玄関には今日も男物の靴があって、まさかまた杏寿郎?なんて淡い期待はドアを開けた瞬間に崩れ去った。
「え、誰?」
「…そっちこそ、誰?」
全然知らねぇ初めて見るメンズがわたしとゆき乃さんのソファーで寛いでいた。いやマジで誰だよお前!!!
「ゆき乃さんは?」
「シャワーだけど」
「そうですか、」
って何年下に敬語使ってんのーわたし!!なんか妙に大人びてる気がするけど、コイツ。もしかして、17歳の童貞?いや、ゆき乃さんと一緒なら童貞はもう卒業したってこと?え?なに?どーなってんの?
「あ、ハル〜お帰り!先にシャワー浴びちゃった!ご飯早く作ってぇ!」
大きめのTシャツの下、絶対ノーブラだよ、あの人!それなのに17歳童貞の隣に座っちゃったし。
案の定、お風呂上がりのゆき乃さんの匂いを嗅ぐように男がソファーの上で後ろからゆき乃さんを抱きしめている。
こんな姿、ジャンが見たら鼻水垂らして泣くんだろうって。社会人としてはジャンのがよっぽど立派なのに、ゆき乃さんの目にはオトコとして映らないジャンを少し哀れに思えた。というか、オスとして反応しないオトコとはゆき乃さんはデートすらしない。
とりあえず適当にご飯を作ってリビングに運ぶと、ソファーでイチャイチャしているゆき乃さん達に目を向けた。
「ゆき乃さん、そのお方は…」
「あー
「へぇ〜。ここ男子禁制だけどねぇ。あんまゆき乃さんに迷惑かけることすんなよ、クソガキ」
つい昔の癖で、ゆき乃さんを取り巻くオトコに文句を垂れてしまう。恵と呼ばれた黒髪ツンツン頭は「了解」って言うとまたゆき乃さんをギュッと抱き竦める。心地良さげに笑うゆき乃さんと目が合ったわたしは、完全にブスッ面。
「あと本気になってもゆき乃さんは無理だからなクソガキ」
「なんで?」
一丁前に言い返してきたからギロリと睨みつけてやった。てゆうか、そんな曇りなき眼でこっち見んな!!!
「なんで無理って決めつけた?」
黙れ
というか、その真っ直ぐな気持ちがわたしの心に突き刺さったようだった。
「なんでって、普通に考えて無理でしょ。君、学生でしょ?」
「そうっすよ」
「わたしもゆき乃さんも大人だよ。生活習慣も価値観も何もかも違いすぎてる」
わたしの言葉を黙って聞いているゆき乃さんは、今だ恵に寄りかかってカクテルを飲んでいる。
「なら俺のゆき乃さんを想う気持ちはそれに負けるってことなのかよ」
分かってしまった。こんなクソガキに諭されるなんて、馬鹿はわたしの方だ。悔しいから絶対に言わないけど。
「ゆき乃さん。色々聞いてもらいたいけど、今あるこの気持ちを確かめてくる」
「うん、いってらっしゃい」
いつも煩いぐらいわたしに色々言うゆき乃さんが、何も言わずに背中を押してくれた。強く見つめるその瞳が、無言でガンバレと言ってくれているようで、わたしは一つ息を吐き出すと、大きな門構えのある煉獄家へと、歩き出した。