「大丈夫か?脚プルッてるけど、」
フッて笑いながら私をバイクから降ろしてくれた。スピードが速かったからなのか、裏道だったからなのか、いつも乗るバスよりずっと早く着いてしまう。
先輩の家の駐車スペースには伏黒くんの他にも何台か入れられる空間があって、そこにいつも停めさせて貰っているらしい。
「なんか色々恥ずかしかったよ」
「俺はラッキーだったけどな」
「え?」
「いや、なんでもねぇ」
ヘルメットをバイクの椅子下に仕舞うと、伏黒くんはカラカラと靴を鳴らして歩き出す。だけど私は伏黒くんの言う通り脚がプルッちゃってて、なんだかんだで怖かったんだって。
「待って、動けない!」
振り返った伏黒くんがゆっくりとこちらに向かって歩いてくると、ふわりと彼の胸に抱きしめられた。そのまま頭を数回撫でられてチュってリップ音は、私の髪にキスしたの?
「怖かったならそう言えよ、我慢しねぇで。大丈夫か?」
そっと距離を作ると顔を覗き込まれる。だけどその距離が余りに近くてつい、思いだしてしまったーー昨日のキスを。この距離ならキスできちゃう…なんて思ったら途端に血液が顔に集中するかのよう、赤くなっていくのが分かった。
「…名前」
こんな時、名前で呼ぶなんてずるいよ。ずっと「あんた」って呼んでいたのに。ちょっと寂しいな、なんて思っちゃってたのに、今の特別感半端ない。
見つめる先、そっと目を閉じる伏黒くんの制服の裾をちょこっと摘むように触れると、伏黒くんの乾いた唇が小さく重なった。
朝の眩い陽射しの下、伏黒くんがギュッと私を抱きしめて唇をゆっくりと角度を変えて何度も優しく啄む…
一度唇を離して見つめ合うと「朝からがっつき過ぎ?」なんて笑う。だから私は伏黒くんの腕に掴まって「もっとして」馬鹿だなって思うけど、覚えたてのキスを、もっともっと沢山して欲しいって思ってしまう。
「それ反則、あんた可愛いすぎ」
ぎゅうって抱きしめられながら、伏黒くんが私の唇を舌で舐めた。ドキッとして目を開けるとちょっと苦笑いをしていて。
「続きは帰り」
そう言って私を離した。だからその腕に絡みつくようにして「うん」って笑うと、伏黒くんが耳まで真っ赤になっていた。
「…キス1回につき1000円払えよ恵」
聞こえた声に振り返ると、この家の主なのか、玄関前で腕を組んで冷めた目でこっちを見ている。
小柄な銀髪の先輩?
「狗巻先輩!!…見てたんすか?」
「恵が他人の家の前でキスねぇ」
ニヤリと笑った顔に伏黒くんがガックリと肩を落としたなんて。