噛み合わない視線

「見易くはあるが、説明が足りねぇ。ここの説明をもう2、3行付け足せ。後レイアウトももっと、…なんだ?何見てやがる。」

出張の前日、作った資料の最終チェックがリヴァイ室長によってされた。
視線を感じたのか、リヴァイ室長が途中で言葉を止めて私を見る。ハッと我に返って苦笑い。そんな私を見てチッと小さく舌打ちをすると、ドカッと椅子の背もたれに腕を投げ出した。

「今は仕事の話だ、クソが。そんな目で俺を見てんじゃねぇぞ。」
「わ、分かってます!」

てかなんで私がこんな気にしなきゃなんないの!?
あんなキス、ズルいっつーの!!!…なんて脳内で悪態をつくも、口に出せる訳もなくただリヴァイ室長を睨むとスッと伸びてきた指が私のおデコを軽く突いた。その口端は緩んでいて、

「ほう、分かってるのか。ならいいが。」
「………」

カタンと椅子の背もたれに腕をかけたリヴァイ室長。真横にリヴァイ室長の気配を感じる。仕事中だって言ったのはそっちなのに、なんなの。

「お前は見ていて飽きねぇな、」

な!!!!
そういう想定外のこと言うの止めてよね。調子狂う。というか、あんなキスしといて普通にしているリヴァイ室長、ほんっと何考えてるのか分かんない。

「できたら見せろよ。」

肩に手をポンと置くとリヴァイ室長は足音も立てずに室長デスクに戻って行った。でも室長と入れ替わるよう、普段はこのフロアに顔なんて出したことのないアルミンが「名前、」真後ろに立っていて吃驚して振り返る。

「アルミン!どうしたの?」
「…うん。あのさ、名前明日から出張だから止めようかとも思ったんだけど、どうしても一緒に過ごしたくて…ーーダメ、かな?」

真っ赤な顔で小さく聞くアルミンはめちゃくちゃ可愛くてそれだけで全てが癒されていくような感覚だった。
断る理由なんて何一つないのに、こうやって断りを入れてくれるアルミンは本当に良い奴だって思う。
今まで一度だって断った事なんてないけど。
不安気に私を見下ろすアルミンの腕をにゅいっと掴んでそこにまたうちの鍵を握らせた。

「今日は遅くならないつもりだけど、ご飯作ってくれててもいいよ?」

半分冗談、半分本気でそう言うと、ブッて吹き出すアルミンは、笑顔で鍵を自分のポケットにしまった。それから…アルミンの手はゆっくりと私の頬に添えられて…あ、あれ?今ここ会社で結構みんないるけど?なんて。
こんな事今までした事ないよね?人前でこんなこと。

「アルミン?」
「僕が抱きしめるまで、誰にも触られちゃダメだよ?」

…アルミンらしからぬ言葉だったけど、どうしてか冗談に聞こえなくて。私の頬に触れる前に、アルミンがリヴァイ室長の方に視線を送っていた事なんて当たり前に気づくわけも無く…

「名前、返事は?」

可愛いアルミンのかけらもない、オトコって感じのアルミンに、ほんの一瞬ドキッとしたのは言うまでもなかった。そしてそんなアルミンを無視できるわけもなく、「はい。」なんて頷くとポンポンってまるで絵に描く理想の上司みたいに私の頭を優しく撫でてこのフロアから出て行ったんだ。

なんとなく、リヴァイ室長に視線を送るけど、私の方なんて見向きもせず、至って普通に仕事をしていた。
たかが一度本気か冗談か分からないようなキスをしたからと言って、リヴァイ室長ともあろう人が私ごとき女を好きになるなんて事は、地球がひっくりかえっても起こるはずが無い。

ーーそう、無い。

一々気にしている自分が馬鹿らしく思えた。