「こんな時に限って、会えないとか…」
悟のマンションに入ることはできたものの、今日は仕事が立て込んでいるのか電話にも出ない。私のGPSは悟のマンション前で止まっているだろうに、それにも気づかれない。凶悪事件でも起きたのだろうか、この東京のどこかで…。
エレベーターを降りて、玄関の前で膝を抱えてそこに顔を埋めてひたすら悟を待った。
どれくらい経ったんだろう。コツコツって足音が遠くから聞こえた気がする。顔を上げるとエレベーターを降りた悟が私を見てニッコリと微笑んだ。
「どうしたの?」
優しい声が耳に届く。顔を見た途端に安心して涙が零れた。こんなの可笑しい…
「何度も帰ろうと思ったんだけど、帰れなくて…。悟に抱きしめて貰いたくッ…」
言葉を最後まで言い終わる前に悟が玄関前で私を抱きしめた。強く、強く、二人の間に隙間なんて一ミリも無いくらいに。
その後は流れるようにベッドに倒れ込んだ。
感情的に抱かれるのは嫌いじゃない。というか私の方が悟にベッタリだ。
悟に触れていないと不安で、その大きな身体の何処かしらに触れていたくて。
建人に再会しただけで、こんなにも動揺するとは。こんなにも心が乱れてしまうとは、思ってもみなかった。
それを自分で認めたくなくて我武者羅に悟に何度も抱いて…と迫った。
…何度目かの絶頂の後、悟がドサッと私の上からベッドに背中をつけて荒々しく呼吸を繰り返す。
開いた腕の上、頭を乗せると悟の指がやんわりと私の髪を撫でてくれる。
そのまま甘えるように頬に手を添えて唇を重ねると、悟のブルーアイが優しく私を見つめてくれる。
「あぁやっと分かった。名前の気がこんなに乱れてそれを隠して甘えてる訳が」
「え?」
いつもは言葉責めな悟のセックスだけど今日は私の異変を少なからず汲み取ってくれて、何も言わずに何度も抱いてくれた。もしかして、ずっと考えてたの?
急にそんな言葉をかけられて目を見開いて悟を見つめる。
「誰かと再会した、当たり?」
「…なんで?」
「簡単に言うと、僕のプロファイリング。だてに刑事やってないからねぇ」
「…そっか、さすが」
「で、誰に会ったんだよ?」
悟から目を逸らすと、一つ大きく溜息を着く。その、プロファイリングが確かなら、誰と会ったのかもバレてるんだろうと。悟の瞳がほんのり揺れている。
「七海か…」
何も答えない私の代わりに、悟のプロファイリングがヒットした。そして私の顔を読んだ悟が小さく呟いた。
「それは心中穏やかじゃねぇな…」
いつもは優しい口調の悟がこうして時々普通に話す時、それは大体悟の気も乱れていて…こんな時、どういう顔をすればいいのか分からなくなる。
「悟?」
「あぁごめんごめん、大丈夫だよ。ね、大丈夫」
怖ばった顔だっただろうか?悟が私を抱きしめて背中を撫でてくれる。だから私は悟の脇の下に腕を回して身体を悟に擦り寄せた。
「ねぇ名前。名前の初めてはもう七海の物だろうけど、名前のこれからは、僕のものでいいかな?」
「え?」
どういう意味?私たちはセフレ以上でも以下でもない。固まる私の両頬を悟の大きな手が包み込む。
「名前はさ、気づいてないフリをしているかもしれないけど、僕が愛情持って触れてるのはキミだけだって、いい加減認めてよ?」
「悟あの、」
「知らなかったは無しだよ名前。僕たち今そーゆー所まできてるんだよ」
そんなの、言われないと分からないよ。悟が私に愛情持って触れている事は分かっていたけれど、それが愛とか恋とかそんな感情だなんて分からない。
だけど、そーゆー事に気づかないフリがもうできなくなる事は、なんとなく理解した。