初 恋
「…え、」
あきらかに困惑した名前の表情と声。そりゃそーだろ、言葉を放った俺ですらよく分かってねぇ。なんでそんな言葉が口を継いで出てきちまうのか。
「悪いが名前。俺も分かってねぇんだ。けどお前見てっとほおっておけねぇし、なんとかしてやりてぇと思っちまう。アルミンとの話なんざ専ら耳に入れたくねぇが、名前の苦しむ顔はもっと見たくねぇ。」
目の前の名前は俺が言葉を紡ぐ度に涙は止まり、どんどん頬を紅く染めていく。俺にしがみついていた名前の腕がそっと離れていくのを寂しく思うなんて。
「リヴァイ室長、あの、」
「なんだ」
「私以外の女にはキス、しないの?」
「当たり前だろ、さっきも言ったはずだ。」
「じゃあ私以外の女に触れるのも?」
「気持ち悪いことを言うな、するわけねぇだろ。」
そこまで言うと名前は何故か顔をしかめる。困ったような、なんとも言えねぇその表情すら見逃したくねぇ程に。見つめる名前の表情はくるくると色付いていて、不意に離れた腕がまた戻ってきて「抱きしめて、」甘くそう言うから秒で名前の腕を掴んで抱き寄せた。
狭い車の中で服が擦れる音と、俺たち二人の息遣いが響いていて…「馬鹿ですね、リヴァイ室長。」なんて名前の声に「何の話だ、オイ。」顔を覗き込むと真っ赤な顔で呟いたんだ。
「初恋ですか?私に。」
名前の言葉に分かりきっていた心のモヤがスーッと晴れていくような感覚で。自分できっとこれは恋だと思いながらもそれを受け止めきれていなかった俺に、名前の言葉が鮮明に届いたなんて。
「初恋か…そうだな、そうかもしれん。」
妙に納得している自分がそこにいた。
ただ、当の本人は困った顔をしているわけで。俺の気持ちが名前を困らせているのは不快だ。
「別れろよ、アルミンと。」
問題になっている事を再度口にした。この女は俺以外の男にすら抱かれてしまう。そんなのこれ以上は御免だ。自分が名前を好きだと認識した今、アルミンは邪魔な存在でしかない。
「どこがいんだ?アルミンの。」
よっぽど俺の方がいいと思うが、なんて自分で言えた義理じゃねぇか。ましてや、今までろくな付き合い方もしてこなかった俺が言えた義理でもねぇ。頭では重々承知だ。頭では…
「名前、こっち向け、」
俯く名前の頬に手を触れるといとも簡単に俺を見上げる。迷うことなく口付けると、ちゃんとキスに答えるように舌を絡ませる名前を、今すぐ自分だけのものにしたいと願うけれど無理な話。…存分に舌を絡ませて歯列をなぞって唇を甘噛みしてからちゅっとリップ音をたてて名残惜しく唇を離す。少しだけ乱れた呼吸を整えるように名前が息を吸い込むのが最高に可愛い。だからぽんと、名前の頭を撫でてやると名前がまた少し困った顔で俯くんだ。
だからなんとなく分かった。このちょっとした触れ合いの深さが。多分俺はあの時名前にこうしてぽんとされたのがキッカケで名前を意識するようになったんだと思う。今までそうされた事も、誰かにそうした事もなかった。そんな俺を一瞬でそうさせる名前は、ある意味すげぇと思った。
ーー恋なんて、そんな単純なことで始まるもんだとちょっとばかし笑けた。
「リヴァイ室長、ダメ。もうキスしないで、」
「断る。」
「じゃあ舌入れないで、止まんなくなるから…」
「はっ!尚更無理だろ。いいじゃねぇか止めなくて。全部俺に預けちまえよ、な?」
ポスッと俺の手を名前の頭に乗せてそのままそちらを向かせるとやっぱり頬は紅く染まっていて。その高揚した顔にたまらなく疼いたんだ。
もう一度名前を捕まえて顔を寄せる俺に、小さく呟いたーー
「アルミンに逢いたい…」
泣きそうな顔で小さく言った名前に、何もできなくなった。