昼休みが終わる頃に漸く薬が効いてきてこれなら大丈夫だと同期のアイス達とカフェから帰ってきたら、お昼も食べずに仕事をしていたのだろうか、煉獄先輩とリヴァイ部長だけがまだパソコンと睨めっこをしていた。
「あの、お昼とられてないのですか?何かお手伝いする事ありますか?」
思わず駆け寄ってそう声をかけた。それが煉獄先輩じゃなかったとしても同じだと思う。リヴァイ部長はお昼をとらない事などザラにあるけれど、煉獄先輩は必ず三食とる!というイメージがあった為、そんな言葉が口を継いで出たんだと思う。
私を見て一瞬驚いた顔をした煉獄先輩。でも次の瞬間、屈託なく大きな口を開けて笑うと「川谷ありがとう。心配してくれて。だがどうしても午後からのプレゼンに間に合わせたかったのだ。この商品が無事に選考を通ったら川谷にもプレゼントさせてくれ。よかったらプレゼンも一度見に来てくれないか?」…太陽のように眩しかったんだ。
髪の毛をわしゃわしゃ掻きながら「珈琲1杯ぐらい飲めそうだ、川谷ありがとう」なんて、何度も私にお礼を言ってくれた煉獄先輩が、人に好かれる訳が初めて分かったのかもしれない。
そして午後のプレゼンを私はこっそり見に行った。
生活必需品であるシャンプーなんてボトル目当てで選ぶ人はそういないだろう。勿論中身もうちの商品だから力は入れてる。でもこの人達はそれでもボトルのデザインを少しでも良くしようとしていて、昼食もとらずにその1回のプレゼンにかける気迫といったら半端なかった。
人前に出て何かを言うのは苦手だ。だから例え社内だろうと注目される事はお断りな性格だけれど、前線で堂々と自分の意見を述べる煉獄先輩のプレゼンは、見事だった。こんなの見たら欲しくなる。買い占めたくなる。
そして何より自分の意見に自信を持って言葉で人に伝えている煉獄先輩が、やっぱり私にはキラキラと眩しく見えて、あれだけ辛かった生理痛なんてどこかへ消えていた。
丁寧に作成された資料とiPadを使った大画面での説明。カツンと靴音を鳴らして歩くその姿に魅了され、黒板をバンと叩く拳の音すら素敵に聞こえてしまった。
自分のできない事をやってのける彼が、どうしようもなく心に残った。
この人の見ている世界を一緒に見たい…と。
この人の歩く道を一緒に歩きたい…と。
そう願わずにはいられなかった。
ーーー好きにならずには、いられなかった。
「そういえば最近spade社の売上が上がってきているようで、俺もこの辺で対策を考えなければと思っている。川谷はspade社のシャンプーを使ったことはあるか?」
うちの最大のライバル会社であるspade社。同じようにシャンプーやら入浴剤やらに力を入れている会社で、常にこことは競っている犬猿の仲だ。
ほんのり首を傾げる仕草をするだけでも私の心臓はドクンと爆音を鳴らす。
「いえありませんが、確かによく目にはします。あの人気の女優さんのCM起用の効果は出ていそうですよね」
「やはりそうか。髪の長い女性でうちもCM等撮れたらとは思うから一度リヴァイ部長に相談しておこう」
そう言った煉獄先輩は、何か言いたげに私を見ていて…。
「あ、お手伝いできる事があれば何でもします」
「いやそうではない。その君は…髪が長くてとても綺麗だから、俺の中のイメージでは君のような女性でCMも撮れたら…などと思っていた」
見つめる先の煉獄先輩は特段照れている様子はないものの、何となくいつもと違う空気が流れているように感じる。トクンと胸が熱くなる。そして私の髪をそんな風に思ってくれていた事が嬉しくて堪らない。
「触って…みますか?」
だからつい調子にのってそんな言葉を発してしまったんだ。