手に入れたいのに
◆◇◆
名前が俺の班に来たのは偶然だった。そこそこ仕事ができる、では到底務まらねぇだろうリヴァイ班に、まだ小便くせぇ若手が入るなんて事今まで一度も許可してはこなかった。ケツを拭くのは俺だから、面倒くせぇ事に巻き込むような女は放っから求めちゃいねぇ。その点は問題なさそうだと思ったのはコンペの打ち上げの時だった。
ほとんど終わりかけたそれに顔だけ出すかと出向いた飲み屋では、ハンジんとこのアルミンが童貞だってからかわれていて、酒も相当飲まされて酔い潰れたアルミンを抱えて歩いて行った先は駅裏のホテル街。飲みの席でも名前は顔色一つ変えずに淡々と過ごしていた。なんか分かんねぇが肝が据わってるんだと思えた。
そんな事があった少し後、社内で見かけたアルミンは顔つきがガラッと変わっていて…あぁ、名前がオトコにしたんだと理解した。それからのアルミンはハンジに聞くだけでも功績を挙げて営業部の耳にも入るくらいで。アルミンをそうしたのは名前だと勝手に確信していた。だから社内でアルミンの名前を聞く度にチラつく名前を自分の元に起きたくなった。だがそんな事に私情を挟む事もできず、悶々とした日々の中、突然エルヴィンに呼ばれて行った先、名前の話があがった。チャンスしかねぇと俺は一つ返事で名前をリヴァイ班に迎え入れた。
簡単に手に入るとは思ってねぇ。
だが、手に入らないなんて事も思ってねぇ。
なんとしても、手に入れてやる。
◆◇◆
結局、自分の気持ちも伝えられる訳でもなく、仕事重視の大阪出張が終わりを迎えた。
本当なら社に戻ってエルヴィンに報告という所だが、気を張っているんだろう名前は酷く疲れた表情で。
「家まで送る」
そう言う俺の言葉に無言で首を横に振るだけだった。
「お疲れ様でした」
深く頭を下げた名前は、きっとそのままアルミンに会いに行くのかもしれねぇ。
頭ではその細い腕を引き寄せて抱きしめているというのに、俺の身体は鈍りみてぇに固く動いてくれねぇ。
「名前、」
辛うじて出た声に振り返った名前は「はい?」あくまで業務的に俺を見た。
「いや、いい。ゆっくり休めよ」
「…リヴァイ室長、」
車の窓枠に手をかける名前は少し潤んだ瞳で俺を外から見下ろしていて、ふと視線をずらそうとすると、足がガクンとしてそのままその場にぶっ倒れた。
「オイ!!!」
慌ててドアを開けて名前を抱き上げると、身体から湯気が出るんじゃねぇかってぐらいの熱で。
「具合が悪かったなら言えよ、」
「だって、迷惑かけると思って…、」
俺の腕の中でぐったりした名前が小さくそう言った。
そのまま後部座席に寝かせて俺は運転席に戻ると車を走らせた。
安全運転で超スピードで俺は名前の住むアパートまで車を走らせる。本音を言うならこのまま俺のマンションに連れて帰りたい。
けど…ーー
「名前っ!?どうして、」
案の定、想像通り名前のアパートにはアルミンの姿があった。
まるでそこは自分の居場所だと主張しているようなアルミンは、熱でおぼつかないフラフラな足元の名前をしっかりと抱き留めた。
「知恵熱だろう。ゆっくり休ませてやれ。」
「あのっ、リヴァイ室長!」
「なんだ」
「…ありがとうございました。…それから僕達、一緒に住むことにしたので。今後一切名前には、」
「安心しろ、こいつはただの部活だ。」
言葉を遮ったのは、それ以上アルミンと名前の事を聞きたくなかったからだ。
「らしくねぇなぁ、クソが。」
この感情がなんなのか、分かっていながら分からないフリをした。