好きだから苦しい

迎えた金曜日、川谷を家に招待した。
先日の山梨出張の際買った土産のワインだったが、川谷が一緒に飲みたいと言ってくれ、それならと今夜川谷を誘い出した。
彼女に言うべきことはもう決まっている。

「お、お邪魔します」

そう緊張した様子で部屋にあがった彼女は部屋を見回して嬉しそうな顔を見せる。
一度呼吸を整えた俺は、「川谷、君に大事な話がある」そう言って大きく息を吐き出す。そのまま間髪入れずに告げたんだ。

「すまない、川谷と付き合う事はできない」

それが俺の答えだった。
勿論川谷は途端に目を潤ませて動揺している。当然だと思う。あんな風に抱きしめて口付けしておいて、付き合えない…なんて笑えないだろう。

「ハルを選んだという事ですか?」

震える声で俺を見上げる川谷に、俺は首を横に振った。

「そうではない。正直に言うーー俺は君と藍沢さんと2人共を気にかけていた。どこからどこまでが自分の中での愛なのかも分からず、2人に曖昧な態度をとってしまった。それが俺は許せない。最初から…川谷、君だけを見ていればと今更思ってしまうぐらいに」

困惑した川谷は、それでも俺を見つめて今にもその愛らしい唇を開こうとしているので、それを指で触れて止めた。

「俺は川谷が好きだ。馬鹿げているかもしれぬが、君の髪に触れたあの時から、俺の中で川谷はとても可愛らしい女性だと思うようになっていた。それからは毎週ジムで川谷と2人で汗を流すことに喜びを感じていた。ただそれが愛だと気付けぬまま、俺は藍沢さんと出張に行って、君を不安にさせたと思う」

ホテルで藍沢さんにキスしてほしい…と言われ、自分から口付けをしそうになった事。それ以前に一度藍沢さんと口付けてしまった事。出張後の飲み会で酒の勢いもあって川谷に口付けしたい欲求を抑えられなかった事…それらを素直に言葉にした。

「川谷がいつも俺の企画した商品を使ってくれる事も、人の気付かぬ所まで目が届く所も、誰に言われなくとも人知れず努力している所も、俺にはそのどれもが嬉しいと思いながらも、長いことそれを愛だと気づけずにいた。そして…川谷、君とした口付けが俺は忘れられない。今でもこの唇に、川谷の唇の感触が残っていて、今もその続きをしたいと思ってしまっている」

こんな気持ちは初めてだった。こんな風に胸を締め付けられるような甘い口付けは、後にも先にも川谷とだけだ。

「それなら、」
「男として、自分の気持ちも見えずにいた俺は出来損ないだ。川谷には不釣り合いだ、」
「そんな事ないですっ!!」

そう言うが、川谷が俺の腕に飛び込んできた。
ふわりと漂うシャンプーの香りに無意識で口端が緩む。
自分が企画した商品を使ってくれる川谷がやはりどうにも愛おしい。知れば知るほど、川谷への気持ちが大きくなってしまう。

「煉獄先輩は馬鹿です!た、確かにハルとキスしたって聞いて死にそうなくらい悲しかった。ハルにキスを強請ねだられた時に未遂だったとしても、その時煉獄先輩の心にハルがいたのかと思うとすごく胸が苦しいです。でもそれは…私が貴方を好きだから。好きだから苦しいんです。そしてこの苦しさを直せるのは、この世で煉獄先輩しかいません!!不釣り合いだなんて思うはずありません。私だっていつも煉獄先輩に抱きしめて貰いたいって思っていました。今この瞬間も!…煉獄先輩は私のこと、好きですか?」
「あぁ、好きだ。君が好きだ」
「それだけでいいっ、それだけでいいんですっ。私も煉獄先輩が好きですっ、めちゃくちゃ大好きですっ!」

ぎゅうっと泣きながら俺に抱きつく川谷を俺は強く抱きしめ返した。彼女を抱きしめた事で自分の中にあった諸々の理性が吹っ飛びそうになった気がした。
こんな事、許されるだろうか…

「川谷…続きをしてもいいだろうか」
「煉獄先輩…私はそのつもりで今ここにいます。煉獄先輩にならどんな事されても、嬉しいんです」

重症ですね…なんて泣き笑いする川谷の手を引いて俺はワインも飲まずに隣の寝室へと招き入れた。