最初はみんなで飲む事のほうが断然多くて、それこそ実弥の事をオトコとして見ているなんて事もなかった。だけど、実弥と顔を合わせているうちに、この人はあたしのことを好きなんだと思うようになって。そんな実弥の気持ちがなんだか心地よくて…あたしもほんのり実弥を意識しつつあった。
それが一変したのはあの日ーーー
マッチングアプリで出会った男にホテルに誘われたけれど、どうしてもそーいう気分になれなくて。だから抵抗したら無理矢理腕を捕まれて中に連れ込まれそうになった。
「止めてっ!本当に止めてよっ!!」
到底勝てない男の力強さに涙が込み上げる。自業自得だって分かってるけど、止められなくて。今までこーゆー男に遭遇しなかったのが奇跡だったのかもしれない。
「そーいうつもりで着いて来たんだろ、てめぇ!」
振り上げられた手が降りてくる瞬間、咄嗟に顔を背けて目を瞑る。…ーーだけど、沈黙の後「てめぇこそ何してやがる、離せクソがァ!!」あたしの身体を横から引き寄せて自分の後ろに隠すように守ってくれたのが、実弥だった。
あまりの形相に男はすぐに逃げて行った。助けてくれたのが実弥でよかった。
「…あり、がとう」
「ゆき乃…。もうやめろ。もっと自分を大事にしてくれよ。これ以上安売りはよせ。…とてもじゃねぇが、見てらんねェんだ…」
実弥の事だから、馬鹿が!って怒鳴られるかも…なんて思っていたあたしを、そっと抱き寄せてそう言ったんだ。子供をあやすみたいに、あたしの頭を優しく撫でる実弥のその温もりに、あたしは涙が溢れて止まらなくて。泣き出すあたしを、実弥はただ黙って傍にいてくれた。あたしが泣き止むまでずっと。
誰かの前で泣いたのなんて、いつぶりだっただろうか。
大人になるほど、弱い自分を
でも心の中ではいつも怖かった。こんな汚い自分を知られて軽蔑されるのが。こんなふしだらな自分を見られてドン引きされるのが。
「どうしてこんなあたしの事助けてくれんの?実弥は…」
泣き止んだ後、それでも実弥に触れていたくて自分から手をとった。だけど実弥はそれを嫌ともせず離さないでいてくれる。握り返してはくれないけれど。
「っは!わざとかァてめぇ。答えなんて一つしかねぇだろォ。…惚れちまってるからだァ、てめぇみてぇな面倒な女に」
初めて聞く実弥の気持ちに、目眩がしそうだった。
見つめる先、実弥の視線があたしに降りてくる。
「分かってただろォ、お前クラスの女なら」
うん、分かってた。そうだと思ってた。
「今確信に変わった、かな」
嬉しくて、嬉しくて。
この日を境にあたしの脳内は実弥でいっぱいになったんだ。
恋に落ちたとは、この事なんだろうと。