優しいオトコと弱い女

昔から強い男が好きだった。
この人だってオトコと出逢うまでは本気にならないと。

高校三年間たった一人の人しか好きになれなかった。
その人は今どき時代錯誤な暴走族の走り屋で、とてもとても強くてただ憧れていた。
だけど所詮は住む世界が違う。彼があたしを選ぶ事も、勿論好きになってくれる事もなかったんだ。
その面影を追い続けているからか、この歳になってもまだ本気の恋に巡り会えていなかった。
それを誰かに気づかれたくなくて、当たり障りない身体だけの関係を繰り返している。

いつも終わった後に残るのは虚しさだけで。心に刺さった傷は今も全然癒えやしない。
こんな闇から抜け出したいと思っているけど、それを誰にも言えずにいる。
いつも心の中で叫んでいるーー助けてと。
本当は誰かに気づいて欲しくて、助けて欲しくて、いつも苦しいんだ。




「一人かァ」

ポスッと肩に乗っかる手。いつからだろうか、この手の温もりが心地好いと気づいてしまったのは。
振り返らなくとも分かる、隣に座ったのが誰かなんて。

「うん!」

「…なんだよ、んな顔しやがって」

頬を掠める彼の指が優しく一撫ですると、名残惜しく自分の所に戻っていく。
この人はあたしに好意を持っているのが分かる。
ただの一度もそんな浮ついた言葉をくれた事はないけれど。

「えーどんな顔してる?」

「俺に会えて嬉しいって顔だァ馬鹿が」

そして、あたしも少なからず彼に好意を持っているという事を理解しているだろうと。
カウンターに肘をついてそこに頬を乗せる。斜めに傾く顔のままニッコリ微笑むとクシャッと大きな手が伸びてきた。だから今度こそその手を空中で捕まえてそのまま自分の指と絡める。なんなら椅子も彼の方に寄せてそのまま腕に寄り掛かるあたしを、嫌な顔一つせず受け止めてくれる。

「自意識過剰だなぁ実弥は。間違ってないけどね」

「…またアプリか?いい加減止めろォ、くだらねぇことなんざ」

そして、オトコに抱かれた後は必ずこのBARで飲むという事もこの人はちゃんと知っている。
実弥がくだらねぇって言うような行為を止められないのを実弥のせいにしたいのはあたし。

「なら実弥がずーっと相手してくれる?」

「するかよ、んなこと。俺はお前のお守りは御免だ」

「じゃ止めない」

チッて舌打ちが響く。あたしはこのオトコが欲しくて堪らない。そう言いたいけど素直になれない馬鹿な弱い女。
言葉で実弥を縛り付けている事を分かっていながら気づいていないフリしかできない弱い女。

それでも黙って隣で飲んでくれる実弥は、誰よりも優しいオトコだって思う。