予期せぬトラブル

新幹線の駅から電車とバスを乗り継いで着いた山奥の旅館。こういう所で自分達の製品を扱ってくれているのだと身をもって知り、役がなくても来てよかったと思う。
こちらの謝罪を受け入れてくれた女将さん。まだ在庫があったらしく来週までは問題ないとのことだった。わざわざ来てもらって申し訳ないと、空いている部屋で休憩までさせてくれた。用意された煎茶を飲み、窓から見える景色と都会では感じられない心地よい風を感じ、心が安らぐようだった。

「もうすぐバスの時間だ。帰るとするか」

会社への連絡を済ませた煉獄さんが戻り、旅館の人達に挨拶をしてからまた来た道を戻っていく。そこまでは何もかも順調だった。
バスに乗ってすぐ、窓を濡らしていく雨粒にわたしも煉獄さんも顔を見合せた。程なくしてそれは強い雨へと変わり窓を叩くように降り注ぐ。
最寄りの駅に着く頃にはバケツをひっくり返したような雨となり、駅構内に入るまでの少しの距離でも全身がびしょ濡れになった。

「え、運休?!」
「どうやら川が増水して途中の橋を渡れないらしい。この辺の地域だと雨が強くなるとよくある事だと言うが…この様子だと、今日は帰れないかもしれない」
「そんな…」

濡れて張り付く髪の毛を振り払い、煉獄さんはスマホ片手に何かを調べ始めた。わたしはと言うと、帰れないという事実に愕然とし、ただその場に突っ立っているだけだった。

「…くしゅっ、」
「このままだと風邪を引いてしまうな…すまない、ハンカチも濡れてしまったみたいだ」
「そんな、大丈夫です。わたしだってほら、絞れちゃいますから」

普段遭遇しない状況に笑みが零れる。どこかホテルにでも泊まればいい。そんな安直な考えは山間部にあるこの場所では通用しないことを身をもって知る。

「本当に…入るんですか?」
「ホテルはないしもう空いている場所はない。このままだと俺も君も野宿になってしまう。それに本当に風邪を引いてしまう」
「でも、」
「別々の部屋を取れば問題ないだろう」

わたし達が辿り着いたのは、駅から少し離れた所にポツンとあるチープなラブホテルだった。この近くにはそこしか宿がなく、真っ暗になってしまう前にとこの場所に足を踏み入れた。
別になにかする訳じゃない。別々の部屋を取ればいいだけ。それなのに妙に緊張してしまうのは、相手が煉獄さんだからだろう。嫌でも意識してしまう。
わたしより先に入った煉獄さんが「よもや…」と焦ったような声を出した。何かと思えば、空き部屋が一つしかないというのだ。元々部屋数が少ないのだろう。顎に手を置いて唸る煉獄さんが、ちらりとわたしへと視線を向けた。

「すまないが、俺と一晩過ごすことになるがいいだろうか。誓って君には、」
「いいですよ。大丈夫です…分かってます」

わたしの言葉に、安心したようにボタンを押す。最後の空室のランプが消え、部屋へと案内するエレベーターのランプが卑猥な空間へと誘うようにピンク色に点滅していた。