「今週もお疲れさま〜!」
グラス同士がぶつかる音が耳に届くと同時、乾いていた喉にシャンディガフの炭酸が染み渡っていく。炭酸は得意ではないけど、お酒が好き。この瞬間の為に一週間の労働を耐えたようなものだ。
「あぁ、沁みる…美味い」
思わず零れた声に、隣に座るゆき乃が「オッサンみたい」と枝豆を口に運びながら笑った。そこから始まるわたし達の近況報告という名のストレス発散タイム。金曜日恒例の女子会の始まりだ。
会社から少し離れた居酒屋。毎週来るため店長とも顔なじみになり、いつも店の奥のテーブルを用意してくれていた。
株式会社CLOVER。わたし達はこの会社で出会った。
総務受付をしているゆき乃。営業事務の愛莉。総務事務のアイス。そしてデザイン制作部のわたし。
神田に6階建の自社ビルを構え、旅館や入浴施設などにシャンプーや入浴剤などを卸している。全国に提携旅館なども多く、わたしはそのボトルデザインをしたり、期間限定の商品デザインを考えたりしている。
会社には社員の感想を聞くためにシャワールームがある。どうせなら汗をかいてからがいいと、筋トレが趣味という社長のおかげでジムが併設されており社員は自由に使えるという。わたしは使ったことはないけれど、愛莉はよく利用しているらしい。福利厚生バンザイ。
愛莉とアイスは同期入社だ。ほぼ同じ時期にわたしとゆき乃が中途で入り、使用する更衣室が同じ…とまぁ色んな繋がりを経て30歳になった今、こうして女子会なるものを開催するまでの仲になったのだ。
この年齢で独身だから、という理由が一番かもしれない。
「そうだ、アイス。この前ちょっと喧嘩したって言ってたけど、あれから順調?」
「無事に仲直りしました!と言っても私が勝手に怒ってたのもあるけど」
「でも休みの日くらいデートしたいよねぇ」
ゆき乃が目の前に座るアイスの近況を探る。付き合って間もないアイスの彼は、システム部に所属しているイデアさん。システムの人達は殆ど社内の人間と関わることがない。ただ各部署を出入りする総務部は違ったようで、内気な性格のイデアさんもアイスには心を許してるみたいだった。ただ完全にインドアらしく、デートをしてくれないというのがアイスの不満だったのだ。付き合ってすぐなら尚更だろう。
「リヴァイ部長とはどこ行くの?」
「えっとねぇ…ふふっ」
今度は愛莉がゆき乃の恋バナを聞こうと質問する。嬉しそうに顔を緩ませて話をするゆき乃は、付き合って一年以上経つというのに未だにラブラブだ。
相手は営業企画部のリヴァイ部長。見た目は少し怖いけど信頼が熱く、頼りになる人だった。それ故に社内でもかなりの人気があった。恋愛なんて時間の無駄だ、と言っていた彼の心を射止めたのがゆき乃だった。リヴァイ部長の表情が変わったと、同じ部署で働く愛莉がよく言っている。
気を抜いてお酒を飲みながら惚気話を聞いていた私に、「ハルと愛莉は浮いた話ないの?」と久しぶりのジャブが飛んできた。
「全然何も無いよ〜!二人が羨ましいよ」
そう言って笑う愛莉に、わたしも同じように「同じく何にもない!仕事ばっかだよぉ」と笑って答えた。この流れは数ヶ月同じで暫く変わらないと思っていた。そう、先週までは。
わたしは今日初めて、みんなに嘘を吐いた。