そうやって何度か恵とデートを繰り返していたあたしは、少しづつ男と付き合うって感覚を取り戻していた。
これなら実弥に想いを告げられるかも…なんてちょっと浮かれていたんだ。
いつものBARで独り飲んでいた。
誰に抱かれた訳じゃないけれど、ここに来ればだいたい実弥と逢えるから。てゆう事は、実弥は毎日あたしがここに来ていないかチェックしていたのかなぁ??
カウンターに肘を着いてマスターを見つめる。
「ねぇマスター。実弥は毎日ここに来ていたの?」
「ふふ。気になってるんですか?」
「…え、そこ意地悪言うんだー」
不貞腐れた顔をするあたしに、スッとおかわりのカクテルを出した。
「帰り際に寄ってましたよ、毎日。ゆき乃さんがいない時はドアだけ開けて中確認して帰る事か多かったですけどね。大きな愛だと思います」
目を細めてそう言うマスターに心地良さを覚えた。ならこのまま待っていれば実弥が仕事終わりに来るんだって思ってあたしはそのまま飲み続けた。ベロベロになっても実弥が送ってくれるからいいやって。
だけど、待てど待てど実弥は来なくて。チラチラと時計を気にするあたしに、マスターも眉毛を下げている。
今日はもう、来ないのかもしれない。そう思うと余計に実弥に逢いたくなって…
「マスター今日は帰る。実弥が来たら伝えてほしい。明日も待ってるって…」
「かしこまりました。またお待ちしております」
カランとBARのドアを開けると、心地よい風が身体を通り過ぎていった。
ちょっとだけフラつく足元。でもこんなの平気、気を張っていれば普通に歩ける。
駅に向かうさなか、横断歩道を渡ろうとしていたあたしは、遠目に見えたその姿に脚を止めた。
ロングヘアーのスレンダーな女と一緒に並んで歩いているのはたぶん実弥だ。会社の同僚だろうか、親しげに話している。
あたし以外の女の前でもあんな風に笑うんだ…と思うと、ちょっとだけ心がチクンとする。胸が痛いのは、実弥の事が好きな証なんだと実感してしまう。
よく見ると、そこには実弥の同僚の天元やハルの好きなへっぽこ杏寿郎くんもいた。同期飲み…ってところか。
あっち側が実弥の住む世界で、あたしはあちら側にいけるのだろうか?
車の通りが激しい大通り、見つめる先の実弥がふと、こちらを見た気がした。
一瞬で実弥の動きが止まる。だからなのか、隣の女もこちらに視線を向けて来て…そのまま信号が青に変わると実弥の脚があたしの方へとかけてきた。
「ゆき乃、」
「うん」
「飲んでたのか?BARで」
「うん」
「なら送る。悪りぃ今日はアイツらに捕まって」
「うん」
「…怒ってんのか?」
「……なんで怒るのよあたしが」
「そうだな、悪りぃ、俺の間違いだァ」
あたしの背中に腕をかけて押すように歩き出す。信号の向こうで女がまだこっちを見ている。
「見てるけど同僚、いいの?」
「ゆき乃?」
「ほら見てるよまだ」
そう言いながらあたしは実弥の胸にギュッと抱きついた。トクトクって実弥の心音が耳に届いてそっと目を閉じる。ふわりと実弥がその場であたしを抱きしめると「妬いてんのかァ」ってちょっとだけ楽しげな声。こんなに強く抱きしめられているのに、不安が消えないのはまだ実弥にあたしの気持ちを伝えていないから、なんだろうか。
でもこんな流れでミスミス言いたくはない。
「自惚れんな。好きなのは実弥の方でしょ」
「いい加減、好きになってくれねぇかァ、俺のこと」
好きよ、実弥。大好き。
喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。言えば確実に自分のモノになるというのに、この期に及んで緊張して言葉にならなかったなんて、馬鹿みたい。
こんなにも大人の恋は臆病になってしまうなんて、知らなかった。