愛に溢れた二人

「なんだその覇気のない顔は…何があった?」

何もする気が起こらなくて、この土日は家から出るつもりはなかった。まるで雨雲を背負っているかのようにどんよりとした気持ちで部屋にいたわたしを連れ出したのは、友人の一人でもあるゆき乃だった。
スマホに連絡が入り呼び出され、トボトボと彼女の家に出向いたわたしをゆき乃と、それから何故かゆき乃の恋人であるリヴァイ部長がキッチンに立って紅茶を淹れてくれていた。
話を聞けば、どうやら週末はゆき乃の家でわたし達の定例会が終わるのを待っているらしい。そしてそのまま泊まるのだとか。飲みすぎたゆき乃を介抱するためなんだろうと察しがつく。愛し愛されているのが傍から見ても分かる関係。憧れるし羨ましい。
ただ、リヴァイ部長は業務上直接関わることはないにしろよく仕事をする営業企画部の部長だ。つまり煉獄さんの上司だ。心配をしてくれているゆき乃を前に話すことを躊躇っていると、「俺のことは気にするな」と言ってわたし達から少し離れたところで紅茶を啜っている。おかしなカップの持ち方だな、と視線を向けているとゆき乃がわたしを催促する。

「ねぇハル。ここに来たって事は、聞いて欲しいから来たんでしょ?」
「…うん。ゆき乃はさ、好きになった人が別の人…自分の友達と付き合っているって知ったら、どうする?」

わたしの言葉にゆき乃がリヴァイ部長に視線を向ける。二人の視線が絡んで、言葉はないのに会話をしてるみたいだった。それからゆき乃が大きな溜め息を吐く。何を言われるのかと、わたしは膝の上に置いていた手をぎゅっと握りしめた。

「昨日もね、愛莉が同じこと言ってたわ」
「え?」
「…友達と同じ人を好きになったらどうするかって。あんた達似てるよね本当に」
「愛莉が…」
「まぁ誰から聞かれても私の答えは同じよ…――その想いが本物なら諦めない。相手が友達だから身を引くの? 友達じゃなかったらいいの? そんな事されて嬉しいと思うのは友達じゃないよ。結果がつらくても悲しくても、それで終わる関係ならそれまでよ」

こういう時のゆき乃の言葉は凄く胸に刺さる。いつも悩んだ時に導いてくれるのは、いつだってゆき乃やアイス、愛莉だった。今までずっとそうだった。
ゆき乃が言っていることは分かる。だけどやっぱり怖かった。もしこのまま愛莉との関係が終わってしまったらって。煉獄さんを諦めることもできないくせに、愛莉も諦められないなんて虫が良すぎるのかもしれない。

「愛莉が私達に打ち明けた気持ち、ハルなら分かるでしょ? 来週ちゃんと話したらいいよ。ていうか、煉獄ってそんなにモテるの? 私にはよく分からない…リヴァイしか輝いてみえないもの!」

笑顔でリヴァイ部長を見つめるゆき乃に、口許を綻ばせてるリヴァイ部長に見ているこっちまで胸がドキドキしてしまう。あれ…ちょっと待って。

「わたしまだ…相手が煉獄さんだって、」
「あぁ愛莉も言ってなかったけど、ハルが煉獄と最近距離が近いっていうのも聞いてたし、普段愛莉と煉獄がどんな感じか知ってるの、一人しかいないでしょ!」

パッと視線をリヴァイ部長に向けると、「好きでもない女に優しくする意味が俺には分からねぇ」と呟いた。その言葉の意味を考える間もなく、ゆき乃がリヴァイ部長の元へ行き、隣に座って腕を絡めた光景を見て、思わず顔が緩んだ。

きっと一人になったらまた悩んでしまうのかもしれない。だけど今は、愛に溢れた二人を眺めているだけで心が温かくなった。