だけれど、眠れぬ夜は続いていてそのせいかあまり食欲もなかった。
今日ほど月曜の朝が憂鬱に思えた事はない。
「どうした?元気がないように見えるが」
ボーッとしていた私の隣に、椅子を引いて煉獄先輩が座った。ふわりと香る自社のシャンプーの香りにトクンと胸が脈打った。煉獄先輩の手には空腹時や気分転換の時等に食べているビターチョコが握られていて、それを私に差し出している。
「確か川谷もこれ好きだったと思って。食うがいい元気がでるぞ」
二つ程コロンと私の手の平に零れ落ちたチョコに私は微笑んでそれを口にする。ほんのり苦くて甘いビターチョコは、今の煉獄先輩と私の様だ。甘くて優しい煉獄先輩も、苦くて他に視線を向けてる煉獄先輩もどちらも私の好きな人で…
「ありがとうございます、元気でました」
「そうか!それはよかった!もし何か悩みでもあるならいつでも聞くぞ!人に言いにくい事なら時間も作るし。営業企画部で川谷が元気がないと、気になって仕事にならんからな!」
ポンと優しい喝が背中に入る。
けれど彼の最後の言葉が頭から離れなくて…顔が真っ赤になっていくのが分かった。
きっと、変な意味じゃないって思う。単に私を元気づけようとして言ってくれたんだと。けれど煉獄先輩のその言葉は、今の弱気な私にとっては希望の光のように思えたんだ。
「あの煉獄先パ、」
「煉獄!」
聞こえた声はリヴァイ部長だ。いつも眉間に皺を寄せているリヴァイ部長の顔が更に険しくなっているようで煉獄先輩は「はい!」すぐに立ち上がって部長室へと入って行く。
…なにか、あったのだろうか?
まだ始業してほとんど時間が経っていないというのに。
視線は完全に部長室にいる煉獄先輩の背中を見つめてしまう。金色の髪が揺れると同時、煉獄先輩が営業企画部を出て左奥にある階段を駆け下りる音が聞こえた。1階下のデザイン制作部=ハルの所だと。
胸騒ぎがしたものの、何があったかをリヴァイ部長に聞ける訳もない。こんな時ゆき乃がいればそれとなくリヴァイ部長に聞いて貰えるのに。とてもじゃないけど、あの強面を前にこちらの意見なんて言えない。
けれど、煉獄先輩はものの数分で戻ってきてまた部長室へと入って行く。ドアが開きっぱなしになっているのをいい事に、私は資料をコピーするフリをして、部長室の側まで行って聞き耳をたてる。
「藍沢さんのデータはちゃんと修正後になっているようですが、これから印刷会社に行って確認してきます。その足で山梨のクライアントの所まで謝罪に行ってもよろしいでしょうか」
「構わねぇそうしてくれ。起きちまった事はどうしようもねぇ。対応さえきっちりしてれば今後の取引も問題ねぇはずだ。悪いが今日はエルヴィン達と会議が詰まっていて手助けできそうもねぇが、煉獄なら大丈夫だな」
「はい。では行ってまいります」
「オイ、わざわざ戻ってこねぇでいいぞ。たまにはゆっくりして来い」
「ありがとうございます」
リヴァイ部長に頭を下げて大股でこちらに来る煉獄先輩は、私を見てハッとしたように眉毛を下げた。
「すまない川谷、先程俺に何か言おうとしていたな」
大きな目が私を真っ直ぐに見下ろしている。だけれど、煉獄先輩に想いを伝えようと誘い出すつもりだったなんて言える訳もなく…
「だ、大丈夫です!急ぎじゃないので。煉獄先輩はご自分のお仕事優先してください」
「そうか、すまない。とても急ぎの案件なので行ってくるが、帰ってきたら話を聞こう!それまで待っていてくれるか?」
「も、もちろんです。あの、…ハルも一緒に行くのですか?その、山梨に」
「あぁ藍沢さんが責任を感じる事はないのだが、彼女も責任感の強い女性だからな。心配するな、俺たちは大丈夫だから!ああそうだ、俺のデスクにある残りのチョコだが、川谷にあげよう。よかったら食べてくれ、な!では行ってくる!」
ポンと私の頭を一度優しく撫でると、煉獄先輩はニコッと笑ってスーツの上着を肘にかけると大きめの鞄を持ってカツンと靴先を鳴らして出て行った。
私のことを気にかけてくれているのは分かる。でもこの山梨出張で煉獄先輩とハルの距離が縮まってしまったらどうしようって不安が私を