答え合わせ

「で、藍沢との出張はどうだったんだ。なにか進展はあったのか」
「…リヴァイ部長、その話は」
「安心しろ。誰も聞いてねぇ俺たちの話なんか。よく見てみろ、みんなそれぞれ楽しそうに飲んでる」

リヴァイ部長の言葉に周りを見回せば、確かに俺たちの話に耳を傾けているような人はいなかった。あたかも俺たちが仕事の話をしているとでも思っているのだろう。まさか男2人が世間一般的に言うなら「恋バナ」をしているなんて誰も思いもせん。自嘲的な笑いを零した俺は、一つ息を吐いて先日の藍沢さんとの出張での出来事を掻い摘んで話した。

「なるほどな。そりゃ藍沢いい判断だ。確か川谷と藍沢は、ゆき乃とも仲が良かったし、女同士でもお互い思う事があったのかもしれねぇな。どうだ、女2人泳がせてる気分は」

咥えていた煙草の灰を灰皿に落としたリヴァイ部長は、静かに芋焼酎を飲んだ。

「そんなつもりはないのですが」
「おいクソみてぇなこと言うな。そんなつもりはなくとも、そうしてんだよ、てめぇは。いつまで泳がせとく気だ。さっさと楽にしてやれ」

ジロリと睨みつけられて内心背中を汗がつたう。
そうだな、自分ではそんなつもりでなくとも、実際リヴァイ部長の言う通りだ。こんな風に2人の女性を同時に気になってしまうなんて事、今までなかったから戸惑っているなんていうのは、ただの言い訳だ。男らしくもなんともない。

「リヴァイ部長は、ゆき乃さんに迷いはなかったのですか?」
「あ?ある訳ねぇだろ。まぁゆき乃から猛アピールされたのは、悪くねぇと思ったが。だが一つ言っておく。何かを捨ててでも手に入れたいと思った女は後にも先にもゆき乃ただ一人だ。その他大勢とゆき乃は格が違げぇ。それを俺はゆき乃に伝えただけだ」

そう言えば、リヴァイ部長の以前の女性への付き合い方といえば、相当評判が悪かった。それを変えたのが、ゆき乃さんて事か。ならば俺もきちんと見分けなくては。

「思いを言葉にする事は、仕事においても大事ですよね。俺もしっかり決めたいと思います」
「あんまり考えすぎんじゃねぇぞ。まぁ考えるより先に行動に出ちまうぐらい自然な事だと思うがな。営業企画部のエースなら、仕事も恋も決めてみろ」
「はい!胸に刻みます」

飲みの席でまで仕事の話はしない!というリヴァイ部長はこうして俺にしっかりと喝を入れてくれた。
だからではない。飲んでる最中も川谷の視線がこちらに飛んできている事に気づいていた。酒が強いと聞いていたにも関わらず立ち上がった川谷はフラついていて俺はすぐ様自分も立ち上がると個室を出て廊下へと急いだ。「酔ってません」などと言い放ったが、なんだか目が離せず、その後も俺はチラチラと川谷の事を盗み見していた。

気がつけばえんもたけなわ、うたげは終わりを迎えていて、俺は心を落ち着かせるように、最期まで忘れ物がないかだとか、チェックしてから出てくるだろう川谷を飲み屋前の備え付けの椅子に座って待っていた。
俺を見て笑顔で駆け寄ってくる川谷についこちらも頬が緩む。しかし、その視線の先ーー車道に止まった車の中で、あたかも気づくことなく口付けを交わすリヴァイ部長とゆき乃さんに俺たちの視線は釘付けになった。あたふたしている川谷の横で、俺は先日のサシ飲みでリヴァイ部長に言われた事を思い出していた。
その直後、俺に「好きです」と想いを告げてくれた川谷を俺は抱きしめたい…と思っていて。その言葉を口にすると、川谷は嬉しそうにでも、恥ずかしそうにコクリと頷く。少し強引に引き寄せて抱きしめる川谷からは、俺の企画したシャンプーの香りが漂っていてそれが心地良い。

「離れたくない」

そう言う川谷の額に自分のを重ね合わせた俺は「川谷…」小さく彼女を呼んで、頬の手を顎に触れさせてこちらを向かせる。潤んだ瞳が真っ直ぐに迷いなく俺を見つめている。ほんのり震えるその唇に俺はそっと自分のを重ねたーー。

なんとも言えぬ高揚感が俺の全身に行き渡る。
あぁそうか、分かった。
リヴァイ部長の言っていた言葉が、今ようやく分かった。