それぞれのグラスが重なり甲高い音が鳴る。喉に流し込んだ少し苦めのお酒が程よく刺激を与えてくれた。グラスを置けば私達の時間が始まる。一週間頑張ったご褒美タイムだ。
「今日の主役はゆき乃かな?」
「聞きたい!リヴァイ部長のプロポーズ!」
「え〜内緒だよ!それよりハルの話!猛アピールらしいじゃん、おたくの七海部長!」
「うえ!なんで知ってんの?てゆーか別に猛アピールかなんて分からないし…」
「いやでも顔笑ってるよハルってば」
飛び交う会話に幸せの花が咲き乱れるようだった。煉獄先輩を好きになって色んな事があった。苦し涙が嬉し涙に変わったあの日から、数か月が経った。
ゆき乃とリヴァイ部長は数日前に婚約したばかりだ。アイスとイデアさんも順調でよく会社でも二人の姿を見るようになった。
煉獄先輩…杏寿郎さんと一つになったあの日からも、私達の関係は何一つ変わっていなかった。口には出さないけれど、私と煉獄先輩とハルとのこの愛の三角関係をみんな見守ってくれた。時には助言し、時には黙って抱きしめてくれ、本来なら崩れてしまうかもしれなかった私達の関係は、一度も崩れることなく今もこうして続いている。
「えっと、言いますけどね…七海部長ね、凄くパンが好きなの。あの容姿でパンを抱えて買い物してる姿とか見たらなんか可愛くて。あと声がもう凄く心地よくて。それから眼鏡の奥の目もね、めっちゃいいの!仕事上でも、わたしの事ちゃんと見ててくれて。まさかあんな素敵な人に告白されるなんて思ってなかったから…正直、めちゃくちゃ嬉しい、です」
「ベタ惚れじゃねぇか!さっさと交わっちゃいなよ!」
ゆき乃の声に思わずみんなが笑った。ハルの心の傷が癒えたのかは分からない。ハルも私に似て自分のことをそんなに話さないから。ただここ最近は七海部長のおかげでまたハルらしい笑顔が増えたように思えた。それが嬉しくて、顔を赤らめて話すハルを見ているとハルの視線が私に飛んできた。
「愛莉」
「うん?」
「わたしちゃんと前に進んでるから。もう煉獄さんからは卒業してるよ。わたしだけを好きだって言ってくれる人がいて凄く幸せなの…だからもう、大丈夫!もっと煉獄さんとの話を聞かせてよ」
「ハル…っ……」
すぐ泣くんだからぁ、とゆき乃とアイスがおしぼりを同時に差し出した。私もだけど、目の前に座るハルもまた目を真っ赤にして同じように涙を流していたからだ。なんならゆき乃まで「わーなんか貰い泣きしそ〜やめてぇ〜」なんて言っていて、それを冷静に見ているアイスも、いつもより優しく微笑んでいる。
よかった、本当によかった。ハルが前を向いていて。自分がハルの立場だったらきっとまだ立ち直れていないかもしれない。それでも今目の前にいるハルはちゃんと自分の足で立っている。そしてその心に芽生え始めた七海部長への恋心が実るのは時間の問題だと思えた。それは私や杏寿郎さんに遠慮しているわけでもなく、ハルの本心だって分かるよ。
だってハル、今めちゃくちゃ可愛いもん!!
「ハル、ありがとう。ハルと七海部長の話も、これから聞かせてね!」
「うん!」
この幸せに辿り着くまでに流した涙は無駄じゃなかった。今こうして笑い合うために必要だったんだね。
「ゆき乃よ、そろそろ俺に構う時間だ」
「わ、リヴァイ!そんなにゆき乃に逢いたかった?」
「当然だ。早く行くぞ」
「うそお、なんでいるの?イデア先輩ずるいよ〜」
「ボクだってアイスちゃん一人で帰すわけないでしょ」
「なにそれ〜かっこよすぎる〜」
「…な、七海部長、どうして…」
「たまたまリヴァイ部長と煉獄と飲んでまして。藍沢さんの顔が見たくなってしまいました。ご迷惑でしたか?」
「…嬉しい、です」
「愛莉、楽しかったか?」
「はい、めちゃくちゃ」
「そうか、それはよかった。あまり酔っている愛莉を見せたくはないのだが、な…」
「え?なんか言いました?」
「よもや、なんでもない」
「ふふ、安心してください。酔っていてもちゃんと理性は保っているので」
「な!!聞こえていたのか?」
「はいっ!」
照れる杏寿郎さんの腕にぎゅっと絡みつく。
みんながそれぞれ手を振って家路につくなか、私と杏寿郎さんも長い夜へと続く扉を開け放つ。
今ある幸せを、大切に歩いていこう。
―after story Fin―