人の温もり

「やけに大人しいじゃねぇか。クソでもしてぇのか?」

大阪出張の一日目を終えて、レンタカーの助手席で外を眺めていた私に向かってリヴァイ室長が静かに言った。

仕事人間であるリヴァイ室長は、全くもってプライベートを仕事に持ち込むことなく仕事に専念していた。それは一社会人としては当たり前の事で、誰もがこなさないとならない術だった。
けれど、大抵の大人はそんな事ができなかったりする。自分のプライベートに問題があると、それが仕事にさえ影響を及ぼすかの様、ミスをしたり心在らずだったり。本来はそんな事許される事ではない。ましてやこの仕事人間であるリヴァイ室長にそれを悟られでもしたらそれこそ今すぐ東京に帰れ!とでも怒鳴られるんだって。だから頑張った、物凄く。

「疲れました、リヴァイ室長。」
「…なにがあった?特別に聞いてやる。」

スッと伸びてきたリヴァイ室長の腕。見ると、赤信号で、初めて家まで送って貰った日に同じように私がリヴァイ室長の髪を撫でたっけ。
ちょっとだけキュンとしたのに気づかないフリをして私は小さく息を吐き出した。

「リヴァイ室長に謝ってもいいですか?」
「なにをだ?」
「この前、偉そうに恋愛について言ったことを。」
「はっ、なんだ、それか。どうした?らしくねぇな。前回の威勢はどうしたよ?」

ちょっと面白ろ可笑しいって顔で笑うリヴァイ室長はご機嫌だ。

「…最低なんです、私。アルミンの気持ち、もて遊んでる。」
「ほう。」
「向き合うって決めたんです、これでも。」

アルミンの気持ちを分かっていながら、受け止める勇気もなくて。でも手放したくはなくて。できれば今のままの関係でいたかった。会いたい時に会って抱き合える、それだけの関係。でもアルミンはその先を望んでいて…

「オイ、馬鹿が、何泣いてやがる。」
「どうして私にあんな事したんですか?リヴァイ室長… 」

自分に余裕がないとどうして人に優しくできないのだろうか。馬鹿な関係は止めるべきだと頭では分かっている。アルミンの為にも止めるべきだって。
何をそんなに拘っているのかももう分からない。

「どうすればいいの?私。」
「オイ、名前、落ち着け、」

気づくと車は停まっていて、運転席のはずのリヴァイ室長の腕の中に包まれていた。
この前も思ったけど、リヴァイ室長は小柄なのに筋肉がすごくて、その温もりはとても温かい。
口ではいつも冷たくしていても、この人の心は温かい。きっとリヴァイ室長のプライベートになにかあったとしても、この人は平然と仕事をこなすんだと思う。

「ズルいよ、室長。私は室長みたいに冷静でいられないんです。」
「ああ、悪かった。お前を悩ませるつもりではなく、いやそうでもねぇか。」
「リヴァイ室長が何考えてるのか全然分からない。私はね、アルミンにもう何度も抱かれてるの!そーいう汚い女なの。」
「止めろ、もうそれは。もっと自分を大事にしろや、名前。そんな安売りすんじゃねぇ、」

そんな優しい言葉をくれたリヴァイ室長の指がやんわりと私の頬に触れる。そのまま唇を指で謎るそれがそっと唇を開く。
リヴァイ室長の視線がゆっくりとそこに落ちるのがスローモーションの様に見えて、目を閉じて近寄るリヴァイ室長がとても綺麗で涙が零れた。

ーー二度目のキスは、涙味でしょっぱかった。


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