翌朝、念入りにメイクをした。少しでも可愛く見せたい。あわよくば可愛い…って言われたい、なんて甘い事を考えていたらあっという間に時間は過ぎて、慌てて家を出る。
いつもの時間にいつもの電車に乗っているけど心の中は伏黒くんでいっぱいだった。
今日もキス、してくれるかな…なんて思うと自然と頬が緩む。
「おはよう」
「ッス」
駅の改札を出ると腕を組んで佇んでいる伏黒くんがすぐに目に入った。背が高くて顔も綺麗だから柱に寄りかかっているだけで絵になる。他校生がチラチラとそんな伏黒くんを見て通り過ぎるのが分かった。私が声をかけるとほんのり口端を緩めるその顔がたまらなくカッコよくて、危うく見惚れそうになっている自分がいた。
「ごめんね、わざわざ来て貰って」
後ろからそう言うと、立ち止まった伏黒くんは無言で左手をこちらに差し出してくる。だからそれを握るとグイッと自分の横に引っ張った。
「俺が好きでしてるからあんたは気にすんな」
やっぱり耳は赤くて、照れているのが分かる。そんな事に胸がキュンとしてしまって、私は小さく頷いて繋がれた指に力を込めた。
伏黒くんと一緒に駅の裏にある公園に行くと、銀色の大きなバイクがそこにあった。
昨日買ってくれたピンク色のヘルメットを私の頭に乗せて顎の所をカチンと止めてくれる。
「乗ったことある?」
伏黒くんの言葉に勿論ながら左右に首を振ると、ふわりと抱き上げられて、いとも簡単に後部座席に乗せられた。てゆうかいきなり腰持った、吃驚した…
色んなドキドキが身体を突き抜けていく。
「俺が座ったら、腹に腕ごと回して。…密着するぐらい掴まってくれねぇと走れねぇから」
なんだかよく分からなかったけれど、テレビでその絵面は見た事があるから、コクコクと頷くと伏黒くんは黒いメットを被ると大きく脚を広げてバイクに跨った。
「おい、掴まれって」
「う、うん」
「いやそれじゃ落ちる。こうだーー」
グイッと手前に引き寄せられて身体が伏黒くんの背中に密着する。こ、これじゃあまるでバックハグだよぉ。私から伏黒くんにギューってしているみたいで、恥ずかしぃ…。
「よし、離すなよ?」
コクっと頷くと伏黒くんがエンジンをかけた。
顔が見られなくてよかったって思う。だってこんなのヤバい。バイクってこんな密着する乗り物だったんだ。
初めて乗った事よりも、こんなに伏黒くんにくっつけた事が嬉しいけど恥ずかしくて、何とも複雑な感情だった。