お疲れ!と、手中にあったグラスにカチッと自身のグラスを傾けたアイスは、仕事終わりの
毎週金曜日は中途採用のハルとゆき乃も一緒だけれど、ゆき乃は珍しくリヴァイ部長が早く終われそうだからって、そっちに行かせた。ハルは仕事が大詰めで、もう少し残りたいって事だったから、間に合えば合流する!ってLINEがきていたからとりあえずいつもの場所を伝えておいた。
4階のハル以外とは職場でもしょっちゅう顔を合わせてはいるものの、ベラベラ喋るわけにもいかず、こうしてガス抜きをしなければ翌週を迎えられなくなっていた。
アイスのグラスを握る右手の薬指にはシステム部のイデアさんとのペアリングが煌びやかに輝いていて、今の私には目眩がしそうなくらい眩しい。
つい2日前の煉獄先輩とのやり取りでこんなにもモチベーションが堕ちてしまうとは…どうしたものか。
「なんかさーなんかねーなんてゆーかー…」
ああダメだ。仕事でもしょっちゅう自分の不甲斐なさに涙を零してしまう私。お酒が入ると余計にその弱い自分が制御できない。加えて隣で飲んでいるのは何でも話せる信頼している友人とくれば…ダメだ止まらない。
「まぁ飲みなよとりあえず」
グズる私をなんて事ないって受け止めてくれるアイスの存在は私には必要不可欠だ。アイスに言われるがまま飲み食いをした私は、また来週ジムで自分を戒めると分かっていても止めなかった。
「もうさ、好きって言っちゃえば?」
手の甲を顎に当てて「喉まで出てきてるんでしょ?好きって気持ちが」なんてサラリとすごい事言うなぁ。他人事だと思って楽しんでいるようにも見えるけれど、アイスは言葉は少なくても私の嫌がる事は絶対に言わない。
実のところ、アイスにはもう既に煉獄先輩への気持ちがバレていた。たぶん私が顔に出ちゃう性格のせいか、たまに営業部で煉獄先輩に話しかけられるととんでもなく花を背負っているとかで。それに「好きなの?」と聞かれて「NO」と言い張れる自信もなかった。だってもう好きなんだもん。とりあえずは自分の気持ちにもう少し自信が持てるまでは、アイスの心の中だけに秘めて置いて欲しい…と言う私の気持ちを汲んでくれている。
ローストビーフを箸に絡めて口に頬張るとタレの酸味と肉のジューシーさが喉を通ってつい顔が緩む。肩肘ついて正面に座るアイスこそ、イデアさんと付き合う前はこうしてよく二人で悩んだ事など忘れてしまったのだろうか?
「言えないよ」
「なら他の誰かに取られてもいいの?」
「絶対に嫌。それだけは嫌。…でもなんか、突き放された気がしたんだよね、あの時。もしも煉獄先輩が少しでも私を想う気持ちがあれば、他の男なんて言わないよ」
言わない、ではなく、本当は言われたくなかった。
目の前のご飯もお酒もすごく美味しいのに、煉獄先輩の事を思うだけで胸がぎゅーっと捕まれるように痛い。
「愛莉ちゃんだって十分可愛いけどね、私から見たら。もう少し自信を持っていんじゃない?」
クールに見られがちだけれど、根は熱いというか温かいんだよアイスは。そうじゃなきゃあのインドアなイデアさんが心を開くはずがない。
でもアイスのお陰で私は沈んでいた気持ちをほんの少しあげる事ができた。
くよくよ悩んでも仕方の無い事だと。答えはもう出ている。ならば当たって砕けろ!…なんて砕けてしまったらもともこうもないのだけれど、それでも前に進むしかないのだと。
人を好きになったのなら、前に進まなければ幸せにはたどり着けないのだとーー。