこまで大事なものか?ともね。最後に言われたよ、ハルさんを幸せにしてあげて欲しいと…。よもやよもやだ、俺の気持ちはハル以外には伝わっていた様だ」
当人同士じゃ見えない事も、サチはちゃんと見極めていたんだと。もし今度どこかで会えたのなら、声をかけてみたいと思えた。
「わたしにも、伝わったよ」
「ハル。今回の事で強く学んだ事がある。やはり、胸の内に秘めた思いは、どんな事でも言葉で伝えないとならない。どんな未来が待っていようと、俺の未来にはハルが必要だ。これから先の未来を、一緒に歩いて欲しい…」
トクンと胸が高鳴る。夢にまでみた杏寿郎からのプロポーズに答えなんて一つしかない。
だってわたしは、今日この日の為に、ここまで生きてきたんだと。
そしてわたしも、心の中にある気持ちを、一つ残さず杏寿郎に伝えてゆこうと。
「はい。よろしくお願いします」
「うむ。…このままハルの部屋に行ってもいいか?」
「うん!あ、」
「ん?」
サーっと血の気が引いたのはこの前杏寿郎とあの家でしてしまった時、ウトウトしていたわたしの寝室にゆき乃さんがすごい剣幕で入って来た。
「ハルアンタ、洗濯物しまえっつっただろうが!!あと鍵かかってなかったぞ、泥棒が入ったらどーすんだ!?つかこの散らばった服はなんだよおお!って、誰だぁ?おいおい何してんの!?」
思いっきり掛け布団を捲りあげられて、素っ裸で抱き合うわたしと杏寿郎を見て悲鳴をあげたんだった。
もちろんその後ちゃんと説明したし、今後の事も話した。その事については凄く喜んでくれたけど、あのワンピを干しっぱなしにしてた事をしこたま怒られたんだ。
「えっと、大丈夫かな?ゆき乃さん…」
「あー…そうか、そうだな。さすがに今日の今日は俺の部屋はまずいが、仕方ない」
ぶつぶつ考えている杏寿郎の家の前、近づいて来た車にピカッと照らされた。助手席の窓が開いて顔を出したのはゆき乃さん。運転席は不死川さんだった。
「何してんのよ?うちに帰るから乗っていきなさい、杏寿郎も一緒に!」
もはや、ゆき乃さんの中で杏寿郎は格下になった様で、いつからか呼び捨てになっていた。
わたしはゆき乃さんの所に駆け寄るとニーっと笑って言ったんだ。
「ゆき乃さん!わたしね、杏寿郎と結婚する!」
「おぅ、よかったなァ」
運転席の不死川さんがそう言ってくれるけど、ゆき乃さんは目から大粒の涙を流して、「ハルー!!!よかったよお!!!!」って、窓の中からわたしに抱きついて泣いてくれた。
わたしの人生、杏寿郎とゆき乃さんがいないと成り立たない。この人に出会って憧れて、今まで頑張ってこれた。そして辿り着いた最愛の人。
沢山の人に出会って恋をして傷ついて、傷つけて。
それでもわたしを
-fin-