翌水曜日、いつもなら最上階のジムで汗を流して…のはずだったけれど、今日は営業企画部の仕事が一段落ついた事で企画部の飲み会が開催されていた。
リヴァイ部長の一声で全員参加と言われ、私も飲む気満々で参加をしていた。
飲み始めて二時間が過ぎた。
煉獄先輩は、リヴァイ部長の横でずーっと飲んでいるから全然話せない。いい加減放してくれませんかねぇ、煉獄先輩のことぉ。なーんて内心思いながらも私は次から次へと酒を体内に流し込む。ここ数日あまり食べていなかったせいか、いつもならこのくらいで酔うなんて事はないにしろ、今日はいつもより気持ちがふわふわしていた。
御手洗に行こうと思って立ち上がった瞬間、空きっ腹に飲んだせいか身体がぐらつく。
「川谷、大丈夫か?…なんだその顔は」
え?倒れそうになった私の腕を掴んで背中に腕を回して抱き留めてくれたのは煉獄先輩だった。私の顔を見るなりなんて酷いことを!
「顔、変ですか?」
「あ、いや、すまない。目がトロンとしているから、君らしくないと思って。俺の記憶では川谷は酒に強かったと思うのだが、」
「はい。酔ってません」
ニコッと微笑む私に小さく溜息をつく煉獄先輩。
「手洗いに行くのか?」
「はい」
「なら俺も一緒に行く」
ちょっとだけ自嘲的に笑った煉獄先輩は、私の腕を掴んで離さずに歩き出す。大きな背中が目の前にきて、トクンと胸を脈打つ。
このまま抱きついてしまえればいいのに〜なんて思うけど当然ながらそんな事は無理だ。
けれど不意に煉獄先輩が私を後ろに隠すように、グッと繋がっていた腕を引き寄せた。え?そう思った私は煉獄先輩の大きな背中に顔面から突っ込む。だけど煉獄先輩は動かなくて、よく見ると、酔っ払っているんだろうおじさんが千鳥足でよたよたと御手洗の方から歩いて来ていただけだった。
「あの煉獄先輩…」
「ここで待っているから行っておいで」
ポンと私の背中を押してそう言う煉獄先輩にトクンと胸が脈打った。その優しさ、独り占めしたい…。その大きな背中も、温かい手も、全部全部私だけのものであってほしい…ーー好きって言葉が喉の奥から出てきそうになるけれど、さすがに飲み屋の御手洗前で言うわけにもいかず、私はペコりと頭を提げて中に入って行った。
鏡に映った自分の顔は、すこぶる緩んでいる。
ゆき乃みたいに飲むと顔が赤くなるわけでもなく、酒豪って部類の私は、酔った勢いでとか、そーゆうドラマティックな事にすら憧れていた。如何せん、酒に酔うなんて事は今までほとんどなく、多少フラついていてもこの様に意識はしっかりとしているし、記憶が飛ぶ事なんて絶対にない。
でも今夜は少し酔ったフリもいいのかもしれない…なんて。
「お待たせしました」
「あぁ、大丈夫か?」
「はい!元気です」
ぶんぶんと胸の前でぐーにした拳を上下に動かすと、ふっと煉獄先輩が笑った。あ、その笑顔めちゃくちゃ好きです。白シャツを腕まくりするのが癖な煉獄先輩の伸びた腕が今日何度目かの私の頭に触れた。
「そうだ川谷。君に出張の土産を買ってきたのだが、帰りに受け取ってくれるか」
「え?私にですか?」
「ああ、君にだ。いや大したものではない、ワイン好きな川谷に飲ませてあげたいと思ったワインだ」
「…あのそれ、一緒に飲みませんか?煉獄先輩と一緒に飲みたいです…。ダメですか?」
「いやいいのか?」
いいもなにもない。煉獄先輩のスーツの裾を私の指がちょこんと摘んで彼の脚を止めた。
「勿論です。…煉獄先輩に後でお話したい事があります」
裾を握って俯いたままの私。めちゃくちゃ顔が赤くなっているのが自分でわかる。だって頬がめちゃくちゃ熱い。
「ならば、後でまた川谷の所に行くよ」
「はい」
ドクン、ドクンと胸が大きく脈打つ。数日前から考えていた煉獄先輩への告白。
ハルに先を越されてしまったけれど私は私のペースで彼に伝えようと今に至る。
この後、煉獄先輩に想いを伝えようと私は大きく深呼吸をしてみんなのいる座敷へと戻って行った。