初恋の思い出

「ねぇ名前の初恋ってどんなだった?」

定例のガールズトークの飲み。
大手出版社の受付嬢をやっている私は、仲良くなった編集女子や流通女子達とこうして時々状況報告がてら飲み会を開催していた。
いつもは彼氏の話や、合コンの話等と盛り上がるものだけれど、今日は絶賛失恋女子がいた為、それ系はNGって事で、初恋トークに及んでいる。

「初恋かぁ…」

ライチグレープフルーツの生グレをグリグリと絞りながら思い浮かべる。脳内に浮かぶのはいつだってあの人で…

「同じクラスの学級委員の子、だったかな」

高校時代の恋人といえば、脳内に思い浮かべるのはたった一人。私の初めてを全部あげたあの人は今、どこで何をしているのだろうか。

「でも彼が地方に引っ越す事になってね。それっきり、自然消滅…」

学生の遠距離なんて、続くカップルはそうそういない。自分たちだって遠距離ができると思っていた訳じゃなかったけれど、それでも信じていた。
でもそんなちっぽけな想いなんて時の流れと共に大人になる事で心のどこかからはいつの間にかなくなっていて。
残ったのは呆れるくらいの曖昧な恋愛ごっこ。

「あの時別れなかったら、今頃どーなってたのかなぁ?」

ありもしない、たらればを並べるガールズトークは、時にストレス発散になって、時々ちょっとだけセンチにもなる。

きっちり2時間飲みまくってみんなそれぞれの場所に散ってゆく。腕時計を見るとまだ21時過ぎ。金曜の夜に独りで過ごすのは寂しくて、いつものトーク部屋にメッセージを送る。

【今から言ってもいい?】と。すぐに既読になったそれ。ポコンと返信もすぐに届く。
わりと最近お約束になりつつあるこの関係。

【牛乳買ってきて】そんなメッセージもついでにきたから、最寄り駅のロータリーにあるコンビニに入って特農ミルクを一つ買うと、それを持って彼の住むマンションのエントランスへと足を進める。
相変わらずすごいタワーマンションだなぁ…と思いながらも最上階のボタンを押す。

数分後、ポーンて音と共にエレベーターを降りてもう一度呼び鈴を鳴らそうとしたけど、ドアノブに触れてガチャリと回すとやっぱり、開いていた。

「悟〜!鍵開いてたわよ」

「開けといてあげたんだよ、わざとね」

「不用心だなぁ」

「大丈夫、キミが来るのは分かってるから、」

パソコン画面には私のスマホのGPS。たはは、相変わらずだこと。

目の前にいる長身のオトコ、五条悟は高校の時の同級生で、現在は警視庁の捜査一課で刑事をしている。それが本当かどうかも分からないけど。警察には人に言えない部署もあるらしいし。
でも警視庁の捜査一課ならば、かなりのエリートなんじゃないかと思う。
不規則だからいつ予定が合うのか分からないものの、だいたい私からの誘いはこうして受け入れてくれる。

「今日は女子会だったんでしょ?」

「あーうん」

「なに?つまらなかったの?」

「違うけど。…何もなくても来ちゃダメだった?」

「まさか!名前の誘いならいつでも大歓迎だよ、ほらこっちおいで」

サングラスを外すと青い瞳が優しく見下ろす。この青い瞳に見つめられると全てがどーでもよくなれる。

「悟〜。甘えさせて、」

「仰せのままに」

ふわりと抱きしめてくれるその腕と大きな身体にギュッと顔を埋めて悟の匂いを鼻に吸い込む。柑橘系の香水なのか、いつもいい香りがして胸の奥がキュンとする。

「ベッド」

「はいよ〜」

簡単に抱き上げられて寝室のベッドへと運んでくれる。優しくベッドに下ろされる私に悟の温もりが重なるーーーー

目を閉じると、あの日の彼が浮かんだのは悟には内緒。