伏黒くんの過去

ボーッと伏黒くんが会計をしている姿を眺めていた。
よくくるお店になのか、店員のお姉さんと話している伏黒くん。ちょっとだけ照れたように笑う伏黒くん。…モヤモヤする。自分以外の異性と話す伏黒くんを見るのが、こんなにも嫌な事だなんて、思いもしなかった。

「なんか私、欲張りになってる…」

小さく呟いた独り言。けれど、「なにが?」視界で捉えている伏黒くんはまだレジ。という事は…

「こんな所でなにやってんの?女の子が1人で。ね?遊びに行かない?」

…いやどう見ても中学生だよね?見覚えのある学ランはこの辺の中学のもの。てゆうかこれってもしかして、ナンパ!?え?私今、ナンパされてんの!?

「あの、一人ではないので」

「またまたぁ!キミもバイク乗っちゃうの?俺の後ろ空いてるから乗っていいよ!」

馴れ馴れしく話しかけてくる中坊に苦笑い。だけれど、人生初のナンパに内心テンションがあがってしまっているのは確かで。残念ながらどう切り抜けるのかは知らない。

「本当に一人じゃないから!」

「いーじゃん、いーじやッ!!」

痛てててて…って私を掴もうと伸ばした手が空中で伸びてきた別の腕に捕まって捻り返された。そこいるのは当然ながら伏黒くんで、いつの間にか会計は終わっていたんだって。

「触るんじゃねぇ」

聞いた事のないド低い伏黒くんのドスの効いた声に中坊は顔を上げる。ーー次の瞬間自ら後ろに吹っ飛んだ。というか、腰を抜かしてガクガクと脚を震わせている。

「ふ、伏黒先輩!!!すっ、すみませんでした!!伏黒先輩の連れだとは思わなくてッ!!」

それでも土下座する中坊に伏黒くんはフンッて小さく息を吐き出す。
なんか、凄くない?顔見ただけで腰抜かすとか…
チラリと伏黒くんを見上げると、ちょっとだけ面倒そうな顔。

「まぁアレだ。中学の時の後輩は全員ボコッたから」

全員ボコったんだ、へぇ〜…ーーーーって、「ええええええええ!?」確かに伏黒くんって見かけは強そうだけど、本当に強かったんだ!!しかも全員ボコったってなに!?そんな人いるの!?

「どーせ隠してもバレるだろーし。大丈夫、あんたがいる時は喧嘩なんかしねぇよ。まぁ誰がきても負ける気はねぇけど」

…なんて答えればいいのか分からず、苦笑いした私の手を取ると、伏黒くんは後輩の事を見向きもせず、この場から私を連れ去った。

無言で歩くこと数分。
ピタッと脚を止めた伏黒くんが大きく溜息をつく。

「悪い、怖がらせた?」

そんな不安そうな顔、ズルいよ。確かに住む世界が違うとは思った。思ったけど…

「私が好きなのは今目の前にいる伏黒くんだから。それだけじゃダメ、かな?」

目をまん丸く見開いた後、伏黒くんは安心したように笑うと、私の手を離してその手を肩に回した。そのまま肩を抱かれて歩き出す。非常階段のドアを開けるとそこに押し込まれて、「あんま可愛い事言うなって、ばーか」そう言った伏黒くんは、迷うことなく私の口を塞いだんだーー。