そんな事があってちょっと悔しかった。実弥にはあたし以外にも周りに沢山人がいて、実弥があたしを好きなのは分かっているけれど、自分があの輪の中心に入れるなんて事はあるのだろうか?
「やっぱり帰るよ。今日はずーっと心ここに在らずだな、ゆき乃さん。好きな男となんかあったんだろ?」
ハルに恵を紹介したその夜、ハルは恵の言葉に思い立ったように立ち上がると、自分の気持ちを確かめに行く!そう言ってシェアハウスを出て行った。
今夜は恵を泊まらせてあげるつもりだったものの、恵の言葉に苦笑い。思い当たる節は沢山ある。
「何がどうとかじゃないの。ただ実弥の周りには実弥を慕う人が沢山いて、その中にはそこそこ綺麗な女もいて…あたしの居場所が見つけられなくて」
「…ゆき乃さんだって慕ってくれてる人いんじゃねぇの?ハルさんもそうだし、」
「あたしは、ただヤリたいだけのオトコしか知らない」
「それもある意味すげーけど」
心の隙間はそんなもんじゃ埋まんねぇのかもね…そう付け足す恵に胸がズキンと傷んだ。こんな風に恵の前では素直に気持ちを言えるのにどうして実弥の前だと何も言えなくなっちゃうんだろぉ。
「素直に好きって言えば、あたし幸せになれる?」
膝を抱えてそこに顔を埋めて小さくボヤく。簡単に言えるものでもないけど、今誰かに背中を押して貰いたくて。隣に座った恵はポンポンって優しく肩を抱くと耳元で言った。
「なれるよ。ゆき乃さんの口で、ゆき乃さんの言葉で、ゆき乃さんの心の中にある気持ちを伝えれば、幸せになれる。ね…」
恵の言葉に頷くとスッと立ち上がった恵は、「じゃ俺帰るね」そう言って帰って行った。馬鹿みたいに恵に甘えてしまおうとしていた自分が恥ずかしくて、あたしはハルが帰ってくるのをひたすら待った。ソファーの上で一晩中…
翌朝帰ってきたハルは、酷く疲れた顔で。そもそも朝帰りなんて初めてじゃないか?
「正直どっちでもよかった。七海さんでも、エルヴィンさんでも。たまたま会ったのが七海さんで…。最低だよわたし」
へっぽこ幼馴染の杏寿郎くんに想いを伝えに行ったら、彼には許嫁がいて、残念なことに遭遇してしまったが故に紹介までされて、辛くて耐えられなくて会社に戻ったら七海課長とねぇ…
「許嫁って今どき時代錯誤というか…煉獄家ってそんなに代々伝わる敷居の高いお家柄だったんだねぇ。そんなとこ、嫁にいかなくてよかったんじゃない?逆に。色々大変そう。同居は絶対無理だしあたし、」
分かってる。そんな風に言ったところでハルの中にいる杏寿郎くんは消せない。七海課長に抱かれてたところで、後から空しさが残るだけだって。あたし自身がしてきた事と同じ道を辿ってしまったハルが、罪悪感で押し潰されそうになっている。なんとかしてあげたいけど…
そうだ!!!
「とりあえず気分転換しよ、ね!」
「え?」
「シャワー浴びてお洒落して遊びに行こ!」
あたしは洗面所にハルを押し込むと、すぐ様スマホを取り出して実弥に連絡をした。起きていたんだろう、すぐに実弥の声に繋がった。
【どうしたァ】
「実弥さ、杏寿郎くんに許嫁がいるの知ってた? 」
【まぁなァ。つっても俺も知ったのは最近だァ】
「そっか、そうだよね。ハルが昨日遭遇しちゃって紹介されて、かなりショック受けちゃってるの。なんとか元気だして欲しくて、どっか連れて行って欲しいんだよね!」
【煉獄も家の為だって自分に言い聞かせてる感じだったからなァ。いーぜ、なら宇隨も誘って海でも行くか!久々に身体動かしてぇからバイクで迎えに行くよ】
「うん!ありがと、待ってるね」
【あァ】
ハルの為だと言いながらも、あたしが実弥に逢いたい気持ちが溢れて止まらなかったのは事実だった。
今日こそ、素直になろう!って心に決めて、あたしは念入りに化粧を始めた。