白いスーツに青シャツ。黄色のネクタイとブラウンの靴。こんな派手な格好はタッパのあるイケメンではないと着こなせない。
…改めて建人を見つめると、すごいカッコイイ人と付き合ってたんだなぁなんて思えた。
建人の行きつけだっていう小料理屋へと連れていかれた私は、個室のそこでまじまじと彼を見つめた。
「すまなかった、あの時は…」
ご丁寧に頭を下げる建人。だけど、建人の言うあの時が私にはピンとこなくて。もしかして、自然消滅の事?
「学生の頃の話…よね?」
「あぁ。連絡も中々できなくて、自然消滅という形で終わってしまって。…辛い思いをさせたと思って」
「うんまぁ。でもお互い様だと思うし、そんなに引きずったりしてないから安心して」
「そう、か」
あからさまに残念そうな顔するのやめてよ。だって私たちもう28歳だよ。あれから何年経ってると思うのよ。…そう言おうとしたけれど、昔誰かが言っていた。
女の恋愛は上書きされていくけれど、男は過去の恋愛もちゃんと引き出しがあると。
「建人…私たち28だよ。もう、時効だよ」
あえてそれを口にすると、ほんのり目を細めて微笑んだ。だから建人もなんだかんだでちゃんと上書きされていたんだろうって。
これだけ素敵になった建人を前にして、逃がした魚は大きかったと思ってしまう事は許して欲しい。
でも、今に至るまでそれなりに恋愛も別れも経験してきた私は、建人とよりを戻すことなんてないという事もちゃんと分かっている。
「名前があまりに綺麗になっていたから、懐かしいって気持ちだけじゃ、…いやなんでもない、忘れてくれ」
途中で言葉を止めた建人は、私の右手薬指に着いている指輪を見ていた。シルバーとピンクゴールドのリングが捻れて重なっているこれは、去年のクリスマスに自分で買ったものだった。よく言う自分へのご褒美って奴。だからそれを恋人からの贈り物だと勘違いしたんだろう建人は言葉を止めたんだと。
「建人は?結婚は、してなさそうだけど、恋人ぐらいいるんでしょ?」
「まさか。こんな男を好きになる物好きはいないよ。…俺としては、もう一度名前にお願いしたいと思っているが…」
カタンとテーブルの上に投げ出された私の手を向かい側からそっと握る建人に、心臓が大きく脈打ったのは言うまでもなかった。
たった数秒前に言った建人の忘れてくれが無かったことになっているのは、気のせいだろうか?
見つめる先、建人の真剣な目が真っ直ぐに私を見ている、私だけを。
もしもこのまま建人をもう一度信じてみようなんて事になったとしても、私には今の時点でこの人を受け入れる事なんて到底無理で。そもそも、外見だけを見てそう思ったのなら、残念ながら建人とは一生付き合えないと思う。
「もうあの頃の私じゃないよ。建人の知ってる名前は、もうここにはいないのよ…」
私には悟がいる。なんて言えるような関係でもないというのに、この期に及んで悟の影響が大きく出てしまっているのが自分でも分かった。結局のところ、悟の事が多少なりとも好きで抱かれているのだろうと。
お互いの気持ち一つ、言葉一つで、いつでも切れてしまうような未来のない悟との関係を、この人にはどうしても知られたくないと思ってしまう。
せめて建人の中では、昔のままでいたいなんて、矛盾してるよね。自分で突き放してるというのに。
「キミは何も変わってない。その笑顔もあの頃のまま」
建人の言葉は嬉しいのに、素直に受け止められないのは、大人になったからなのだろうか。
どんな笑い方をしたのかは分からないけれど、小さく笑う私を見て、それ以降建人はもうその話題を出してはこなかった。
ーーダメだ、今夜は悟無しじゃ眠れない。