大好きな人

2日連続イケメンエリート紳士に告白されるという奇跡を起こしたわたしは、流行る気持ちを抑えてゆき乃さんの待つシェアハウスへと帰った。

秘書課のゆき乃さんは残業は一切しない性格で、定時のチャイムと同時にすぐに帰宅するので、わたしより先に家に着いている事が多い。最近始めたマッチングアプリで、そこそこ顔のいいイケメンばっかりを相手にしているゆき乃さんは、早く帰ってはシャワーを浴びて出掛けてしまう。
こんなモヤモヤした気持ち、わたし一人じゃ抱えきれないよおお!!なんて思いながらもスーパーで今夜の食材を買い終えたわたしは、シェアハウスのドアをガチャリと開けた。
靴を見て分かる。ゆき乃さんが男を連れ込んでいる事が。てゆーかここ、男子禁止なんだけど!全然守ってくれてないけどさぁ。
廊下をスタスタ歩いて恐る恐るリビングのドアを開けると、そこには想像していたものと違う、知った顔があった。

「杏寿郎?なにしてんの、そんな所で」

金髪と赤メッシュの入った長めの髪と、ギョロっとした目玉。涼しげの口元で「おお、ハル!!」わたしの名前を呼んだのは、幼馴染の煉獄杏寿郎だ。
実家に道場を構える煉獄家は、この辺では有名な地主だった。

「よもや、道でゆき乃さんと偶然会ってな、たまには遊びに来いとの事で来たんだが、久しぶりだな、ハル。相変わらず君は美しい!」

…曇りなき眼でそーゆう事言っちゃうこの人の事を、わたしは昔から好きだった。
悪気も下心もない杏寿郎の真っ直ぐで誠実な所が大好きなんだけれど、この人はそーゆう事にわたし以上に疎く、学生の頃、その外見だったり誠実さだったりで告白されてた事もあるけれど、杏寿郎と恋愛を育める女子なんて一人もいなかった。
もちろんわたしに、杏寿郎に告白する勇気もなく、幼馴染という泥濘ぬかるみにつかったまま、この距離を縮められずにいた。
ただそれが、何年も経った今、恋なのかそれとも、長年の情なのかは、定かじゃなかった。

ソファーの上ですんごいラフな格好をしたゆき乃さんがポテチを食べながらわたしを見てニヤリと微笑んだ。

「杏寿郎くん、ハルってばうちの会社のエリートに告白されたんだよぉ!キスまでされちゃってね、舞い上がってんの!」

「ちょっとゆき乃さん!!止めてよ杏寿郎に言うの…」

「なんで?ただの幼馴染でしょ?杏寿郎くんだって、ハルが幸せになるなら嬉しいよね?」

「うむ。それはそうだな」

腕を組んで大股開いてソファーに座っている杏寿郎はわたしの告白にヤキモチなんて妬いてくれる訳がない。

「なによ」

そう言ったものの、もしも杏寿郎がわたしの事を恋愛対象として見ていたのならば、26歳になるまで待たせるはずも無い事なんて分かっている。だからいい加減わたしもこの恋を終わりにしないと…そうは思ってはいるものの、一歩前に進むこともできず、かといって、後ろに一歩下がることすらできない弱虫女だった。

冷蔵庫からビールを出すとわたしはそれをカコンと開けてグビッと飲んだ。
こうなったらこの恋に決着つけてやろう!ってもう一口ビールを飲むわたしの前、ゆき乃さんがニッコリ微笑んだ。

「じゃあ後はお二人さん、積もる話でもして有意義に過ごしてね」

立ち上がったゆき乃さんは、完全にお風呂場に向かっていて、振り返ってスマホをチラつかせた。

「17歳童貞と遊んでくるわ!」

「え、それ犯罪!?」

「ハル、逢いたいって言ったのはあっちだから!」

それでも、それに食いつくゆき乃さんすげぇわ。わたしなら無理。17歳の童貞なんて絶対話し合わないよ…。ルンルン気分で洗面所の扉を閉めたゆき乃さんに、わたしは視線を杏寿郎に向けて苦笑いを零した。